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そして、パワードスーツへ①

 世界がどんなふうに動いていても、俺のやることは変わらない。

 今はパワードスーツの開発が大きく進んでいるので、そちらに力を注ぐだけだ。



「一文字君。本当にいいのだね?」

「元々、レベルアップが絡まなければ問題は起きないんです。大丈夫ですよ」


 新装備開発の裏で、俺たちは『リビングコート』に続く、新しい機体の開発をしていた。


「パワードスーツ試作機1号、『バトルクロス(戦装束)』起動」


 ロボットの強化外骨格としてではなく、人間用(・・・)のパワードスーツに手を出したのだ。


 基本的な外観は、タイタンからリビングコートまでの流れを汲んでいる。

 よって、見た目は胴体部分が小さくなったタイタンといった風体になっていた。

 規格を統一化する事でコストダウン、という話ではなく、元々『バトルクロス』に至るまでの試作機としてタイタンやリビングコートを作っていたのだ。形が似てくるのは当然である。


 言葉を変えると、高さ3mのタイタンの中に入るような形をしているため、パワードスーツよりもアームスレイブ方式のロボットに乗ったような状態になるのはご愛敬だ。

 さすがに、パワードスーツを人間サイズに落とし込むのには、まだ時間がかかるのである。





 俺は簡単な動作確認という事で、腕を曲げたり、指を動かしてみたりする。


「おお、ちゃんと連動してる」

「それはそうなのだよ。そのために、これまで試作を重ねてきたのだからね」


 俺が腕を曲げると、バトルクロスの腕も曲がる。サイズの都合上、ロボの肘関節が俺の手首のあたりになるので、動く時には自分とバトルクロスが変に干渉しないよう、意識を割いた方が良さそうだな。

 四宮教授と及川教授はそれも意識してパワードスーツを設計してくれたが、だからと言って何も考えずに動くのはあまり良くないよね。



「けど、このグローブ。動きを阻害すると言うか、ごわごわして邪魔だよ。もっと薄くしないといけないかな」

「今回採用したそのコントロールグローブは、最近のARシステムの市販品を流用したものだからね。戦闘をする前提の品ではないから、それも開発しないといけないのだよ」

「市販品では満足いく結果が出せませんからね。よろしくお願いします」


 なお、腕や指の動きなどはパイロットスーツに仕込まれたセンサーが見ていて、俺の動きを正確にトレースしている。

 パイロットスーツはAR(拡張現実)システムで使われているものを借用させてもらった。


 大きな問題は2点だ。

 パイロットスーツとして作られた物ではないから、着心地が良くない事。

 あとは追従性に難がある事だろう。


「それに、速く動いたらセンサーが俺の動きについてこれないのは困りますね」

「それに関しては、また調整させてもらうのだよ」


 このパイロットスーツは一般人向けの品である。冒険者のような、魔力持ちが使う事を前提にしていない。

 だからか、俺が本気を出して動くとバトルクロス側がついてこれなくなる。


 例えば右手を左胸に当ててから、右に向けて剣を振るように動かしたとする。

 最初の、左胸に右手を置くのは問題ない。俺の腕とバトルクロスは干渉せず動きは阻害されたりしない。

 だがその後の右に向けて拳を振る動作では、俺の腕がバトルクロスと干渉するので、そもそも高速で動かす事ができなくなってしまう。


 俺とバトルクロスの動きの差分、それを解消しない事にはこういった「素早く動かせない状態」の解消は出来ない。

 だったらリビングコートのレベルアップのように、俺の動きを予測して、先に動き始めるなどの対策を講じる必要がある。



「リトルレディたちは思考制御のように、ネットワーク上でやり取りをしていたから問題なかったのだね。

 これは人間が操作する場合を想定した、新しいソフトが必要になるのかな。センサー頼みにならないよう、私が調整を行おう」

「リビングコートの方でも、同じような操作方法をやらせればよかったでしょうかね」

「それは、その通りだね。今回の事は教訓として覚えておこう」


 なお、リトルレディはロボットなので、リビングコートと直接データのやり取りをしている。

 そのおかげで動きにタイムラグなど起きなかったため、誰も人間に切り替えた時の影響まで考えていなかった。

 動きの感知は問題ないのだが、そのデータを処理してパワードスーツの動作命令をするまでの時差を甘く見ていたのである。



「失敗そのものは恥ではないのだね。失敗をする事は、そこから学べる事を見つけられれば失敗ではないのだよ。

 無為な失敗者にならないよう、深く注意をするとしようじゃないか!」


 残念ながら、試作1号機の『バトルクロス』は実用化できない代物であった。

 試作機なのだから仕方がないとはいえ、失敗は少ないに越した事は無い。


 これは苦い経験として、俺はこの失敗を記憶の片隅に引っかかってくれるように祈るのだった。


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