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リビングコート③

 こうやって宴会の準備をしていると、会社における俺の立場は親戚のおじさんの様だと思えてくる。


 思春期の息子から見て実の両親というのは、過干渉でウザい相手と思えてしまう。

 実際は衣食住を保証してくれる庇護者なのだが、それに対して当然という意識が働き、感謝したりはしない。


 それに対し、たまにやって来る親戚のおじさんというのは、お土産やお小遣いをくれたりするが、普段は接点など無いので、あまり嫌な印象を受けない都合のいい相手だ。

 中にはやらかして(・・・・・)嫌われる人もいるだろうが、年に数回会うだけなので、そこまで面倒でもない。



 会社で両親の役は、社長である鴻上さんと、部長たちだろう。

 普段から顔を合わせて色々と要求してくる上司というのは、とにかく嫌われやすい。言っている事が正論だと分っていても、ちょっと反発したくもなる。

 特に実務系の末端は事務ばかりの上司を「分かっていない」と見る傾向にあり、仕事に対する意識が乖離しやすい。

 外から見ていると、鴻上さんや上司の人たちも頑張っているのがよく分かるんだけどね。


 俺はたまにやって来て、会社の雰囲気が悪くならないように手を回すし、ちょっとしたボーナスキャラのような立ち位置なので、「おだてておけば何かくれるかも」と期待されていたりする。

 全体的に俺はそこそこ好かれていて、一部からはチョロいと思われ、たまに無理を言われる人から嫌われる。


 会社全体の利益を見ると非常勤な俺よりも常勤な鴻上さんらの方が貢献しているんだけど、そんな事は末端には関係ない。

 「分かりやすい利益」だけで見れば、俺の方が「いい人」に見えるんだから。



「何と言うか、報われませんね」

「嫌われようが、会社のために動くのも責任者の務めですから。

 ですが、その分の利益はしっかり頂いていますよ。差し当たっては、このお肉でも頂きましょう」


 上司チームは部下たちと離れた、端っこの卓を囲んでいる。

 上司が近くにいては、部下は羽を伸ばせないからだ。無礼講と言ったところで信用する人などいないし、どうしても気を遣われる。

 それを避けるためには上司だけで固まる方がいい。


 それに、部下には聞かせたくない同じような立場の人間にしか言えない愚痴も多いからね。

 俺たちは、互いの苦労をねぎらいながら、グラスを酌み交わすのだった。





 結論から言おう。


 オプションコートのリビングメイル化は成功したが、期待通りの結果ではなかった。

 レベルアップの結果はある程度はこちらの想定範囲だが、パワードスーツとしての運用は出来そうもなかったのである。



「リビングメイル化は成功したんだけどなー。あーあ。なんで中身を壊しちゃうかなー」

「やはり、元が元だからでしょうね。カースドナイトは、“鎧が動いている”のであって、“中の人の動きを補助している”訳ではありませんから」

「結局、中と連携を取るには、動きを連動させることは出来ずじまい。はぁ」


 オプションコートのリビングメイル化、『リビングコート』へのレベルアップそのものは計画通り、上手くいった。


 俺が想像したとおり、パーツ単位で対応した装甲を作れば、魔法生物化は安定して行える。

 複数のパーツを混ぜ合わせると、途端に魔法生物化をしなくなる。ゲーム的に考えるとよくある条件なので、そこはそういう仕様なのだと素直に納得された。

 ドロップアイテムの鎧の合金化、機械パーツへの転用が有用と分かった事で、これでようやくカースドナイトは、そこそこ稼げるモンスターと認識されるようになったのである。


 俺はリビングコートを作った訳だが、他社が使う時は普通にロボットの装甲素材にするだろうね。

 リビングメイル化すれば燃料消費が大幅に軽減されるし、判断能力が高くなるので、今後の冒険者用ロボット産業に良い影響を与えるんじゃないかな?



 リビングコートの基本性能は、かけた手間に比例する。完全に手作業で作った装甲のオプションコートは、同じ条件で運用する他の物よりも高い性能を持つようになっていた。

 量産を考えるとある程度の機械化をしないといけないけど、「フルカスタムなワンオフ機は完全手作業なのでクッソ高い」などと使い分ければいい。金持ち相手なら吹っ掛けた値段で搾り取る事も可能だ。

 そこは顧客のニーズと市場規模を見て調整する話だろう。


 もっとも、これは実際にそれで商売をする鉄鋼メーカーさんが考える事なので、俺が考える事ではない。俺は鉄鋼メーカーとパイプを作れたので、それで満足なんだから。

 今後も仕事上の付き合いをしていければいいなと、そう思うよ。


 金属加工関連は工場があるのでいいんだけど、金属精製関連では鉄鋼メーカーの手を借りたい場面も多いのだ。

 コネは多いに越した事は無いってね。



 そんな事はいいとして、リビングコートは、中身であるリトルレディとの同期が出来るものではなかった。

 有り体に言って、レベルアップした瞬間に中身を壊す問題児のままであった。

 そこだけは、どこまで行っても変わらないのである。

 発想を変えてリトルレディもリビングメイル化を行ってみたが駄目だった。


「この問題、どうすればいいんだろうな?」

「四宮教授が何か考えているようですから、それに期待ですね」

「お二方、いつまでも仕事の話をしていないで、飲みましょう! 食べましょう! 騒いで忘れてしまう事も必要ですぞ!!」


 肉を食い、酒を飲む。

 そうやって沈む気持ちを切り替え、打つ手無しの現実から目を背けるのであった。

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