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異常事態④

 深夜の3時ぐらい。

 さすがに追跡者たちも疲労が溜まってきたのか、足が遅くなってきたようだ。

 相手にしてみれば、補給物資も無く、いつ休めるかも分からない強行軍。精神的な圧迫感から疲労の溜まりは戦闘している俺と比較しても小さくなかったわけだ。


 こうなれば俺も安心して先に進める。

 余計な荷物が減ったことに安堵し、俺は予定通り、ダンジョン最奥の一歩手前を目指すのだった。





「はぁ、疲れた」


 余計な荷物(付いてくる連中)がなくなって身軽になった俺は、予定通り、5時ぐらいにダンジョン最奥の手前にたどり着いたのだが、そこからが大変だった。

 これまで倒されること無く放置されていたオーガの物量はすさまじく、予定外の長時間戦闘を強いられた。


 戦闘時間は、およそ3時間。

 眠らず戦っていたので、そろそろ限界であった。


「すまん、落ちる」


 予定通り、3時間の仮眠を取るつもりだったが……自力で起きられるかどうかは不明である。

 そんな状態の俺は、三人に寝ずの番を頼むことになるが返事を聞く事も出来ず、頼むだけ頼んで意識を失うのだった。





「くぅ。もう起きないとな」


 スマホのアラーム、音を出したくなかったのでバイブにしてあったのだが、それで目を覚ました。


 寝起きで半覚醒の頭を再起動するため、通常の半分のお湯にスティック一本を投入した、濃い目のコーヒーを口にする。

 溶け切っていない粉が舌の上に乗って、強い苦味を感じた。



「やれやれ。もう現役じゃないって事かな」


 意識が覚醒すると、己の不甲斐なさを自覚する。


 史郎たちと組んでいた頃の俺であれば、これぐらいの強行軍で倒れるように眠る事など無かっただろう。

 あいつらと別れてから数年。ダンジョンで無理をしない攻略ばかりしていたので、鈍った体は無理がきかなくなっていた。


 当時は上を目指すためにけっこうハードな生活をしていたからな。一徹ぐらいは普通にやってたんだよ。





「三人とも、背中を向けるように」


 頭が目覚めたところで、一度全裸になって、ペーパータオルで体を拭く。

 この手の行為を軽視する奴も多いけど、衛生状態を気にする事でメンタルをいい状態に保てるし、その後のパフォーマンスの向上を狙える。

 日帰りの予定ということもあり流石に着替えは持ち込んでいないけど、サッパリするのは大切なんだ。

 状況に余裕があるなら、やらない手は無い。



 なお、光織たちの目にはカメラが仕込んであるので、後で映像記録を見るときに俺の裸体が映り込んでいたら最悪である。見るのが男であってもセクハラで訴えられる。

 そんな事故を起こさないよう、三人の視線は外に向けておいたよ。

 と言うか、彼女らに見られるのも恥ずかしいからね。見られないようにするのは、訴えられる以前に当たり前の話である。





 体を拭いてスッキリしたところで、朝飯だ。

 昨日も食べた、腹の膨れないシリアルバーである。

 不味くはない、むしろ美味しいはずの食事でも、こればかりというと美味しさが半減するし、楽しめない。

 非常時に食事でメンタルを削られるのは良くないから、今後の改善は絶対に必要だと強く感じた。


 朝イチでコーヒーを飲んだので、朝食のときには白湯で我慢する。

 ちびちびとお湯を飲みながら、自身のセルフチェックを行う。


「本調子にはなってないけど。ま、問題は無いね」


 コンディションは悪くない。

 良好と言うほどではないが、十分に戦えると思う。

 これなら、居るかもしれないこのダンジョンのラスボスとも渡り合えるだろう。



「居るとしたら、オーガ系の上位モンスター。

 オーガファイター、オーガメイジに統率個体が混じるパターンが鉄板だよな。

 ああ、ゴブリンアーチャーとかが居ても不思議はないか」


 これは想像になるが、よくあるダンジョンのパターンから推測すると、奥ではボス戦になる。

 そうなるとダンジョンに出てくるモンスターを強化したボスモンスターが待ち構えているので、敵戦力を大体予想できる。


 ここまでゴブリンとオーク、オーガが出てきたので、ボスはそれらの上位モンスターだろう。

 いい装備をしていたり、ジョブ持ちと言われる個体が出てくるのが常である。


 施されるのは単純な強化であるが、単純だけに厄介である。

 単純な強化ほど厄介な強化はない。「レベルを上げて物理で殴れ」は、モンスターにも言える事なのだ。



「俺が正面を受け持つ。後方への速攻は任せた」

「御意!」


 よって、こちらも正攻法で挑むのみ。

 小細工抜きの総力戦で押し勝つ。

 俺は、俺たちは生きてダンジョンから帰るため、居るかもしれない、居ないと助かるボス戦に向け簡単な打ち合わせをすると、立ち上がり先に進むのだった。


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