冒険者ギルドの事情①
ダンジョン泊をした翌日。
7時間という普段より少し長めの睡眠をとった俺は、六花に来て欲しいと連れて行かれた先で、彼女らの戦利品を見せられた。
「うわぁ」
「熱い絆で結ばれた我らの拳に……討てぬ敵、無し!!」
「モンスター、倒すよ!」
「悲しいけど、ここ、ダンジョンなのよね」
俺の前には、これでもかと積まれたトレジャーボックスの山があった。
拳よりも少し小さい球が、およそ50個。それは全部、俺が寝ている間に光織たちがモンスターを倒して手に入れた物だ。
どうやら、寝ている最中に団体さんが何度も来た様である。
襲ってきたモンスターを、俺を起こさないように処理した彼女らは、自慢げに胸を張る。
やっている事は狩ってきた獲物を自慢する猫か何かのようで微笑ましいが、それで倒されたのがオーガだと思うと、思わず笑ってしまう。
「うん。よくやったな」
俺は光織たちを褒めると、今日の予定について考えるのだった。
「あと5回、もしくは十分経ったら帰るよ」
光織たちがたくさんオーガを倒したので、オーガが品切れになるかと思ったら、そんな事は無かった。
最近は間引きされていなかったのか、わんこ蕎麦のように、オーガのお替りがどんどんやってくる。
ここ最近はレンタルできる搭乗型ロボットのおかげで、ダンジョンの入り口から中央付近のモンスターが多く狩られるようになっている。
奥まで来れるちゃんとした冒険者は少ないものの、ダンジョン全体を見れば、スタンピードが起こらないように攻略がされているのだ。
しかし、だ。
ダンジョン奥が手つかずで放置されていた結果、スタンピードが起きずとも、それなりに悪影響が出ていたらしい。
普通よりもオーガの増産がされていて、オーガ分布の密度が濃くなっているようである。
それが光織たちによって一区画だけ密度が薄くなると、周囲から行く当てのなかったオーガが流れ込み、連戦に次ぐ連戦を発生させてしまった。
バトルクロスでオーガと戦うとしても、こんな事が起きるのであれば、止めておいた方が良いかもしれない。
戦闘能力的に問題がなさそうに見えても、こうも連戦が続くようであれば、思わぬ不覚を取るかもしれないし、リビングメイル化で省エネになったとはいえバッテリーが持たないだろう。
特に、スタンロッドはそれなり以上にバッテリーを消耗するので、連戦には不向きであった。
「事前に多少は間引いておく。光織達を護衛につける。バッテリーの改良ができないなら、そういった対応をすれば、いけなくはないのか?」
オーガを一匹、二匹と倒していくと、トレジャーボックスがドロップするのでさらに貯まる。
このままここで戦い続ければ、稼ぐ分には美味しいかもしれないが、そうでなければ面倒で手間だと感じてしまう。
ここのオーガの強さが適正かどうかははっきりしないが、もう何度も戦って感覚は掴んだので、これ以上の戦闘は旨味が少ないと判断した。
ドロップしたトレジャーボックスだって、持ち帰るのが大変だし、ちゃんとした値段で売れるとは限らない。このダンジョンのオーガが他よりも弱いのであれば、トレジャーボックスから出てくるドロップアイテムだって、安物の可能性があるのだ。
レアで強い個体が落とすアイテムが高く売れるのだから、その逆があっても不思議はないよな。
そんな訳でオーガ戦に見切りをつけた俺は、サクッと設定したノルマをクリアし、ダンジョンから出て行くのであった。
「すみません。少し、宜しいでしょうか?」
ダンジョンを出た俺を待っていたのは、冒険者ギルドの人間であった。
俺より年上、スーツを着こなしている30代半ばの男性が声をかけてきた。
「お時間を取っていただき、ありがとうございます。
わたくし、冒険者ギルド調達部職員の『竜胆 清吾』といいます」
「ご丁寧に、どうも。
私は鴻上マテリアル所属の冒険者で、『一文字 九朗』です」
足を止めて対応すると、頭を下げられ名刺を渡されたので、こちらも名刺を渡しておく。
そうやって挨拶を済ませると、俺たちはダンジョン入り口の近くにある、冒険者ギルドの応接室に通された。
「ははぁ。それは凄いですね」
「ええ、良い仲間に恵まれましたから」
こちらが夕飯前という事で、出前を取ってくれるというので、かつ丼を頼んでみた。
犯人は、俺です。ではなく。かつ丼を選んだのは、それが一番美味しそうだっただけだ。
かつ丼が届くまでの間、竜胆さんと二人で雑談をする。
下手な営業の人のように、こちらの近況に探りを入れるような真似をせず、お互いにまったく仕事とは関係ない話をして時間を潰した。
そんな雑談の間に、頭の中で竜胆さんの要件を考えてみれば、手持ちのトレジャーボックスを幾つか売って欲しいと、そういう話だろうと推測できた。
近くの喫茶店などではなく、わざわざギルドの応接室を使うという事はそういう事だろう。
そして、交渉を上手くいかせるために俺に考える時間を与えようと、こうやって雑談をしているのだと推察された。
お互いに利益のある交渉をしようというのであれば、双方に利益のある話をしないといけないし、こちらが後で損をしたと思わないように気を回すのが一流の交渉である。
わざと考える時間を与えず一気呵成に話をまとめてしまえば、一時的には大きな利益のある交渉ができるけど、長続きする関係を作れない。
雑談で個人的に仲良くなれるし、「私たちはあなたから搾取などしませんよ」というアピールができる。
何を要求され、どういう結果になるかな?
俺は何となく楽しくなってきたという気分になりながら、かつ丼が届くまで、竜胆さんとの会話を続けるのだった。




