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カースドナイト④

 普段、三人一組で行動させる時は経験値を分配するように戦わせるのだが、今回は鎧を装備した者が総取りをするように経験値配分を行う。

 そうする事でカースドナイトの全身鎧は一月も経たぬうちに最初のレベルアップを果たす事となった。


「一回目は、特に変わった事も無し。まぁ、二回目以降に期待ですね」

「運搬の手間がある以上、2体分以上の鎧を用意しても無駄なのが辛いところだね」

「あの、ゴブリンダンジョンだけではなく、アンデッドダンジョンでもやってみるのはどうでしょうか。こういうのは、土地ごとにレベルアップの傾向が違うという話もありますし、ダンジョンの特性が与える影響というのも小さくはないと思うのですが」


 ただ、最初のレベルアップによって得られた変化は、ただの強度向上。望むようなものではない。

 しかしそこですぐに諦める事はせず、やり方を変えてもう数回、レベルアップさせてみようと意見を交わす。


 パワードスーツの件もあり、失敗する事には慣れつつある。

 新しい事だけに、意欲はまだ尽きていない。気持ちを切り替え、次の行動に移し、望む結果が出るようにと試行錯誤を繰り返し。

 こんどこそ上手くいくかもしれない。そんな気持ちで挑める分、多少の失敗はただの通過点に過ぎなかった。



 この実験を始めたのは冬の終わり頃である。

 それがようやく上手くいったと笑い合う頃には春が終わり、初夏の頃となっていた。





 アンデッドダンジョンにて、カースドナイトの全身鎧はこちらの望むような特性を得た。

 幽霊が憑いたのかどうかは知らないが自律して動くようになったのである。


「こちらの言う事を聞く意思はあるようで何よりなのだよ!」

「そうでなければ、討伐対象ですからね」

「中にいるリトルレディの方は変わらず、自我はありません。

 一応、単独でも動けはしますが、鎧を前提にチューニングした分、通常の物よりもスペックは落ちます。そこは要改善ですが、もう少しお時間を頂きますね」


 ダンジョン内限定だが燃料不要、ノーコストで動く鎧騎士の誕生である。

 戦闘能力は初期から高め。全身鎧の騎士なのに、意外と俊敏に動く事ができた。

 ただし、ハイスペックなのは中身がいる時に限る。中身なしだと、戦闘能力はゴブリン並に落ちる。


 ノーコストで動く鎧の仕組みがどんな物かは気になるが、これを言い出したらゾンビが動く理由も全く未知のお話になるので、突っ込みだしたらキリが無いので考えないようにしている。

 



 中身に関してだけど、これはリトルレディのような、動くものでなくともOKだ。カースドナイトがゾンビを中身としていたように、自分で動けないような物でも大丈夫と、そういう事だと俺は思っている。

 しかし中身はただの人形でも問題は無いんだけど、ただの人形の場合とリトルレディとでは性能に差が出る。中身の質が良ければ戦闘能力が上がるという、そういった仕様だったのだ。


 リトルレディを中に入れていた頃は「きっと鎧は中身の持っている戦闘データを参照しているんだろうな」と思ったけど、それだと中身無しや人形の時と辻褄が合わなくなるので、違う理由なんだろう。

 これについては、もっと数が出回ってから考えれば良いかな。

 低コストユニットとして、今後も増やす予定だし。





 動くようになったカースドナイトの鎧だけど、「カースド(呪われた)」では語感が悪いので、『リビングメイル(生きてる鎧)』と呼ぶ事にしている。

 RPGなどのゲーム的にはどっこいどっこいの扱いだが、こっちはアンデッドモンスターではなく、魔法生物的なサムシング。そういう主張である。


 そんなリビングメイルだが、意思疎通は身振り手振り。会話能力は無いが、そんな物は期待していないので問題ない。

 とにかく動いてくれれば良い。そういった期待しかしていなかったので、各種欠点は笑って見逃せる範囲だろう。

 何より、これでカースドナイトのドロップアイテムに新しい付加価値が付いたので、苦労に見合う収入アップにつながるのだから、文句など出ようはずもないのだ。


 ……うん、本当に苦労したんだよ。



「全身鎧とは、人間が着用するものではないと、つくづく思うな」

「そうだね……。冬には凍り付くような冷たさだったけれど、夏は夏で一人用サウナだね」

「内部の冷却機構が全力で頑張っていますが、アンデッドダンジョンが霧の森でなければ、屋外使用はできませんね。いくら何でも、限度というものが有ります」


 そこまでにはとてつもない苦労があったのだが、詳細は省く。全身鎧に実用性はない。そういう事だ。

 防御力以前に、金属鎧は人間が身につけるべき物ではないと、我々はつくづく思い知らされたのである。それだけだ。



 なお、人型ロボットに関しては、そこまで酷くもないよ。

 光織たちは塗装で大きく対策が施されている。

 カラーリングが白であるから光を吸収して熱を持つ割合が小さく抑えられ、籠もった熱はデフォルトで付いている内部冷却システムだけで事足りるように設計されているのだ。

 そういった工夫は他にもあるけど、そうやって最初から環境の変化を想定して色々と対策が施されているので、冬の寒さや夏の暑さにも耐えられる。というか、そうでなければ日本中で売れたりはしない。

 現代のロボットとは、そういった設計思想を持たない中世レベルの金属鎧とは訳が違うのである。


 そういた問題を解決するため、鬼鉄に次ぐ新素材ができないかと、現在研究中。

 リビングメイルを作るようにパワードスーツも作れないかと、そんな期待をわずかに抱き、パワードスーツのメイン素材にカースドナイトの鎧を使った合金作成に手を出しているのだ。



 自我持ちロボットを作る事は可能。

 カースドナイトのようなリビングメイルを作る事も可能。

 それらを組み合わせられないかと、わずかばかりに期待をしている。


 それが出来れば……この2年間の停滞を打破できるかもしれない。



 上手くいかない事が嫌になり、思いつきで言い出した新しい事を他の仲間に助けられ、一周回って元に戻る。

 もっと早くから動き出していればと思わなくもないけど、それでも前に進んだ事に、俺は安堵の息を吐いた。

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