配信映像撮影
「大事なのは、こちらが“攻撃する側”に回る事です。場の主導権を握り、先制する事です。
もちろん、一方的に攻め続ける事などできません。こちらの粗を責められる、憶測や疑念で勝手な事を言われる。そういう事もあるでしょう。
しかしこちらが情報を発信しなければ、流れを作る側に回らなければ、一方的に攻撃されるだけなのです」
及川教授は拳を握り、力説する。
その聴衆である俺は、菩薩のように優し笑みを浮かべているだろう。
実際に撮影される側としては、及川教授の言葉が正しいか間違っているかといった事はどうでも良く、ネット上へ投稿する動画に出演するなど、可能な限り避けたかったのだ。
「もちろん、テストパイロットである一文字さんの個人情報は保護されるべきです。ヘッドギアはフルフェイスに変更し、ボイスチェンジャーで声を変えましょう。
幸い、一文字さんのキャラクターはテレビである程度方向性が操作されています。ですので、一文字さんのキャラクターとは違う行動を、『参式パイルバンカー』の動画を加える事で違うキャラクターを演じてもらいましょう」
言うと思ったよ!!
動画は取れ高が大事だからな!
普通のパイルバンカーだけで終わるとは思ってなかったよ!!
俺は笑顔のまま、拳を固く握りしめる。
四宮教授は俺に同情しているのだろう。口を挟んだりはしないが、済まなさそうな顔でこちらを見ていた。
及川教授の言葉に理があるから、反対する事ができないといったところだろうなぁ。
俺自身、自分がやりたくないと思っている事を除けば、反対する理由が無いのだ。
他の誰かがやるというなら、何も気にせずこの話を受け入れていただろうから、我慢するしかないと割り切っている。
気乗りしないのは、もう仕方がないんだけどね!
理屈でするべきと分かっていても、感情が付いてこないんだよ!!
どんなに嫌がっても、撮影の日はやってくる。
俺はさっさと終わらせようと、気持ちを切り替えて撮影に挑んだ。
最初はバトルクロスの戦闘映像である。
いざという時の護衛である光織たちと、撮影係の四宮教授を後方に待機させ、野犬ダンジョンで軽く戦う事になった。
バトルクロスは基本装備である。
まだタイタンの派生形なのでかなり大きいが、一応は俺の動きをトレースして動かせる、身体能力強化装備といった立ち位置であり、腕を飛ばすの以外、特殊な兵装は装備されていない。
「ふっ!」
バトルクロスは人間が持つには大きすぎる剣を一閃。近寄ってきた野犬型モンスターを真っ二つにした。
危なげなく戦っているが、俺はフルフェイスのメットの下で小さくため息をついた。
視点が高くなっていて、敵が四つ足の、背の低い敵なので、生身よりも戦いにくいと思う。
大型ロボットは敵も大型でないと、あまり出番が無い。パワーよりもスピードが重要だと思えば、バトルクロスはミスマッチであった。
かと言って、ゴブリン相手では洞窟で戦う事になるので撮影しづらいし、弱すぎるため戦闘ではなく虐殺になるので、絵面が良くない。広い荒野タイプのダンジョンで野犬を相手にするのは苦肉の策である。
できれば大型モンスターと戦ってみたいのだが……このダンジョンでは日帰りでいける範囲にそういったモンスターの目撃情報は無いので、野犬の相手で諦めるしかない。
アンデッドダンジョン? ゾンビとの戦闘はグロとスプラッタのオンパレードなので、そもそも論外だ。
本来、視聴者になってくれるかもしれない人だって、アンデッドダンジョンの映像と聞けば回れ右するだろうよ。
ああいうのが好きな人もいるけど、今回は万人受け、インパクトよりもマイルドで初心者向けの入門編を意識している。
その後も普通に戦い、普通に勝利する、面白みのない映像を撮りためる。
野犬が相手ではね。10や20と集まろうが、俺がピンチになることなんて無いんだよ。
囲まれそうになれば正面を突破して敵集団から抜け出し、正面から相対すれば剣を振るい切り飛ばす。
「プチ」
時々踏み潰して結局はグロ画像を提供しながらも、俺はバトルクロスの性能をアピールしてみた。
壱式パイルバンカー装備のパワードスーツの撮影はシンプルだ。
腕に付けたパイルバンカーを、魔法で作った岩に撃ち込むだけである。
「インパクト!」
音声入力による起動。
岩に押し当てていた杭が炸薬の爆発によって射出され、岩を貫く。
相応の反動が俺の腕から肩まで伝わるが、これまでの蓄積から改良されたパワードスーツは衝撃を全身に分散させ、吸収する。俺へのダメージはゼロだ。
脚部アウトリガー展開から、腕のパイルバンカー射出まで、一連の流れを複数のカメラで撮影するのは、単独のカメラではできない演出のためだ。
アウトリガーの展開やパイルバンカーの炸薬発破はカットインに使うらしい。そうやって見栄えの良い映像を作る。某ロボットのお祭りゲームでやっているカットイン演出をそのまま流用するのだという。
「ネタをネタと分かってもらうには、これが一番ですよ」
ネタに気が付き指摘してくる人もいるだろうが、それも想定の範囲内。
お互いに分かっているのなら、むしろ喜んでもらえるだろうと及川教授は断言する。
これで終われば平和なんだけど。
「では、参式の撮影もしましょうね」
バトルクロスと壱式パイルバンカー装備のパワードスーツの撮影が終わり、次は今回の撮影のラスト。
俺が避けたかった、参式の撮影が待っていた。




