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冒険者ギルドはこうして盤石になった

「やっぱり、冒険者ギルドの牙城は崩せませんか」


 俺の言葉に、及川准教授は少しだけ苦いものをにじませた顔をした。

 ドロップアイテムを買う側としては、今の冒険者ギルドと距離を置き、もっとユーザー側に寄り添った売買システムが欲しいんだろうな。

 それは、分からなくもない。



 企業が参入しにくくなっている状況。

 それは企業側の無理解もあるけど、それだけでなく『世界冒険者保護機構』、略称『WAPO』の存在がある。


 WAPOだけど、正式名称や略称は全く使われず、日本だと一般的には『冒険者ギルド』と言っている。

 これは既存のマッチングソフトを使っただけ、既存のネットフリマのシステムを流用しただけの、オリジナリティの欠片も無いような会社が始めたんだけど、当時の冒険者にとって最も使いやすい窓口としてすぐに世界規模の大会社に成長している。



 欲しいドロップアイテムがあれば、企業がクエストボードに登録をする。

 欲しい物の金額と量、納品期限がクエストボードに提示され、買い手の名前以外、誰でも見えるようになる。

 同時に、買い取り金は冒険者ギルドの預かりとなり、支払いはここで保証される。


 売り手の冒険者はそれを見てドロップアイテムをダンジョンへ回収しにいく。

 一応、クエストには受注の手続きをしなければいけない。保証金を払うわけでは無いが、一応はダンジョン攻略をする計画書を提出する。何日までに、何人でどこに行って、いつ頃帰ってくるかを報告する。

 ドロップアイテムはランダム性を持つので、予定される成果物が確実に手に入る保証は無いが、こうする事で買い手側も納品予定日を把握し、ロスを少なくする。


 中間業者である冒険者ギルドはダンジョン近くに買い取り拠点を持ち、ドロップアイテムを早い段階で確保し、買い取り側に配送して手数料を取る。

 ドロップアイテムは高額になる物も少なくないので、ダンジョン近くで買い取って貰える方が都合がよい。



 原則金銭のみのやりとりで、売り手と買い手が直接交渉をしないように細かい情報は一切カットする匿名性もあり、それが双方に適用されるため、多くの冒険者が利用している。

 名前を売りたければ自分で発信すればいいだけなので、困る事も無い。それよりも、面倒な相手を避けるために名前を隠す奴の方が多い。


 ……俺のオークションも冒険者ギルドは名前を隠していたんだけどな。

 国税局側から俺の情報が抜き取られたので、冒険者ギルドが隠しても無駄でしたとさ。

 そっちは隠せないんだよ……。高額納税者公示制度っていう悪法は廃止されたけど調べる手段はまだあるらしい。個人情報保護法はどこに行った?



 

 こんな簡単なシステムだから簡単にパクって似たような会社ができても不思議はないんだけどな。

 三年前に当時二番手と三番手だった、中国資本の大手が潰れたんだよ。

 中国って国ごと、会社が消えたんだ。


 中国は広かったからな。守るのも大変だ。

 二万を超えるダンジョンを抱えていた大国は、軍だけで抑え込もうとしたダンジョンに飲み込まれて国土のほとんどを放棄するしかなくなり、ダンジョン関連会社は冒険者ギルドに吸収された。

 そうして今の冒険者ギルドが、業界トップシェアの企業として君臨したわけだ。



 一回上下が決まってしまうと、他の会社が参入しにくい環境ができる。

 冒険者ギルドは今の名前になり、グローバル企業として他を寄せ付けない。


 一部の企業は自社内で完結する同様のシステムを作ろうとしているけど、会社の初期投資と費用回収にかかる時間、ついでに安定供給による素材価値の暴落を考慮すると、二の足を踏む。

 しばらくは、あと数年は冒険者ギルドが単独首位のままだろう。



「冒険者になる人間が増えない限り、供給不足は解消されませんから。素材の有用性がはっきりしている以上、需要過多の供給不足は変わらない。

 この問題は数年後までに引退した冒険者がどれだけ後進を育てられるかですよねぇ」


 供給不足が問題の根本なのだ。

 これはまず、国が冒険者資格、つまり武器を所持するための規制を緩和するのが重要だ。

 冒険者を増やさないといけないのである。



 そして、冒険者のイメージも法律から変えないといけない。


「年間致死率10%、資格取得から返納まで一年持たない奴が60%の職業になろうとする勇者はどうやったら増えるのかって言うと、もっと規制を緩和して情報共有をしていかないといけないんですけど。

 冒険者がモンスターと戦う動画って、グロ系扱いだから十八禁なんですよね……」


 国が規制を緩和しても、そもそも冒険者などという職業になりたい人間が少なすぎるのが現状だ。

 命がけの戦いは、フィクションなら楽しめる。

 しかし自分がその立場になりたい奴など、本当に少ないのだ。

 もっと積極的に情報を開示していければいいのだが、ネットにアップされる冒険の様子を撮った動画は十八禁のチャンネルになってしまうので、子供へのアピールにならない。


 お金を払い年齢を詐称すれば観ることも可能だが、最近のパソコンは子供用フィルターが優秀だし、親が協力しない限りどうにもならない。

 そして親はそれ以外の十八禁動画を規制するために協力しないのが普通、らしい。

 学ぶ機会を失えば、「冒険者になりたい」などと言う子供が減るのは道理でしかない。


 親だって、我が子が死ぬかもしれない冒険者になっても構わないとは言い難いしな。

 そりゃ、協力しないだろ。



 なお、冒険者サイドは情報をガンガン外に発信するほうが儲かるので、情報の秘匿とかはあまりしてない。

 秘匿しようとしてもゲームの攻略情報なみにすぐに拡散するので、隠すより発信して金に変えたほうが儲かるんだよな。

 俺も現役時代はずいぶん世話になったよ。





 なんにせよ、国がもっと冒険者を増やす方に舵を切らないと、なんともならない。

 国の御偉いさんは、規制を緩和して人死が増えたら自分の責任になるから緩和したくないだろうけど。

 他所の国はそこらへんがおおらかで、前に進んでいるんだよな……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 世界冒険者保護機構(WAPO) World Adventurer Protection Organization、ですかね。.....企業ならcompanyでは。完全に営利目的で、co…
[良い点] 工学的考察のバランスが良いですね。 厳密な話をすれば色々あるのでしょうが、 それは現実で十分で、ラノベにそのニーズは無いでしょうし(^_^;) [気になる点] 「焼き直し」は一般的には「焼…
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