新装備開発⑨
あれから、開発チームはこれまで以上のペースで作業を進めていった。
「残業が無くなって休みが増えたから進捗も遅れると思ってたんですけど。なんか、そこまでペースが落ちないんですよね」
「そりゃそうだ。ボロボロの体でゾンビみたいに働くのと、健康な体でしっかり働くのと、どっちの効率がいいかなんて、子供でも分かる事だろ」
「たはは。耳が痛い」
開発チームは健康な生活を始めたからか、当初の想定以上に働けるようになったのだ。
周囲の部署との連携もスムーズに回り始めているので、そういった相乗効果もあって、以前の倍速近い速度で結果を出している。
おかげで、タイタン用の電動三輪バイクはそろそろ完成する予定だ。
「自動運転機能をタイタンと連動する事で実現。いやぁ、機体が大きい分、拡張しやすいのは良かったですよ」
タイタン用の電動バイクだが、こちらはバイクとしての機能に加え、一部の自動車で取り入れているオートパイロット機能を搭載してみた。
ついでに「タイタンがわざわざハンドル操作をする必要ってあるの?」という素朴な意見から、データリンクによる操作システムに切り替え、タイタンはハンドルではなくジョイントで体を固定する。
そうやって体をしっかり固定する事で、ジェットモンガ〇ンばりに必殺の「ひき逃げアタック」すら可能になっていた。
「合体は男のロマンですから。いつか、巨大戦闘支援ユニットとか、作ってみたいですね」
彼の頭にあるのは、スターダストなデンドロさんか。
面白い、と言いたいところだが、そんなものを作ったところで、何と戦うんだという話である。
残念ながら、俺たちは日本にあるダンジョンで魔石を集めてはいるものの、ダンジョンから地上に放流されたモンスターの駆除などやっていない。
ミサイルポッドなども用意できないし、どう考えても宝の持ち腐れとなってしまう。
そもそも、そんな巨大なユニットではダンジョンに入れないというのを忘れてはいけない。
それができるなら、ダンジョンはドローンではなく、戦車で蹂躙されていただろう。
悲しいけど、これ、現実なのよね。
ただ、開発が上手くいっているのに、ちょっと現状が納得できないと言った顔の人もいる。
それは開発チームのリーダーたちだ。
「俺、まともに開発の仕事をしてないんですけど」
「そりゃそうだリーダーってのは段取りや手配が仕事だからな。実務は部下がやるもんだろ」
彼らは、実務を離れた事が不満なようだ。
残念だが、リーダーなんて立場は、実務と関係ないのである。
そりゃあ、小規模な集団であれば全員が一丸となって実務も何もかも請け負う形もあるのだが、ある程度組織が出来ると、役割分担により実務から離れる人間が出てくる。
この会社の場合、リーダー、職長に相当する役割の人間が、それにあたる。
「まぁ、これまで開発の実務をやってきたから現場の空気が分かる。そういった現場を知っているから、部下も安心して事務仕事を任せられる。ただ他所から事務の得意なやつを連れてきて、そいつをリーダーに据えることは出来ないんだよ。
お前らはチームメンバーを動かせる信頼と実績があるし? 素直にリーダーとして働いてくれると嬉しいんだけどな」
なお、ある程度規模が大きくなれば、リーダーに補助メンバーがつくのだが、そこまで開発チームの規模は大きくない。
彼ら自身、今は仕事を覚える段階で、後継者を育てるところでもないので、補助役を付けるのはもう少し先になるだろう。
「状況が落ち着いたら、今のメンバーの中の誰かに補佐を頼めばいいよ。そうやって、後釜を探すのもリーダーの仕事だし」
「うっす」
これはオマケのような話だが開発チームの中の誰かが、開発者として大きな成果を上げたとしても、リーダーにはなれない。
リーダーとしての能力と、実務者としての能力に関係は無いからだ。
新しいリーダーになるのは、今のリーダーを支え次のリーダーに相応しい働きを見せた者になる。
昇進したければリーダーを助けるべきなのだ。実務に精を出しても昇進は出来ない。
まぁ、開発者として結果を出した人間にはベテランに相応しい給料を出すので、実務者として頑張る事が無駄だとは言わないんだけどね。
ただ、会社としては指揮官相当のリーダー職に就ける人間を優遇する傾向にあるので、お金を稼ぎたいなら、もっと給料が欲しいならリーダー研修とかに参加して欲しい。
そうやって部下を率いられる人間になってくれるなら、ちゃんと評価するよ。
兵隊相当の従業員ばかり増やしても会社は大きくならないからね。
会社を大きくしたいから、リーダーに適性のある人はもっと欲しい。一人のリーダーに預けられる人員とは、そう多くはないのである。
リーダーになるには個人の資質が大きく関係してくるから、そうそう簡単に増やせるものとは思っていない。
だからまぁ。
「後進の育成も頑張れ。そうすれば、望む物も開発できるように成るかもよ」
彼らにあった飴を与えて、やる気を見せてもらおう。
俺だってロマンなロボ兵器は見てみたいんだからな。




