変異オーガ④
使えそうな魔法のうち、単純な攻撃魔法は、たぶん駄目だと思っている。
何度も使える直接的な攻撃魔法はそこまで威力が無いので、やるなら威力優先の一発になるんだけど、そうなると消費が重くて失敗したときが怖い。
補助的に魔法を使うのであれば、ボスオーガの足元に穴を掘り、落してやるのが正解だろう。
この方法ならボスオーガを直接狙う訳ではないので、魔法に抵抗されて失敗するというリスクが無い。
難点は、穴に落としたとしてもボスオーガが這い出てくる事だけど。
穴を掘った時に発生する岩でも使って埋めてやれば、多少は時間を稼げるのではないだろうか?
可能であれば、ひっくり返した状態で埋めるだとか、ついでに穴に熱湯でも流し込んでやれれば最高なのだが、さすがにそれは無茶……でもないか。
ひっくり返すのはともかく、熱湯は大気中の水分を集めて加熱するだけなので、そこまでコストが重くない。そうやって集めた水は、飲み水には使えないけど、熱湯攻撃になら使えるのである。
冒険者時代のダンジョン泊では、持ち込んだタオルを熱湯に浸し、汗を流したものだ。
……風呂? さすがに、駆け出し冒険者時代にそこまで魔力を消費するのはキツいから、そこまではやらなかったよ。
他にできそうな事と言えば、風を使って粒子の細かい砂を操る魔法で、ボスオーガの口の中に砂を塗ってやる事とか。
アレはなかなかエグく厭らしい魔法で、酸素が必要なモンスターに上手く決まれば、相手はまともに呼吸できなくなり、一瞬で勝負がつく。
風を使うので口の手前ギリギリで気が付かれる事が多いし、相手がくしゃみをして失敗する事もあるので成功率が高くないのが問題だけど、気管支への攻撃は決まれば強いよ。
ダメージではなくかく乱と言うなら、大きな音を立てるというのも有効な手段だな。
魔力で周囲の様子を確認するような超感覚ぐらいは使っているだろうけど、それでも大きな音を立てる魔法って、地味に無視されないからな。
魔力の消費と威力を考えると、現実的な選択肢はこれぐらい。
あとは普通に剣で切り、拳で殴るだけだよ。
光織たちはというと、光織がナックルバンカーを使用済み。腕をやられてバトルクロスを装着中の六花は参式パイルバンカーを片方使った。晴海はまだまだ余力あり、と言ったところ。
他に特殊な装備は……バトルクロスに、ちょっとした仕込みがあるぐらいか。
木星帰りの男が乗るロボに使われていた『隠し腕』という、複雑な操作はできない、第三の腕。
つばぜり合いの時にちょっと状況を動かすのに使えるかなと仕込んであったものだ。
敵の意表を突く不意打ち用の仕込み武器であり、ボスオーガ相手ではパワーが足り無さそうである。
仕込み武器にパワーとか、期待する方が間違っているかもしれないし、意外と使えるかもしれないので、少しぐらいは意識しておくか。
つらつらと考え込んではいるけど、現在は戦闘中だ。
俺たちはパワーアップしたボスオーガの猛攻を凌いでいて、わりとピンチである。
攻撃に対しカウンターを仕掛けてはいるものの、決定打には程遠い。
カウンターは相手の攻撃に合わせて行う攻撃なので、武器で攻撃を防がれる事は無いんだけど、結局は能力でダメージを無効化されるので、通用していない。
正直な事を言えば、ちょっとだけ期待していたのだ。
能力を使わせまくっていれば、いずれ回数制限、魔力の残量が足りなくなって能力を使えなくなるのではないかと。
しかし現実にそんな甘い話はなく、ボスオーガの能力は未だに健在。
つまり、ボスオーガの魔力の貯蔵は充分であったようだ。畜生め。
状況が膠着すると、戦闘でもなんでもそうだが、相手のミスを待つような展開になる。
痛い、苦しいのはお互い様。あとはそれに耐える、我慢比べ。
もちろん、俺たちはこの我慢比べに勝つつもりでいた。
だが。
「光織!?」
先に脱落者を出したのは、俺たちの方だった。
俺たちはボスオーガと2対1を二組作るように戦っていたのだが、突然抑えに回っていた六花を無視して、光織へ攻撃を集中させたのだ。
光織はボスオーガ二体分の攻撃を捌き切れず、こん棒による胴打ちの直撃をくらう。
とっさに腕を挿し込んだものの、腕でダメージを抑えきれるものではなく、胴体に深刻なダメージを負い、どう見てもリタイアであった。
ボスオーガも相応にダメージを負ったが、光織のダメージほどではない。
こちらの攻撃を受ける事を前提に行動された分、致命的なダメージを受けないように立ち回られたのだ。
腕の一本でも切り落としてやりたかったが、鎧を壊し、腹に剣を深く突きさすのが精一杯であった。
「光織は下がっていろ!」
これ以上のダメージは、許容できない。
ここは無理をさせる場面ではない。
だから光織を下げて、ここからは三人で戦う。
それが厳しい戦いになると分っていても、そうするしかなかった。




