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自衛隊はこうして人が来ないままである

 元冒険者の視点は、あくまで一個人の視点にしかならない。

 俺の語る内容は、どこまでも低い所から社会を見た場合の意見だ。

 ネット上を漁れば同じ様な意見はどこにでもあるし、それらとの違いは“本物の冒険者の意見”という保証があるぐらいだ。


 視野の広い、上に立つ人間であれば、もっと違う言葉もあるんだろうけど。俺はそういう人とは違うし、そんな立場なんて不要だ。

 それに、変えたいと強く思うことも無いからな。

 冒険者ギルドと冒険者の関係、その現状に大きな不満はない。



 思うようにドロップアイテムを買えない及川准教授も、変わってほしいと願っても、自分で現状を変えようとは考えていない。

 地道な草の根活動など、できる事はあるけど、やろうとはしない。

 不満はあっても飲み込める、諦められる程度のものなんだろう。


 いや、優先度の問題か。

 及川准教授は人型ロボットの研究をしたいのであって、冒険者ギルドの改革とか対抗組織の設立がしたいわけではない。

 当初の目的(ロボット製作)を見失ってまで、別の問題(冒険者ギルドの改善)に取り組めるほどのリソースが無いとも言う。

 取捨選択、優先順位の問題っていう、これはそれだけの話でしかないな。



 及川准教授は自分や自分の身の回りの人間がダンジョンに向かうことを考えない。

 実行できるなら一番手っ取り早い、ドロップアイテムの入手手段に手を伸ばさない。

 一般的な視点では、それが無茶や無謀だからこそ、俺にもそういった事を望まない。

 もしそれを言い出せば、俺が言った、冒険者が毛嫌いする「現場を知らず勝手な事を言う上司」と何も変わらなくなると分かっているからだろう。


 それは俺がこれまでロクに話をした事も無い人間のために簡単に無茶をするような軽い人間ではないと、そういった性質を見抜いての事だろう。

 「多くを持っているのなら、少しぐらい分けてくれてもいいじゃないか」と考える人ではないのだと思う。

 だからこそ、ちょっとぐらい、少しぐらいは協力してみてもいい。

 


 俺は長話を終えると、一度家に帰ることにした。

 ここからどうするか、ゆっくり考える時間が欲しくなった。


 及川准教授の『原神』に協力するとしても、ただ出資するだけではなく、もう少し先の展望がある方法を考えたくなったのだ。





 予算を含め、世の中にはやりたくてもできない事の方が多い。

 現実に折り合いをつけ、できる事を探し、その中で最善を尽くすしかない。

 そうする事で得られる何かもあるので、足りない予算の中で足掻くのも、そう悪い事とも言い切れないけど。



「それにしても、限度というものがある。

 ダンジョン素材、ドロップアイテムは今後も需要が増えこそすれ、減る事はまず無いだろう。

 だけど、国は対策を取ろうとしない。責任から逃げてばかりじゃないか」

「冒険者の数は十分じゃない。警察や自衛隊の手がまわらないのは国が冒険者の窓口を狭めているからだろう」

「日本も規制緩和を行うべきだ。諸外国はそうやってダンジョンに向き合っているだろう。中国の二の舞は御免だ」


 ネット上には、もっと冒険者を増やすべきだという意見が飛び交っている。

 経済的な効果だけを見れば、その方が国にとって有益であるのは間違いない。

 その反面。


「冒険者は簡単に死ぬじゃないか。規制を緩和しても、なりたいとは思わない」

「冒険者って、武器の帯刀が許されるんだぞ。犯罪者予備軍に武器を渡して、大事件が起きたらどうするんだ」

「だったら自衛官になればいい。どこでも入隊希望者を募集してるぞ」


 無駄に冒険者を増やすべきではないという意見も、まだ根強い。

 経済的な問題ではなく、治安維持を重視した場合、冒険者よりもダンジョン制圧を行う自衛官を増やすべきだという考えの方が多数派なのだ。



 実際、ダンジョンからドロップアイテムを回収するだけなら、冒険者よりも自衛隊の隊員を増やした方が良かったりする。


 警察官と同じで、銃などの装備は組織が管理する。

 ちゃんとした戦闘訓練を行い、部隊での行動も叩き込まれるので、冒険者と比較し死傷率が圧倒的に低い。

 「冒険者」と「自衛官」では、自衛官の方が社会的に信用される。


 ついでに、自衛官になる方が冒険者になるより簡単だ。

 身体検査や適性試験などはどちらも同じだけど、学力試験に関しては、自衛官の一般曹候補生よりも難しい問題を冒険者試験で出されるので。

 冒険者を目指すぐらいなら自衛隊に入れとは、多くの親が言う言葉だったりする、らしい。俺は言われなかったけど。



 ただ、自由が無い、給料が安い、訓練が厳しいなど。

 そういったイメージを持たれているので、自衛官になりたがる人間は冒険者になりたいと思う人よりも少ない。

 実際は会社務めと同じぐらい休みがあるし、普通の冒険者だって訓練はするので訓練が厳しいなどというのはどっちも同じ。

 給料が安いというのは確かだが、その分だけ安全が保障されているし、銃器を含む装備が支給されるので悪い事ばかりでもない。冒険者資格では銃器の取り扱いは出来んからな。それに、最近はダンジョン関連のボーナスが出るらしいから、多少はマシになっているはず。


 何より、冒険者と違って生命保険に入れる。冒険者は生命保険に入れないんだよ……。

 冒険者はすぐに死ぬから、仕方が無いんだけど。



 自衛官は、悪くない選択肢だと思うんだけど。

 でも、何でか知らないけど、なりたがる人が少ない。


 下っ端は嫌なのかね?

 個人経営でも、トップでいたいのか?


 なんにせよ、自衛隊も大変そうだな。

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