変異オーガ①
雑魚オーガを倒すと、死んだオーガが黒い魔力の霧になって消えていく。
死体が消えていくのは、足元が死体だらけ、血だまりなどにならないので助かるんだけど、死体をバリケードにすることも出来ないので、それも善し悪しだと思う。
「あと……少し!」
武器はすぐに壊れてしまうので、落ちていた物を何度か回収した。
自分の武器じゃ無いから扱いが雑だったとかでは無く、彼らの武器はオーク用で、オーガに対応していなかったという話。
オーガの筋肉は、オークよりも固くて詰まっているので、武器への負担が大きいのである。
自分の武器を一組残してあるが、それはボスオーガ戦まで使わずに済ませるつもりだ。
さすがに、面倒なボスオーガにまで借り物の武器で戦うほど無謀じゃないよ。
ようやく全ての雑魚オーガを倒すと、入り口近くで何もしていなかったボスオーガがゆっくりとした足取りでこちらにやってくる。
ニヤニヤとした表情をしていて、どこか余裕を感じさせる態度が気になった。
ただ、こちらも余力は残している。
展開は悪くなかったので、こいつらを倒すだけならなんとかなる。
そのはずだったのだが。
「え?」
遠目には分からなかったが、ボスオーガたちの肌が黒く変色していた。
広間はそこまで明るくなかったので、気が付くのが遅れたようだ。
ただ肌の色が変わった、という話ではない。
ボスオーガの凄み、感じられる魔力の量が明らかに以前と違っている。
方法、理由は分からないが、ボスオーガがここまで参戦しなかったのは、このパワーアップのためだったのかもしれない。
「あ、あはは。これは失敗したか?」
あの時は、これが最善の方法だと思っていた。戦術的に間違っていないと、そう判断した。
たぶんもなにも、また同じ状況になれば、同じ選択をしたと思う。
この、パワーアップしたボスオーガを見ていなければ。
「ふー」
選択肢を間違えた。
だが、俺は今生きていて、まだ死にたくなくて、足掻くつもりでいる。
だから後悔を息と一緒に吐き出し、気持ちを切り替え、目の前のモンスターをぶっ殺すと気合いを入れる。
そうだ。死にたくないなら、足掻くしかないんだ。
「初手を――」
敵が強くなったのだから、様子見で戦力を測るか、相手が何かする前に速攻でねじ伏せるしかない。
敵の数が7体と多いので、まずは数を減らそうと決めて指示を出そうとしたのだが、誰よりも早く六花が動いた。
敵の目の前に踏み込んだ六花は大きな動きで、遠心力を最大限に利用した強力な横薙ぎを行う。
攻撃後に隙が出来るので、ここまではやってこなかった一撃だ。
六花はバトルクロスを装備しているので、ボスオーガといえど、直撃すれば大ダメージは必至。
小兵の俺たちとは明らかに違う、オーガよりやや背が高い六花の攻撃は。
「止め……られたか」
素手で受け止められた。
武器の質量と運動エネルギーを考えれば、ボスオーガは吹き飛ばされていなければおかしい。
体を揺るがせずに攻撃を受け止めるというのは、漫画などではよくあるシーンだけど、地面の強度とかいろいろな問題で、物理的に不可能なのだ。
それが出来たという事は、魔法的なパワーでそれを成しているという事。
あの肌の黒さは、魔力の表れだった。
六花の攻撃を受け止めたボスオーガは、手にしている剣でそのまま六花に反撃の一撃を入れようとした。
だが。
「でも、不意打ちには対応できない、と」
六花に隠れるように動いた晴海がボスオーガの顎下から脳天を貫き、さっそく1体倒してくれた。
彼女らは無言のやりとりで、きっちり連携を決めてくれたのだ。
三人の真骨頂は、単独での戦闘ではなく、チームでの連携。それが見事に嵌まった形だ。
相手は、普通の状態よりもかなり強くなっていた。
しかし頭の出来はそのままのようで、そこまで賢くないように見える。
今もこうやって油断して、強くなった力を振るう前に倒されているのだから。
「残り6体! 強かろうが、無敵じゃない! 全員で勝って、全員で生き残るぞ!!」
敵の能力の詳細は不明。
とりあえず、真っ正面からの打ち合いはダメージに繋がらない、敵の意識の外から攻撃すればダメージが通る。それだけ理解しておけば良さそうだ。
剣を振るわず少し落ち着いた状態でいたから気が付いたが、今の俺は大量にオーガを倒したことでそれなりにレベルアップしているようだった。
おかげで体の動きが良くなっているし、魔力の方もやや回復していて、二割強が残っている。多少、身体能力強化のギアを上げても問題なさそうだ。
だから声を上げて、自分の勝利を信じる。
信じることで、自分の中の潜在能力とか色々と、無理にでも引き出す。
心を折らず、勝利を信じる事。それを言葉にする事。それらには力がある。
奇跡を起こす何かがあるのだ。原始的な魔法と言うか、願いを叶えるための儀式のようなものだ。
だから俺は叫ぶ。
「ぶっ殺す!!」
俺が派手に戦い、意識を向けさせ、注意を引く。
止め、決定打は任せたぞ。三人とも!!




