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俺と彼は、こうして交わる

「最後のアレって、趣味でやりました?」

「あはは。そんなわけはありませんよ。見栄えも大事ですが、ちゃんと実用を考えて作っていますから」


 パイルバンカー的な最後の一撃。

 (パイル)ではなく(ナックル)打ち(バンカー)らしいけど、名称は横に置くとして。


「実用って……あんな攻撃が必要になるシチュエーションで使うんですか?」

「そうでもありませんよ。今回は打撃として使用しましたが、実際は重量物の持ち上げなど、震災時などを想定した瓦礫の除去などに使う予定ですから」

「ゆっくり持ち上げたほうがいいと思うんですけど」

「そういった状況も想定していますよ。ジャッキのような、ゆっくりとした動作でもいんですけれど。一刻の猶予もないだとか、瞬間的な出力が必要とされる場面にも対応できないと、“何のために作られたのか”、原神の存在意義に関わってきます。できる事が多いほうが取り得る選択肢が増えますからね」


 ネタ枠のような装備と思ったけど、原神がナックルバンカーを装備したのは意外と真面目な理由だった。

 こちらは冒険者でレスキュー隊員ではない。災害現場には、俺の知らない、様々な状況があるのだろう。素人の目には不要であっても、本職がこういったものを求めているのかもしれないなら、グダグダ言う事でもないか。



「ちなみに、装甲パージや肘から伸びたシャフトの意味は?」

「あれは原神の多重関節構造の切り替え動作ですね。詳細は省きますが、ああする事で使い捨ての関節へ切り替えと、メインフレームへの影響を最小限にしているんですよ。

 あの一撃は400㎏どころか1t以上の衝撃を生み出しているんですけど、そうすると、さすがにフレームへの影響が大きすぎるんですね。その影響、フレームの歪みはその後の活動に差し障りが出るので、メインフレーム保護のためにあのシステムを開発しました」

「……打撃って、割と全身を使っているんですよね。腕だけに反動を集中させた場合、腰の入らない、ゆるい打撃になって威力が出ないと思うんですけど」

「ええ。あの一撃はちゃんと全身を使っていますよ。ただ、爆発を使う都合上、特に腕関節にかかる負荷が大きい。そういう事です」


 そういう物か?


「素人考えですけど。そういった、変形だとか切り替えをするのは、逆にフレームの脆弱性につながると思うのですが。逆に統合して、平均的な安定度を高める方がよさそうな気もするんですけど」

「そういう考え方もありますが、その場合はメンテナンス性が犠牲になるんですよ。一回、一箇所が壊れると、全体の交換やメンテナンスが必要になってしまう。

 それよりも負荷を集中させる事で交換すべきパーツをより小さくできる。多彩なシチュエーションで、それぞれ最高のパフォーマンスを出しやすいシステムを用意できる。

 こういった話はトレードオフで、何を優先するかの問題です。最善の答えはありません。我々が正しく一文字さんの考えが間違っているわけではなく、視点と選んだ道が違うだけ。それだけの話なんです」


 原神には、色々とあるようだ。

 技術的なことはよく分からないが、きっとネットとかを調べても、同じことができるロボットは無いのだろう。方向性はともかく、オンリーワンではあるようだ。

 これが災害現場で本当に使えるかどうか俺には判断がつかないから、正しい評価は下せないのだけど。



「ちなみに、悪路走破性能も従来の人型ロボットよりも上ですよ。

 ――ドローンとオプションが必要ですけれど、現在は木の生えた道のない山を登らせる制御ソフトを開発中です。他の研究室が」


 最後に、他社のロボットと比較しても“性能だけなら”優位に立っていると主張した。


 格闘技のアクロバティックな動作ができるのは、先ほどの演武で証明して見せた。

 だったらパルクール的な動作はできるのか?

 及川准教授は「出来る」と言うが、そこは機械系の及川准教授ではなく、ソフトウェア系の別の研究室が請け負っていたので、軽く流された。

 及川准教授は頭の良い人ではあるが、専門分野以外まで精通しているわけではなく、さすがに関連分野であれば素人ではないけど、本職には劣ると苦笑い。


 原神の悪路走破性能は、単体ではまだ無理らしい。

 某魔法少女と言いつつ成人女性な魔砲ヒロインのごとく、近くにドローンを飛ばし周辺地形を調査し、それを三次元的に把握して、移動を行うという。

 人型ロボット単独で周囲を見るより、ドローンを使った方がより正確に、死角の無い視界を得られる。


「実際には複数の原神を投入、編隊を組み相互に情報のやり取りをして対応する予定ですが。現在、原神は1体しかありませんのでドローンで代用しています。

 ……予算さえ確保できれば、原神2号機をロールアウトするのですが。まだまだ先は長いのですよ」


 俺に(たか)るつもりは無いのだろう。

 こちらに視線を向けず、及川准教授は肩を落とした。



 ……面白そうだし、多少は出資しても構わないと思っているよ?

 際限なく出すとは言わないけど、ここまで形になっているのなら、予算だけがネックなのであれば、出してもいいと思う。

 それに、だ。


「そういえば、ですけど。原神って、魔力バッテリーを使ってますよね。最後のナックルバンカーにも、魔石の圧縮開放を使っているように見えました。

 魔石はどの程度のランクを想定していますか?」


 俺の活動範囲と被ってるからなぁ。

 そういった意味でも、協力はできそうだ。

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