新装備開発③
「回転させると飛距離が伸びるって思ってたんだけど」
「実際は回転にエネルギーを使う分、飛距離が落ちるわけですね。もっとも、“飛距離”は落ちても、“有効射程”は伸びるわけです。有効射程は、最大射程である飛距離とイコールではありませんので」
ロケットなパンチを実用化すべく、ジャイロ効果を狙って、飛んでいく拳を高速回転させてみた。つまりブロークンなマグナムだ。
結果、狙いを付けやすく、命中精度は向上したんだけど、最大飛距離はそこそこ減ってしまった。
ジャイロ効果で射程が伸びると聞いていたので話が違うと思い聞いてみると、射程と飛距離は別物だと言われた。
「ジャイロ効果は直進させるための工夫なんですよ。だから、狙いを付けられる“有効射程”は伸びます。
しかし、その直進させるための力を得るために、どうしても回転時に発生する空気抵抗で、最大飛距離が落ちる物なんですよ。特にパンチは形状が形状なので……発生する空気抵抗も、より大きなものになってしまいますから、この結果は必定なのですよ」
付け加えると、弾丸よりも重いパンチは必要とされる回転数も上がってしまうので、パンチは回転数が足りていないというオチも付く。
全く効果が無いとまでは言わないが、銃弾ほどジャイロ効果は見込めないのだという。
「ですが、それを実践で実感できたのは嬉しいですね。ええ、これらのデータは無駄ではありませんよ」
及川教授や研究生たちは、こうなると分かっていて色々と実験をしていたようだ。
無理や不可能を机上の数式ではなく、実験データで証明できてホクホクした笑顔を見せている。
「ここから、不可能を可能にするから楽しいんですよ。できると分かりきった事をやっても意味がありません。できない事をできるようにして魅せてこそ、研究者なんですから」
ここから「どうすれば良いか?」と悩むのが楽しいのだと、及川教授は言う。
楽しそうで何よりだけど。予算もそこまで出していないけど。
……いや、もう何も言うまい。本当に実用性のあるものを作れるかは疑問だけど、挑む事そのものは悪い事じゃないんだから。
「○ノフスキー粒子が欲しいです……っ、先生!!」
「無茶を言わないでください。普通にドローンを使えば良いではありませんか」
「ドローンでは、敵の的になるだけではありませんか! 速度が足りんのです、速度がっ! 偉い人には分からんのですか!?」
別の開発チームは、及川教授に無茶ぶりをしていると言うか、寸劇をしている。
彼らが作りたがっているのは、多重展開可能な遠距離子機。小片、漏斗、竜騎兵と称される、アレだ。
素直にドローンを使えよってみんな思っているんだけど、それが嫌なんですと、なんか高機動型の物を作ろうとしている。
なお、ビーム兵器など存在しないし、銃を装備する事もできないし、武装はどうするんだと思ってしまうのだが、そこはスルーされている。
彼らはまず、高機動型浮遊ユニットを作りたいらしい。
「ロボットの空間知覚能力ならば、レドームを使えば、火器管制システムと合わせるだけで実践レベルの制御はすでに可能なんですよ! 男なら、ここは挑まなければ如何のですよ!」
「宇宙で戦ってこい。いや、先にコロニーとか軌道エレベータか。地上でやろうと思うなよ」
どうでもい話だが、アレが地上で機能しているのはアニメ・ゲーム的な演出であり、本来はその世界の独自設定に助けられての事だ。本来は宇宙空間で使用する武器である。初期設定だけ見れば地上用の武器ではない。
ドローンも結構素早く動くし、トロくもないんだけど。それでも彼らは「スピードを甘く見るな!!」的な、鋭角的な空中機動を実現したいのだという。
「推進剤を使った超機動は可能なんですね。あとは姿勢制御システムを……」
「ちょい、待った。その推進剤、どれぐらい搭載する? で、どれだけ超機動をするために消費する? それは、コストに見合った働きが出来るのかな?」
「それは、その……」
「まずは、武装を考えようか。そういった機動が必要になる、そんな武装だと良いよね」
実現までの道筋は存在するので、妄想兵器ではないんだけどね。
ただ、もう一歩分、考えてもらわないと、ゴーサインは出せない。
ロマン兵器の開発そのものを否定するつもりはないよ。
でも、ロマンだけで計画を立てないで、実用性にも目を向けてもらわないと。
ロケットなパンチはワイヤーを張るとか、遠くの物を掴むとか、ちょっとは利用方法を考えているからゴーサインを出しただけど、超機動浮遊ユニットを作っても、俺にプレゼンできる使い道が無いなら机上の空論で終わらせるよ?
俺は偉い人だからね。技術者の言葉が分からんのですよ。




