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冒険者ギルドの事情⑤

 ロボットを使ったモンスター狩りが主流になり、ゴブリンやオークばかりが狩られオーガが放置されるようになった彦根のダンジョン。

 地元住人であろう竜胆さんたちがどうにかしたいと思うのは分かるが、外部の人間に過剰な期待をかけないで欲しい。


 俺には俺の生活があり、やらなければいけない仕事や、守らなければいけない生活があるのだ。

 一回足を運んだだけの土地に骨を埋める理由など無いのだから、情に訴えられても切り捨てる所存であった。



「ちなみに、ですが。ハニートラップへの対処方法はご存じですか?」

「いやいやいやいや。待って。ちょっと待ってください。

 さすがに、組織ぐるみでそこまではしないでしょう。部下に色仕掛けなんか強要したら犯罪ですよ」

「そうですか? 一文字さん相手であれば、立候補する娘も大勢いると思いますよ。資産家ですからね」


 なお、ハニトラに引っかかるほど俺のガードは緩くないので、そちら方面は心配しないで欲しい。


「しかし、以前に『結婚したい』と仰っていたのを覚えていますよ。本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫ですって。これでも経験豊富なので」


 金目当ての娘に迫られた経験はかなりあるので、本当にガードは固いんだって。嘘じゃないよ。

 一時期は薬を盛られたりと、ハニトラ系のイベントが目白押しだったんだからな。





 それは横に置くとして、事が彦根ダンジョンだけで収まるのかどうかは気になった。


「……確かに、それは私も気になるのだよ。他のダンジョンでも同じ事が起きないとは限らないからね!」


 懸念材料は、奥地まで攻略されていないのが彦根ダンジョンだけで済むかどうかという部分だ。

 もしかしたらであるが、他のダンジョンでも同じ事が起きているかもしれなかった。


「似たような話はどこでも起きている様なのだよ。

 ロボットに乗って戦うのは、普通に戦うよりも成長しないものだからね。そういった新人たちは足踏み(・・・)の時間が長いわけだよ。しかもそんな冒険者の数は多いから獲物の取り合いになり、より長く時間がかかるようになっているのさ!

 中には魔法が使えるようになればいいだけの者もいるだろうから、オーガと戦えるようになっても、オークで留まっているかもしれないし、魔法が使えるようになった時点で引退という事も考えられるかな!

 そしてそれ以前の、オーガと戦える者たちはさっさと次のステージに進むけれど後進が補充されぬままになり、オーガを倒す者が減っている訳なのだね。

 冒険者がどこのダンジョンに潜るかは個人の裁量に任されているので強要は出来ず、どこも苦しい立場だと言っているよ」


 それについては、四宮教授が調べてくれた。


 四宮教授の調べでは、同じような状況のダンジョンは結構あるようだ。

 同じような規模のダンジョンは国内にあるおおよそ800のダンジョンのうち、31ヶ所もある。

 その過半数が、奥にいるオーガが倒されなくなったとSOSを発信していた。


 こうなると、どこのダンジョンを選んでも彦根ダンジョンと同じ結果になりそうな気もするよ。



 冒険者ギルドは、あくまでもドロップアイテムの仲介業者だ。

 ダンジョンの管理者の要請に従い、冒険者を手配するようになってはいない。

 自分たちで確保しているダンジョンもあるだろうが、その本分はフリマアプリの管理者の凄いバージョンでしかない。

 ダンジョンの管理は業務外の出来事でしかないはずだった。


 ただ、ラノベなどの影響もあり、ダンジョンのスタンピードを防ぐのもギルドのお仕事だと思われる風潮だったりするので、仕方なしにそういった業務をやらされていたりする。

 本来の業務ではないため、ちゃんとした管理体制が整っておらず、ギルドの職員は色々と苦労しているようだ。


 ……まぁ、ダンジョンでオーガを倒せるぐらいの実力があるなら、ギルドの職員などせず、自力で稼いだ方が儲かるかもしれない。

 そう考えると、ギルドが人材を育てるとフリーの冒険者として逃げられる所までがワンセットになりかねないな。

 さすがに、そういった状況への対応はしかねるので、そこはギルドに頑張ってもらいたい。

 本当にそういう事をやっているかどうかは知らんけど。



 話が横道に逸れたが、オーガなどが出るダンジョンは、最近は人手不足だったらしい。

 運良く、地元愛のある冒険者が手を貸してくれるところもあるが、それ以外はオーガが放置されてヤバいと慌てている。

 最後の手段として自衛隊もいるが、彼らは普段の業務、国有ダンジョンの攻略をしなければいけないので、早々出張ってこれるものでもない。



「ああいったダンジョンでオーガの間引きで一番大変なのは、野営ではないかな。そこさえ支援できれば、問題は解決するかもしれないのだよ」

「支援と言っても、何をするんですか? ダンジョン内で野営サービス、食事の販売でもしろと?」

「あとは安全の確保や、寝床の用意だね! 夜警をしてくれるロボットがいれば、それだけでゆっくり眠れるのではないかな?」

「……どんな規模の仕事ですか。そこまでするなら、光織たちと同じタイプが2~30体は要りますよ。警護に物資の補充と、やるべき事はいくらでもあるんですから。そんな予算、どうやって確保するつもりです?」

「それを考えるのは彼らの仕事なのだよ! 彼らが維持できる内容にしなければ、結局は続かないのだからね!

 私としては、クラウドファンディングが妥当だと思うよ。理由が理由だけに、地元からも出資者が出るのではないかな? これは各地のギルド支部に提案済みなのだよ」


 調査ついでに、四宮教授はいくつかのギルド支部に自身の考えを提案していたようだった。

 その際にはうちで作っているロボットを採用して欲しいとも書いていたようなので、そのままでは採用されない気もするけど。傍目にはただの売込みにも見えるから、仕方がないよな。


 他の企業が儲けて終わりというのもあり得るが、上手くいく事を願うばかりであった。

 さっさとスタンロッドの性能評価試験をしたいからなぁ。

 本当に、落ち着いて欲しい。

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