新装備開発①
「よし……よし!」
四宮教授の作った、レベルアップに伴う能力変動に対応した機体制御システム。
レドームのような大きい専用のユニットを必要とするものの、その性能は確かなものだと証明された。
3体のリビングコートはレベルアップをしても中にいるリトルレディを壊さず、そのまま戦い続けることができた。
これは快挙であり、結果を出した四宮教授は思わずガッツポーズをして喜んでいた。
「これまでのデータだけでは不十分だったのだけれど、レドームを用いた戦闘データが加わった事でより正確な情報が集まったのだよ。おかげでここまで漕ぎ付けられたわけだね!」
満面の笑みを浮かべる四宮教授。
それはそうだろう。これまで全く前に進まなかったパワードスーツ開発を、地道な研究で進めたのだから。
年単位の研究が報われたのだから、苦労の分だけ感慨もひとしおだろう。
「教授、すげぇぇ!」
「はー。大したもんだな」
そんな四宮教授は、工場内でヒーローのような扱いをされている。
何度も無駄としか思えない修理を担当していた面々は特に感謝していて、顔を出した四宮教授に惜しみない賞賛と感謝の言葉を送っていた。
一方、及川教授はちょっとだけ工場内での扱いが悪くなった。
四宮教授という分かりやすいヒーローが現れた事で、何度も修理をさせられた者たちからの評価が下がってしまったのだ。
これに関しては打つ手など無い。
及川教授は設計という縁の下の力持ちなので、華々しい活躍というのが望めないし、製造などとは対立しやすい立場にある。
特に新製品の開発などやっていると、失敗作も当たり前のように出るので余計に評判が悪くなりやすい。
設計という部署は文句を言われる事が多く、感謝される事が少ない。設計者の仕事ぶりを褒めるのは、だいたい「自社製品」の重要性を理解する上司たちぐらいであった。
他部署の同僚は、設計という部署の苦労と功績を理解しにくいのである。
「――と、いう事で。大型バイクの開発は引き続き、よろしくお願いします」
「うっす! 頑張ります!」
工場内における明暗がはっきり分かれてしまった形になるが、経営陣の一員である俺としては、引き続き頑張ってもらえるように開発費を用意しておく。
タイタン用の三輪バイクは試作品がそこそこ見れるものになってきたし、これが完成すればリビングコート装備状態のリトルレディに流用できるので、いま設計に割り当てる開発費を削る理由はない。
工場内の人気とか関係なく、必要だと思う所に必要な額を割り振るのが俺たちのお仕事である。そこに私情は挟まないよ。
及川教授のお弟子さんらには、減額も増額もしない、前期と同じ額の予算を渡しておく。
これが終わったら、次は新しい武器とか便利アイテムとか、設計にはそういった物の開発を依頼する訳で。
それはそれでやる気の出る話だから、設計部の中にある開発チームのテンションは高い。
仕事の合間に作ってみたい装備類の申請書類を書いていて、こちらの提出しているぐらいにはやる気に満ち溢れているよ。
……レールガンや荷電粒子砲とかの開発に許可なんぞ出さないけど!
どこと戦争をする気だ、お前らって言いたくなるね。
そもそも遠距離武器はレベルアップの問題が出るから、優先順位は低めだっていうのにな。
そういうネタ武器を実用レベルに持っていくのに、どれだけの研究が必要だと思っているんだか。
簡単に実用可能な武器だったら、とっくに世界各国の軍隊で制式採用されているっていうのにな。
日本ぐらいだぞ、レールガンをまともに配備している国は。アメリカとか他の国は何か技術的な問題があって開発を中止していたはずだ。
こんな小さな規模の工場で、そういった研究を中止されまくっている武器を作ろうとして、どうしようというんだか。
そもそも、開発に許可とか要るのか?
要りそうな気がするよな。通常の銃器は製造に認可が要るわけだし。開発も製造の一つだから、無許可は拙いだろ。
何か申請書類が必要なら、早めに申請しないと無駄に長い待ち時間が発生するから、動くなら早い方がいい。
今度、そういった話に強い弁護士さんに相談をしてみるか。下手に認可が要るような物を無許可で開発してお縄になるとか、馬鹿馬鹿しいからな。
冒険者関連でいろんな規制が撤廃されたりしているけど、兵器はきっとその対象外だっただろうし。ちゃんと調べておこう。
「こういう事は、やりたい奴に動いてもらうのが筋だよな」と、そう言って逃げたいけど、調べさせ場合は、許可が下りてから研究をスタートさせなきゃいけない。
そうさせないためにも、俺が色々と調べて条件や状況を確認しておく。
上司っていうのは、部下の暴走を抑えるのもお仕事だ。
頑張るしかないよな。
……光織とか、そういった装備があると、使ってみたいとか言い出しそうだ。




