新装備開発⑧
開発以外の部署とも色々と調整をしつつ、新しい予定を作ってみた。
「何とか半分の期間で開発に区切りがつくようになった。
それでも当初の予定の5割り増し。これ以上の短縮は不可能だな」
「その……すみませんでした」
基本は毎日定時退社。それで予定を組み直したら、開発期間が3倍になった。
そこで計画の見直しを行い、どうにか実現可能なギリギリまで期間短縮を行い、1.5倍まで開発期間を短くした。
新装備の開発には他部署も絡むので、その調整には苦労したよ。
後学のためにと、開発チームのリーダー格二人を連れまわし、他部署とどうやって調整を行うかを教えておいた。
こいつらは、これまでメールのやり取りだけの事務的な手続き以外をやっていなかったので、対面して話し合いを行う癖を付けさせたかったのだ。
メールのやり取りは便利だし記録が確実に残るので、多用しても構わない。活用すべきだと思う。
けど、対面しながらの調整だって、時には必要なのだ。せめてチャット、Web会議ぐらい使えと。彼らにはそれを叩き込んだ。
古臭い考え方だと笑う人もいるが、世の中には顔を合わせて話をした方がスムーズに決まる事だってある。
システム的なものではなく、属人的な考えで動く人だって居るので、人と人との繋がりを軽視すると仕事にならなくなるのだ。
ただの同僚相手であれば杓子定規なお役所対応をされる場面でも、付き合いが深い人であれば優先的に処理してくれたりと便宜を図ってもらえる。打ち合わせ部分だけ見れば無駄に時間を使う事になるかもしれないが、トータルで見れば、人と顔を合わせて話をする方がスムーズに物事が進む。
悪い人でなくとも生理的に無理な人というのはたまにいるので、そうでもない限りは仲良くしておくに越したことはないのだ。
「へー。こっちの事なんか、全く興味が無いと思ってたよ」
「あの、そうではなくて……その、すみません」
「ああ、気にしなくていいよ。教授や一文字さんはよく顔を出してくれていたし? 話をそっちに通せば事足りたし、問題無いでしょ」
俺の紹介で余所の部署の担当者と顔を合わせた彼らは、これまでまともに話をしてこなかった人との顔合わせで、だいぶ当てこすられている。
特に調達はこれまで顔を出さなかった事を、興味無しとか軽視しているとか、そういった扱いなのだろうと目だけ笑っていない笑顔で突いてきた。
製造部に関しては電話のやり取りも多々あったのでまだマシだったが、「え? ああ、来たんですね」と驚かれ、「ウロチョロせず、あまり邪魔はしないで下さいね」と、彼らはあっさりと見捨てられていた。
どちらの部署も最初は無茶なスケジュールに合わせた行動を求められていたので、あまり表に出していないが、お冠だったようだ。
しかも、その時のやり取りがほぼメール上だったことで、怒りの感情をぶつけていなかった事も悪い方に働いた。
メールだと、どうしても感情をぶつけにくいからな……。
そうやって他部署における自分たちへの評価を理解した彼らは、これまでの行いをようやく反省したようだ。
頑張って結果を出し、評価を高めようとしていたのに、慌てすぎていたのが逆効果だったと実感できたようだ。
「これからは、もっと他部署の人と交流を持ちます」
「懇親会とか、サボったりしません」
「それが良いな。“同じ釜の飯を食う”って、年上相手にはかなり有効な交流になるから」
彼らから見て親世代の場合、「飲みニケーション」という交流方法が有効である。
これが俺たちやもっと若い世代になると、自分の時間を大切にするために不要な交流だと切り捨てたくもなるのだが、年に1回か2回、会社行事で関係を持つだけでもずいぶん違う。
春の新入社員歓迎会、夏のBBQ、秋の社員旅行、年末の忘年会と、季節ごとにイベントを行っているので、少しぐらいは参加しておけ。本当に、たったそれだけで周囲の対応が変わるのだから。
「ちなみに、普段は趣味で何かやってるのか?」
「ロボットアニメ観てますね」
「プラモデルっすね。3Dプリンタでパーツから自作してるっす」
俺も彼らとの交流が足りていないので、これを機にちょっと踏み込んでみる。
なんともまぁ、予想通りの答えが返ってきた。
分かり切っている内容でしかなかったので、他に何かないのかと聞いてみたが。
「あーっと、その、すぐには思い付かないですね」
「他の趣味に時間を割けるほど、余裕がねぇんです」
仕事でプライベートが圧迫され、他の趣味を持てない様子。
単純に興味が無いならまだしも、興味を持つ以前の状態である。
彼らは仕事の忙しさによって人としての自由と考える意思を奪われていた。こうなってしまうから、ブラック企業は罪深い。事態が深刻化する前に止められて良かったよ。
「定時で帰れば、また時間も空くだろ。その空き時間にでも、やる事をゆっくり考えてみてくれ。できれば、ロボ以外でな」
俺は彼らのプライベートに口出しできるほど、親しい関係を築けていない。
当たり障りのない言葉で、常識の範囲で「お願い」をするのだった。




