動画の反響
『馬鹿だ。馬鹿がいるぞ』
ネット上に動画を投稿した翌日。
大きな宣伝はしていなかったが、それでもテレビ局で知り合ったタレントさんなどが動画を見に来てくれたので、そこから一気に広まっていた。
もちろんそれだけではなく、動画のクオリティやパイルバンカーの事件があった事も公言していたおかげで、なかなか話題性があったようだ。
さすがに検索件数上位になるとか、そういったレベルのバズり方はしていないけど。それでも中小企業としては健闘していると言える。
問題は、『何が注目されているか』という点だ。
パワードスーツの開発をしている事にコメントしている人はあまりいない。
バトルクロスは驚かれているものの、性能には懐疑的な意見が主流を占めており、素人でも普通に搭乗して戦えるロボットの方が上という見方をされてしまった。
パイルバンカーを使っている動画には、ロマンを求める人が大勢集まっているが、これはコアな人からの注目であって、大衆受けをしているわけではない。パイルバンカーの大型化や突撃用の移動補助系の装備を求める声が上がっていたのが印象的である。赤いカブトムシを連想した人が多いようである。
今回、一番注目を集めたのは3つめの動画。参式パイルバンカーの映像だった。
『スーパー! パイルバンカー、キィィック!!』
「やめてくださいしんでしまいます」
「……及川君、死体蹴りは感心しないのだよ」
参式のパイルバンカーは、誰が言い出したのか、脚部装備である。
ふくらはぎから足元に向けて杭を撃ち込む仕様となっていて、最初は腕に装備した壱式パイルバンカー使用時に体を固定するために用意されたものだったが、のちに蹴りを入れたあとの追撃という使われ方をしたら、それが何を思ったのか、「ドロップキックに合わせて撃つ」という、謎の進化を遂げた。
さすがに、ハイジャンプからのライダーキック(初代)やイナズマキックではないものの、32文人間ロケット砲のごとき一撃はインパクトがあったようだ。
いや、ライダーキックとかね、あれって重力加速度を利用するとかいう触れ込みだけど、十分な加速をするためには相応の高さが必要で、ついでに時間がかかるので避けられやすいという欠点が。あと、空中にいる間に攻撃されたら終わるだろう。
それぐらいなら、ただのドロップキックの方がまだ小回りが利いて使いやすいのであった。
どうでもいい余談ではあるが、キックのかけ声は俺のものではなく、事前に録音した別人のものである。
それでも、その台詞を聞くたびに俺の精神はガリガリと削られるんだが……。
本当に、勘弁してください。
知り合いは、中の人が俺だと知っているんですよ。
全部俺の所業にされてしまうんだよ……。泣ける。
ネット上では思いっきり馬鹿にされている状態だけど、インパクトという意味では絶大だった参式パイルバンカー。
使う時はどうしても片足になるし、使うとどうしてもバランスを崩すから、いっそのことドロップキックの時に使おうという流れになったのは、まぁ、いい。
壱式(標準)、弐式(大型・バトルクロス用)と比べれば実戦向きではないものの、参式って本来は杭を撃ち込むパイルバンカーとしての運用ではなく、“足”を撃ちだしカタパルト的な瞬間加速をする装置のつもりで開発していたんだよ。
だからまったく無駄な研究ではなく、一応は実利のある装備である。
今回は、動画のためだけに杭打ち機として活用したけどさ。
『これ、本気で開発してないだろ。趣味過ぎる』
『開発者の遊び心ってレベルじゃない。どんだけ金かけてんだよ』
『次は何を作るつもりですかwww』
ネット上では叩かれているという感じではなく、本当に馬鹿にされている訳でもなく、完全にネタ扱いされている。
匿名掲示板では良い玩具が見つかったとか、そんな言われ方だった。
こんな扱いをされる事にどんな意味があるのかと、及川教授の考えが分からず恨みたくなる。
「まずは見てもらわないと始まりませんから」
「軌道修正をするには、これ以上のインパクトが必要なんですけど」
「大丈夫ですよ。今後の開発で、十分に取り戻せる範囲です。むしろ、まだこの程度の反応しか返っていませんからね。この程度で慌ててはいけませんよ」
言いたい事はたくさんあるが、まだ大丈夫だという及川教授を信じ、言葉を飲み込む。
これで大失敗とまでいかずとも、悪い方に話が流れたのであれば、その時は思いっきり何か言ってやろうと思う。
結果次第だ。それまでは、何も言わずに待つとしよう。
俺は羞恥心と引き換えに得た知名度が今後どうなるのか、大きな不安を抱えつつ、専門部署立ち上げを計画しながら、見守る事にするのだった。




