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異常事態①

 ダンジョンの奥に行くと、オーガのお出迎えだ。しかも団体さん。

 分かり切っていた展開なので、驚く事も無く、これを殲滅。


 その後も、自分とバトルクロスの調子を確かめるように動き回る。



 昨日使っていた剣は、消耗の関係でお休み。

 今回、こちらの得物(ぶき)ロングスピア(長柄の槍)。敵と距離を取って戦えるので、重宝している。


 ダンジョンに篭って長期間戦う時は、休息の時に武器のメンテをしっかりやっておくんだけどね。

 今回はそういった軽いメンテでは足りないぐらい刃が消耗していたので、予備の武器に交換したのである。



 敵の数が多く、踏み込み過ぎると囲まれるかもしれないので、中層と奥の間ぐらい、オーガが出始めるラインで戦闘をし続ける。


「踏み込まなければ……こんなものかな?」


 先に進めば、オーガは大挙して押し寄せてくるだろう。

 そうするとオーガが迂回路を通って後背を脅かし、こちらの手が足りなくなる。


 だがここで戦えば、後ろからやって来るのはオークのはずだ。

 オークなら他の冒険者が処理してくれるし、こちらに来たところでオーガよりは弱いので、楽に処理ができる。


 収入になるし、できるだけオーガを倒しておきたいが、変に色気を出して(金に目が眩んで)無理をする場面ではない。

 俺はインターバル(戦闘と戦闘の間隔)が長くなっても気にせず、着実に戦闘を熟していった。





「頃合いだ。そろそろ撤収だな」


 今日はお昼になったら撤収する予定である。

 そこで20分前になったら、その時の戦闘をラストにして、さっさと切り上げるつもりでいた(・・)


 これまでに倒してきたオーガは500を超え、今日だけでも200近いオーガと戦っていた。

 これだけ戦えばもういいだろう。俺はそのように考えたのだ。



「……ん?」


 オーガの集団。

 そいつらを処理する中で、俺は違和感を感じた。

 さっきまでより、今のオーガの方が弱い(・・)。目の前にいたのはオーガであったが、あまりにも弱いので、オーガをオークのように感じた。

 槍を突き刺すとき。穂先の刃がオーガの肉に突き立てられるその感触が、どうにも容易い。



「光織、六花、晴海。こいつらを急いで片づけるぞ」


 異変を感じたのだから、ここはダンジョンから逃げるのが最善だろう。

 ダンジョンに何か起きたとしても、それは俺の責任ではない。いや、誰の責任でもないと思う。

 ここに留まり情報収集するなど、あり得ない。


 それに最悪、ダンジョンが消滅して、中にいる俺たちはそれに巻き込まれて消えてしまう可能性すらあるのだ。

 ならば時は一刻を争い、悠長に構えている訳には行かなかった。





 最低限のマナーとして、戦っている最中のモンスターを駆逐し終えた俺たちは、速足でダンジョンからの脱出を試みる。

 だが、しかし。


「おい! 入り口がっ!?」

「嘘でしょ! どうやって出ればいいのよ!」

「入り口が、ここから消えただけで、他にある、かもしれない。探しに、行かなきゃ……」


 他の冒険者たちが、入り口があった場所で右往左往していた。

 ロボットに乗っている者が多数で、20人ぐらいは居た。


 俺は異変を感じて急いで戻ってきたが、何も気にせずまだ戦っている者もいるだろう。

 そして何人かはこの場に留まる事を止めて周辺の探索に向かっている様子なので、ダンジョン内にいる冒険者の数は、この2倍から3倍程度と思われる。


 そしてそのほとんどがオーガと戦う事すらしない、ダンジョンの浅いところで戦うロボット乗り(日帰り)の冒険者であった。





「状況は、最悪だ」


 ダンジョン内には、人間の食べ物や飲み物が発生しない。

 持ち込んだ物だけが有効で、持ち込みが無ければ飢えと渇きに耐えるしかない。


 ――もしくは、持つ者から奪うか。


 嫌な想像をしてしまい、暗澹たる気分になった。



 俺はこういった時に備えてという訳ではないけど、水や食料は余分に持ち込んでいる。

 戦闘中に攻撃を受け、駄目にされてしまうといった事態を想定しての事だ。

 よって、あと2日分は普通に飲み食いできる。


 成人男子の6食分が手元にあるという訳だが、言葉を返すと、推定60人で分け合える水と食料は手元に無いという話になる。



「最悪だ」


 俺は二度、「最悪だ」と口にした。

 人間、水と食料が無くなればどういった手段に出るか、想像すると悪い事しか思いつかない。

 なにせ、戦う力を持った冒険者の集団なのだから、荒事になるのは誰でも思い付く。


 入り口だった場所の近くで項垂れている連中はまだいいが、動き回っている連中の中には、少数で動いている誰かを襲って水や食料を奪おうと考えている不届き者がいるかもしれない。

 悲しい事に「生存権」を主張すると、それすら合法になるというオマケつきだ。

 理性を維持し、幸運に賭ける冒険者はどれだけいるだろう?





 俺は入り口だった場所を離れ、ひとり、思案する。


「面倒だけど、最奥まで行ってみるか」


 入り口が入り口でなくなったのだから、最奥が入り口になっているかもしれない。

 そんな単純な発想だが、動けるときに一番難易度の高い想定をクリアしておかないと、詰んでしまう。

 俺は光織たちを連れ、もう一度、ダンジョンの奥に向けて移動するのであった。

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