第二次遠征計画③
およそ5年ぶりにオーガの一団と対峙した俺は、オーガに昔ほどの強さを感じなかった。
5年前と比較し腕が錆びついていたはずの俺だが、襲い来るオーガたちの動きを見て「こんなものだったか?」と首をかしげる。
「あー。久しぶりで、感覚が狂ったのか?」
舐めプでしかないが、光織たちを後方に下げ、先頭のオーガにシャイニングウィザード。
あとは蝶のように舞い、蜂のように刺していくだけ。
そうやって俺は戦いを始めるのだった。
ここに来たのは半日ほど前の、早朝の頃だった。
俺はオーガと戦うべく、滋賀県の彦根市にあるダンジョンへとやってきた。
滋賀県の中でも発展しているイメージの彦根市といっても、ダンジョンの有無は発展の度合いと関係ない。ある日、唐突に表れる。
ダンジョンは人間の事情など酌んではくれないのだ。
ダンジョンは、どこにでも現れる。
で、洞窟タイプのダンジョンに潜っておよそ半日。
ゴブリンばかりの雑魚エリアからオークの出る中間層を越え、オーガがメインのダンジョン奥地へと足を進めた。
そこまでの道程でも感じていた事だが、どうやら俺はそこそこ強くなっていたようで、オークなどは数年ぶりに戦うモンスターだというのに、まったく歯ごたえを感じなくなっていた。
そしてメインイベント、オーガの一団を殲滅した俺は、先ほどの戦闘を振り返る。
敵は集団であったが、パワー一辺倒でテクニックの足りないオーガは、俺にしてみればカモである。
怪力でも、その攻撃が当たらねばどうという事は無い。囲まれないようにしながら、一体ずつ倒していけばよかった。
回避する、反撃する、もしくは先手必勝で先に倒す。
5体のオーガは、ゴブリンの相手ばかりでなまったはずの俺に、あっさりと片付けられていた。
「いや、思ったよりも俺は強くなってたのか? ゴブリンの相手しかしていなかったのに。
ゴブリンばかりを相手にしていたんだから、そこまでレベルアップはしてないと思うんだがな。
しかも最近はそれすらしていないのに」
毎日のようにゴブリンと戦っているのは、光織たちやタイタンである。
俺自身はあまり戦っておらず、テストパイロットとしてパワードスーツを動かすだけ。
つまり、レベルアップをしていないはずなのだ。
なのに、なぜか敵が弱く感じる。
「気のせいか」
俺はオーガの攻撃を避けると、その首に剣を突き立てる。
オーガの急所は体が大きい分、狙いやすくていい。
戦いながらも思考に耽っていた俺だが、結論が出ないので、今は勘違いだろうと自分を納得させた。
この件は及川教授や四宮教授にも報告をして、あちらに考えてもらえば良いだろう。
俺が独りで考えたところで、正解にたどり着けるわけでもない。むしろ、時間を浪費するだけで無駄だと思う。
俺よりも頭のいい仲間がいるのだから、ここは頼るのが正解だ。彼らなら俺の頭では出てこないような考えも出てくるだろうからな。
今の俺は第二次遠征で、ここでバトルクロスが戦えるか、スタンロッドが使えるかの検証に来ているわけだから。それ以外の事まで考える必要もないだろ。
「んじゃ、寝ずの番は任せた」
「御意!」
「へへへ、言っただろ。これからは俺が守ってやるってな」
「任務……了解」
ダンジョンに潜って半日という事は、帰りの時間まで考えると移動だけで1日かかるという事である。
そうなるとダンジョン内で一泊せねばならず、俺は寝袋を使い一夜を明かすことにした。
ダンジョン内で寝るとなると、寝ている最中の襲撃に備えて誰かが見張り番をしないといけないので、寝ずの番を立てる事になる。
パーティメンバーが人間ばかりならだれが起きているかでもめる事になるのだが、俺の仲間は光織たちロボットなので、睡眠を必要としない。安心して寝ずの番を任せ、軽めの食事を済ませるとゆっくりと眠る事にする。
ダンジョン内で眠ろうとすると、仲間が寝ずの番をしていてもモンスターの襲撃を気にして寝付けず、どれだけ高級でもベッドに比べれば寝心地の良くない寝袋に苦戦して、眠れない、眠っても体力と気力が回復しない奴もいるという。
そういう繊細なやつは冒険者に向いておらず、寝泊まり有りの遠征などするべきではない。日帰りでダンジョンの浅い所に潜るか、さっさと冒険者を辞めた方が良い。
もちろん俺は図太い所があるので、ダンジョンで寝る事にストレスなど感じない。
ダンジョン泊は久しぶりだったが、光織たちへの信頼もあって、俺はすぐに眠りに落ちた。




