新装備開発⑤
開発チームの規模に対し、開発ラインが多すぎる。
楽しんで開発しているとはいえ、彼らの負荷が大きい事に変わりはない。
「連中、休みを取っても、持ち帰りで開発を進めてますよ」
「パソコン一台あれば、どこでも働ける時代ですからね。リモートで出勤させなくなる企業も増えていますし。
在宅ワークを導入しているのですが、ノルマだけで勤務時間を管理していて、実働時間の把握は難しくなっています。
それは、良くも悪くも、なのですよねぇ」
その大きい負荷を、サービス残業、たまに行われる在宅ワークの未申請で誤魔化しているようだった。
「やるなと言っても聞き入れてくれるかどうか」
「止めるのが難しいので、体調管理に力を入れていますよ」
頑張るのは個人の自由。
そう言いたいんだけど、会社の仕事としてやらせている事なので、会社としては責任が付きまとう。「従業員が勝手にやりました」では通じない。
だからちゃんと管理しないといけないんだけど。まぁ、上から押さえつけてもどうにもならない。
だから致命的な事態を招かないためにも、手を打たないといけない。
毎朝の体温測定と、朝昼の顔色で体調の確認。
地味ではあるが、現場リーダーがこういった事を毎日行い、記録を付けて確実に行う。
たまにやる意味があるのかと言われるけど、やらないと、なにか起きてしまう可能性が高くなるし、管理責任を問われることになる。
もちろん、何かあれば対策が不十分だったと言われるのだろうが、何もしてなければさらに酷い目を向けられる。
この場合、力不足のほうがまだマシなのである。
何もしていないとは、それほど罪深いというわけだ。
そうやって従業員の管理をしつつも、開発の進捗を見ていく。
「バイクはそろそろ形になってきたな。バイクとコートと接続するとか、良さ気な機能追加もいい感じだ。
パンチはスクリュー追加を始め、色々考えているようだけど。まだまだ問題点が山積みで改善に伴い新しい問題が出てきてる。
背面スラスターは、姿勢制御だけじゃなく推進剤のタンクについても考えているようだけど、解決するのか?
お。ここでナックルバンカーのリビングコート版の開発申請とか。更に仕事を増やす気かよ。正気の沙汰じゃないな」
全体的に見通しが立っていないように見えるが、それでも彼らはやってみたい事を際限なく追加している。
彼らの言い分は、盆前後の忙しい時期を外していかないと、実機による実験ができないから。作業者の手が開けられるうちにやっておきたい。そんな考えだった。
一応、筋は通っているけど。新しい仕事を増やした分だけ、現在進行中の計画は実現性をどんどん失っていくんだからな?
そこを分かっているのだろうか。
失敗を経験させるつもりではあったが、さすがに苦言を呈したくなってきた。
製造部の連中に気を遣うのは構わないが、それでお前らが潰れたら意味がないんだぞ。
「それでも! それでも、やらせてください!
俺らは結果を出して、教授の名誉を回復させたいんです!」
「この前のは確かに上手くいかなかったすけど、そんなの仕方がないじゃないっすか。それで及川先生が悪く言われるとか、我慢ならねぇんです!」
……あの教授にして、この教え子あり。
及川教授は教え子たちに甘かったけど。優しくされたと感じた教え子たちは、その恩に報いたいと頑張っているわけかぁ。
こうなると、失敗を経験させるのは拙いのか?
下手に失敗をさせると、及川教授への申し訳なさで、かなりのトラウマになりそうだ。
はぁ。仕方がないか。
ただロマンを追いかけてるだけならそのままにしたけど、ここでテコ入れしないと悪い方に話が進みそうだ。最悪は、及川教授との関係が破綻するぞ。
ここは俺も本格的に口を挟もう。
予定が大幅に狂うけど、彼らに失敗を経験させるのは今回でなくともいいんだから、予定にこだわってたら駄目だよな。
まずは開発計画を全面的に見直して、実現可能なレベルに落とし込もう。
それを納得させるためにも、従業員が体と心を壊すような働き方をされたら、もっと及川教授に迷惑を掛けるって理解させないと。
及川教授の事を分かっていれば、無茶をしてまで頑張らなくていい事ぐらい弁えて欲しいよ。




