異常事態③
モンスターよりも人間が厄介なこの状況。
暴力で解決したらいけない状況って、本当に厄介だ。
ある程度距離を取られているので、俺が戦っているオーガを押し付けるといった戦術も採りにくいし、後方からオーガが来ようものなら、連中はむしろ俺になすりつけに来るだろう。そうなったら最悪である。
なにせ、俺はオーガと戦っても余裕があるが、彼らにそんなものは無い。
そうなると、俺には彼らを保護する義務が有るように見えてしまう。
実際にはそんな義務など発生しないのだが、それで騒ぐ人間がいるのはいつの時代も同じ。大衆は、自分たちに都合の良いようにストーリーを組み立てるのだから。
そこに法やモラルなど存在しないのだ。
一番良いのは、横道からモンスターが現れ、俺たちと彼らを分断してくれる事。
もしくは、何事も無く最奥にたどり着く事だろう。
……それが無理だというのは、俺が一番よく知っているんだけど。
「はぁ。保険の飯も、もう少しまともなものを用意しておくべきだった」
こうなると、食事に時間をかけるのは悪手である。
移動しながら、俺は夕飯をとるのが正解だ。
俺はチョコレートのシリアルバーを囓りながら、ブラックコーヒーを飲み、ぼやく。
いざって時のために用意したのは、嵩張らない食料だ。
そうなると、高カロリーな甘い物が主力になる。塩レモンの飴もあるので食後に口直しは出来るが、割と辛い。
甘い物が嫌いというわけでは無いが、そればかりというのは辛いので、効率を度外視してコーヒースティックも持ち込んでおいたので、まだマシなんだけど。
やっぱり、自衛隊ご推薦の「非常食なのに美味いミリ飯」シリーズにでも手を出すべきだったか。
「まぁ、そんな事をすれば荷物が嵩張るからやらないんだけど」
それでも、非常食の出番があると思っていなかったのは痛恨のミスである。
今後を考え、ダンジョンに持ち込む非常食についても真剣に検討するべきか。
ここを出たら、皆にも相談してみよう。人間の胃袋は小さいから、多くを試そうと思えば、複数人で調査した方が良い。
個人ごとの味の好みなんかは、事前に話を聞いておけば特に問題にならないし。
なにより、みんなでわいわい話しながら飯を食うのは楽しいのだ。
……それが、気の合う仲間たちであれば。
後ろの連中は飯を食っている様子も無いけど。コーヒーの残り香に、どんな反応をするかな?
ダンジョン最奥までは、俺の足で移動し続けても時間がかかる。戦闘をしながらなので、あまり速く移動できないのだ。
歩く速度であれば体力も消費しないけど、走れば疲れるからな。弱かろうと敵と戦うっていうのに、そんな事はやってられない。
まだまだ先は長いので、体力の消耗具合も考えないといけないんだ。
こうなると、バトルクロスをリビングメイル化して長時間駆動に耐えられるようにしたのは、英断だったよな。これながなければ、途中でガス欠になつて、放棄するしかなかった。
今も動かせるから使っているけど、燃料の切れたロボなんて、ただの産廃だからな。持ち歩くものじゃない。
光織たちも魔法生物になっているから、ダンジョン内なら自然回復してこういった長時間行動に付いてきてくれる。
流石に動きっぱなしだとそのうち動けなくなるが、今の彼女らはあと一日ぐらいは戦えると、そういう自己申告があった。
次の休憩時間、その後の決戦までは問題なさそうだ。
低コスト、ノーコストの仲間というのは頼もしいな。
カフェインの力で眠気を軽減した俺は、後ろの連中をあぶり出すために、少しだけ無理をすることにした。
「三人とも。このまま、朝の6時まで移動を続ける。それで、最奥の少し手前にたどり着くはずだ。
そこで、一番キツい場所でだけど、俺は3時間仮眠をする。そのつもりで付いてきてくれ」
「ウィ」
「ヤー」
「り!」
寝る間を惜しんで前に進めば、後ろの連中の態度も分かるだろう。
今のまま声もかけずにこちらに付いてくるなら、盗賊モドキと見なしてかまわない。ある程度の常識があれば、声かけぐらいするものだから。不意打ちのために潜んでいると考えられる。
声をかけてきたなら、最低限の協力体制は築ける可能性もある。この場合は、死にたくないって考えで動いているだけだからな。無茶苦茶な理屈を振りかざしてくる場合は、見捨てるしか無いけど。こっちの集中力を散らされ続けるよりはマシだと思う。
後ろの連中がどれぐらいの覚悟で、どんな見通しを立てているのかは知らないけど。
こっちに余計な負荷をかけずにいてくれれば良いんだけどな。
……無理か。
こっちに負担をかけない選択肢は、入り口付近でおとなしくしている事ぐらいだし。
まったく。面倒だよなぁ。




