変異オーガ②
六花はバトルクロスを装備しているため、ボスオーガに体格で引けを取らない。
よって、六花はそのままでも敵の意識を向けられるタンクとして機能する。
俺の場合は声を上げ、殺気をぶつける事で敵の気を引けば良い。
あとはやや隙のある、出来るだけ派手な立ち回りでボスオーガが攻撃したくなるように振る舞うと、より注意を向けられた。
光織と晴海は不意打ちでダメージソースとなるように戦うが、そちらはなかなか上手くいかない。
一度きれいに攻撃を決めてしまったので、敵も完全に意識を外してくれず、致命の一撃が出ない。
戦闘は、膠着し始めていた。
この戦い、体力的には、こちらが不利だ。
まだ動けるけど、俺は雑魚戦で体力を消耗したので、それなりに疲れている。
ボスオーガは体格に見合った体力を持っているだろうから、持久戦に弱いなどという都合のいい話は期待できない。
光織たちは余裕があるけど、それでも長時間戦闘はあまり良くない。
関節など、体の各部に疲労が溜まれば、そこから壊れる可能性がある。金属の疲労も休みながらより連続稼働のほうがリスクが高まるのだ。
俺が軽めの攻撃で敵の攻撃キャンセルを誘発させていると、ドン、という爆発音が聞こえた。
見れば六花がボスオーガに蹴りを放ち、そこから参式パイルバンカーを撃ったところだった。
参式パイルバンカーは、撃たれたボスオーガの腰のド真ん中を貫いていて、それが致命傷になって、ようやく5体目のボスオーガを撃破できた。
「六花、ナイス!」
「ごっつぁんです!」
たかが一体、ではない。
その一体で戦闘の均衡が崩せたのだから値千金、ダメージディーラーではないタンクによる撃破だから大金星だ。
これで楽になる。
……普通は、そう思うよな?
「チィ! また強くなった!?」
ここにきて、ボスオーガは更に強くなった。
基本スペックはそのままだが、明らかに技量が上がっている。
これまで通用した攻撃が、例の謎能力ではなく武器戦闘の技だけで防がれ、能力を使わせるに至れない。
「戦闘のっ、最中に強くなるにしては、おかしいだろ!」
もしかしたらだが、こちらが敵を倒す事でボスオーガもレベルアップしてるのかもしれない。
そう言いたくなるぐらい、戦闘の難易度が上がった。
数が減って楽になると思ったのにその考えを覆されて、あまりの理不尽さにテンションが下がる。
付け加えるならば、ラスト一体になった時が怖い。
数を減らすと強くなるのなら、最後の一体になった時、ボスオーガがどれぐらい強化されるのか分からないのだ。
運が悪ければ、手に負えなくなる可能性がある。
つまり、それを防ぎたければラスト二体をほぼ同時に撃破する事が求められる。
かなり強化されたであろうボスオーガを、だ。
「それって、なんてヘルモード?」
「リアルダンジョンのヘルモードです」
「知っているのか、雷ーー光織!?」
「そのままなんだよ! 見たまんま!」
この苦境で何か言えば、打てば響くように返ってくるネタ発言。
思わず口の端が持ち上り、焦る気持ちに待ったがかかる。
「紅い月も出てないなら、勝てる勝てる! ここ、ダンジョンだから月は見えないんだけどなぁ!!」
「サテライトキャノン、発射不可! 搭載していませんが!」
「月匣は展開されていません! いえ、最初からダンジョンでした!」
「……うわぁぁん! 先に使われた! 先に言うなんて、姉さまはズルい!!」
……ここでズルい系妹か。新しいボケかただな、おい。
晴海のセリフで戦闘の緊張感が削がれたが、いい感じに脱力できたと思っておく。
意識を戦闘に戻す。
同時に三体は流石に無謀だ。
同時撃破は二体が上限だ。それ以上は狙わない。
残すのは、俺がスプレーで目にペイントしてやったボスオーガだ。
眼球の汚れは、レベルアップしようが消えるものではない。ゲームのように、レベルアップで完全回復とはいかないのだ。ペイントはまだ有効である。
再戦する七英雄のように、できるなら弱めのを残しておきたい。
と、なると。他の三体を倒さなければいけないのだが。
「結局、やることは何も変わらない」
落ち着いてしまえば、そんな結論になる。
敵が強くなるのは防げないだろう。だから手順が面倒になって、難易度が上がって、より疲れる戦いになると。それだけなのだ。
ピンチの連続だけに、這い寄る混沌の策謀かと嘆き、ウルトラマンガイ○にヘルプを求めたくなるが、まだ自分たちの力だけでなんとかなる範囲なので、他に頼らずどうにかしよう。
「手は綺麗に。心は熱く、頭は冷静に」
どこかのゲームで言われている戦闘の心得を呟き、脱力しながらも目の前の敵に対峙する。
防がれると知りつつも、俺は剣を振るった。




