冒険者ギルドの事情④
ダンジョンの管理を任される。
新しいダンジョンを確保して、会社利益にする。
確かにそれなら、こちらにも利益があるように見える。
「人材が足りませんが」
「ですよねー」
この思い付きはこれまでの考えよりはマシだが、やっぱり難しいだろうという結論となる。
彦根ダンジョンはゴブリンダンジョンの十倍ぐらいのデカいダンジョンなので、管理するのは難しいのだから、できると思うほうがおかしい。
「元から居る職員を使うにしても、限度というものがあるのだよ。
損をしない話などはなく、損よりも利益が大きい提案をしていると言い直せば、まだ理解できるのだがね。
それも、要求を考えれば難しいのだよ」
例えば、だ。
ダンジョンを安定化するために攻略を進めるとして、どれだけの戦力が必要になるのかという話がある。
俺が光織たちと間引きし続けるのは現実的ではなく、例えばタイタンなども投入していこうと思うと、その資金はどこから出すのかと言うお話。
必要数を出そうと思うと何億円かかるかって、計算したくなくなる。
長いこと頑張れば回収できるかもしれないけど、タイタンをレベルアップさせる前に投入するのはリスクが大きい。回収の前に壊されたら大損だからね。
だからアンデッドダンジョンあたりでレベル上げをさせたいし、戦場への投入は遅くなるので、一年か二年は俺の持ち出しで耐える事になるだろう。
そりゃ、生涯通してそうやって稼げるならそれもアリなんだけど。ダンジョンは、唐突に現れるだけでなく、前触れ無く消える事も有るわけで。そうなれば投資がしばらくの間は無駄になる。
彦根ダンジョンを失ったあとに他のダンジョンに配置換えされるとしても、同じようなダンジョンを自由に押さえられるとは考えられない。
下手をすると用意した戦力がデッドストックになり、こちらの負担が増える事も考えられる。
それに言葉は悪いが、小さい会社で小回りを効かせて会社経営をしているから、なんとかなっている部分も大きい。
世界的大企業である冒険者ギルドの中で立場を得たら、それに縛られて身動きができなくなる事も多い。
ギルド所属は俺にとってリスクが大きすぎる。
名声や社会的地位、信用というのは諸刃の剣だ。
出来る事を増やす反面、出来なくなる事も多い。
俺のやりたい事を考えれば、地位などはそこまで重要でもないのだ。むしろ枷でしかない。
「発想を少し変えてみてはどうでしょう?
例えばですが、無理のない範囲で一時的に協力をするとしたら、特に問題はありませんよね。
手に入れるものを減らし、義務も軽くすれば、行きやすくもなりませんか?」
そんなふうに出来ない理由を並べ立てていると、及川教授は、双方の妥協点を探るようなことを言い出した。
「ダンジョンの一利用者として、一度や二度、オーガを狩るのは問題ではありません。でしたら、それで済ませてしまえば良いのですよ。
何から何まで世話をする理由はありませんからね。このまま適切な距離を保ちましょう。
そうしないと、別のダンジョンに通う事になり、せっかく書いていただいたレポートが無駄になってしまいます。ギルドも一文字さんが来なくなり、オーガが放置される。それでは誰も幸せにはなりませんね。
一度や二度の手助けでスタンピードまでの延命をして、その間に本格的な対応をしていただきましょう」
いや、妥協点というか、やることを本来の流れに乗せただけか。
竜胆さんが無駄に交渉を持ちかけたから、ややこしくなったので、それを無視してしまえというわけだ。
確かにそれは現実的だろう。
俺だって、せっかく書いたレポートが無駄にならないなら、その方がいい。
こうして方針が決まった俺たちは、計画の大きな見直しはせず、そのまま動く事となった。




