俺はこうしてロボットに手を伸ばす
人員不足の自衛官に冒険者。
ふと思ったのだが、その人員不足解消に『原神』は使えないのだろうか?
格闘技のモーションを再現できるなら、ゴブリンしか出ない不人気ダンジョンぐらいは……ゴブリンをどうにかできても、コストに見合わない?
いや、人を雇うよりは安くなる。
モンスターと戦えるロボットは、産業になるんじゃないだろうか。
真面目な話、ゴブリンは弱いので、ある程度調整すればだけど、原神ならゴブリンを倒せるようになると思う。
俺が管理するダンジョンのように洞窟タイプであれば、槍を持たせて目標に向かって突くだけでいいから、システムへの要求はわりと現実的なラインだと思う。
今の時代の画像認識ソフトであれば、ゴブリンを認識するぐらいは余裕じゃないか?
モンスターは死んだら死体も残さず消えるので、変に騙される事も無いだろう。
ドロップアイテムの回収も、オートマチック。不人気ダンジョンの問題って、これで解決するんじゃないだろうか。
あれ? 意外と良い考えじゃないか?
初期投資こそ莫大な金額になるかもしれないけど、一度流れができれば、ロボットが不人気ダンジョンを攻略し、人はその管理だけすればいいとか、そんな流れもできるんじゃないだろうか?
人を育成するコストより、ロボットを作るコストの方が計算しやすい。
それは計画を立てやすいという事であり、人の負担を減らす役に立つと思う。
あとはランニングコストがどれぐらいになるかがネックだけど、これはこれでやってみる価値があるんじゃないだろうかと思う。
いや。
一番のネックは経済的な側面や技術的な話ではなかった。
最大の問題は、戦闘用ロボットが法的に許容されるかどうかである。
将来のためだと力説しようと、「法的にアウトならやってはいけない事」となるのである。
そういう目的でロボットを使っていいのかも含め、今の法律ってどうなっているんだ?
そこら辺は調べようと思った事も無かったな。
これは俺が考えても仕方のない問題なので、一度、及川准教授に話をしてみるか。
それと可能なら原神を数台、俺用に販売してもらえないかも確認したいな。
及川准教授に電話をして、簡単に要求を伝えてみる。
ダンジョンで原神とゴブリンを戦わせてみたい。
私的利用だから個人所有したい。そのための資金を提供するので、複数台の生産は可能なのか。
もしもこれを事業としていくのなら、こちらの所有するダンジョンを研究のために貸し出してもいい。
大雑把に言うと、こんな感じ。
「――私の一存では、なんとも言えません。他の、協力している方々とも協議して決めたいと思います」
及川准教授は、思った通り苦い顔をして、こちらの意見を保留した。
そりゃ、目的外の事に使われるとなればいい顔はしないよな。
法的には問題ないそうだけど、やりたくは無さそうな顔をされてしまったよ。
俺の思った通り上手くいけば、原神はレスキュー隊員ではなくダンジョンの安定化を目的とした冒険者としてデビューする事になる。
不動の最弱種と言われるゴブリンとは言え、市街地に出没するようになれば被害が出る。
それを未然に防ぐのであれば、原神はある種の人助けロボットになる。
「人ではできない仕事をする」か「人がやりたがらない仕事をする」のがロボットの役目なら、間違った使い方ではないはずだ。
ただ、だったら納得できるのかと言われると、納得は出来ないだろう。
ナックルバンカーのようなお遊び機能――ロマン装備はあるものの、原神はあくまで、レスキュー目的で製作された物。モンスターと戦う訳ではない。
下手をすればそのまま兵器に流用され、どこかの戦場に投入される未来も予想される。ダイナマイトと同じ流れだな。
レスキュー隊員として働き始めたとしても、いずれは戦争に投入される未来はあり得るし、原神よりもドローンを戦場に投入する方が先だろう。
色々と制約のある日本の冒険者事情だから、人型ロボットのダンジョン投入が選択肢に上がるのだ。
アメリカなんかだとドローンに機銃を付けてゴブリン駆除をやるようなお国柄だしな。原神の出番は無いだろう。
実利を取るなら、俺の提案は受け入れるべきだろうと思う。
少なくとも、モンスターに怯える人が減るわけだから、人の命を守る仕事に変わりはない。
ただ、手段がバイオレンスなだけで。
その手段を受け入れられるかどうかは、俺が何か言う事でもない。
及川准教授と、その協力者たちが決める事だ。
言いたい事は言った。
あとは結果を粛々と受け止めるだけである。




