カースドナイト②
狩場の分散とそれに伴う敵の密度減少、そこからくる収益率の低下は、新なる獲物の入手による収益増で多少は抑え込める。
そう、「抑え込める」程度でしかなく、防げるものではない。
移動に使う時間と、タイタン1体ごと、単位時間当たりの収入の期待値の低下はその程度では抑えきれない。
なにより、カースドナイトはゾンビよりもかなり強いので、戦闘時間の延長が加われば“割に合わない”モンスターでしかなかった。
タイタンは相性が良いとか言ったところで、そこはどうにもならない話である。
カースドナイトで利益を上げようとするのは、存外難しかった。
「アンデッドダンジョンで鍛冶をするというのはどうなのかね? 一文字君はゴブリンダンジョンを主軸にしているけれど、別にアンデッドダンジョンでも同じ事は……ああ、いや、すまない。出来ないのだったね」
アンデッドダンジョンで金属鎧のドロップアイテムが手に入るようになっただが、これが安値でしか売れないので、どうにかならないものかと俺たちは頭を悩ませている。
最初、四宮教授や及川教授は、俺がゴブリンメタルから鬼鉄を作ったように、新しいダンジョン系の合金を作ればいいのではないかと考えていた。
だけど、それは出来ない。
なぜなら、アンデッドダンジョンで鍛冶をするのは難しいからだ。
ゴブリンダンジョンは鬼鉄の生産で手一杯。追加で何か作る余裕はない。
これはいいんだ。
アンデッドダンジョンの環境は霧の森である。
魔法により火を灯す魔石式溶鉱炉にとってあまり良い環境ではなく、そもそも置き場に困ると言った有様だ。
洞窟型ダンジョンと違い、360度のみならず上以外の全方位から敵が襲ってきかねない森の中。陣地の中で引きこもっていれば安全と見せかけて、ゾンビが地面の下から湧いて出てくる事もあるのだ。「私はさっきまで埋葬されていました」という奴だが、質が悪い。
陣地の優位性は、「高い所にある」事なのであるのだから、そうなるのも仕方がない。
実は一回だけ、穴を掘って拠点化できないか試したことがあるが……掘った土の中にゾンビがいた事もあり、二度とやらないと決めている。
地面に突き刺したスコップを、土の中から出てきた手が掴んできた時は、マジでビビったよ……。
だったら野犬ダンジョンで、というのも難しい。
野犬ダンジョンはモンスターの出現率が悪いからだ。
炉にくべた金属に捧げる命が少ないからか、安定して鬼鉄を作る事もできない有様で、下手をすると、俺が鬼鉄を大量に作った事への反動で出来たダンジョンではないかと言われる程度にモンスターの割合が低い。
野犬はただの野犬。野生動物であり、モンスターではない。
だから殺してもレベルアップに貢献しないし、持ち出し可能な死体がそのまま残り、ドロップアイテムは無し。
そのくせ放置すれば中から野犬が出てくるので、定期的な巡回以上に戦う旨味の無い、不良債権であった。
これらは外部の調査隊が調べ上げた事で、わりと早い段階で判明している。
既に野犬ダンジョンへの期待はほぼ無くなっているよ。
出てくるのが猪とかならジビエとか期待できたんだけど、犬の肉は誰も食べないからね。無駄な殺生だと批判されてしまっている。まぁ、無視しているけど。
「他のダンジョンで、鍛冶をさせてもらうように……利用料を取られそうだよ。
そもそも、設備投資費の回収が難しいことを考えると、鍛冶に拘るのは止めた方がいいのか。難しいね」
こうなると、完全に手詰まりである。
カースドナイトの素材は従来通り、二束三文の捨て値で売ってしまう方がいい様にすら思えてくる。下手に欲をかくよりも、その方が賢く見えてしまう。
俺と四宮教授は、二人苦い顔でため息を吐く。
すると、及川教授がこんな事を言いだした。
「一文字さん。このドロップアイテムの鎧はカースドナイトの鎧と同じような物、なんですよね」
「ええ、まぁ。見た目だけならそうだと思いますけど」
「もしも、ですよ。これを全身鎧一式分集めた上でレベルアップさせたら、どうなると思いますか?」
「え?」
「いえ、ですから、このドロップアイテムの鎧を一式揃えて、中にリトルレディでも入れて戦わせ、レベルアップさせた場合。もう一度、カースドナイトのようなものになると思いますか?」
「ああ!」
及川教授はこれがカースドナイトのドロップアイテムならば、そのゆかりの装備ではないかと言っているのだ。
ならば、レベルアップで元の状態になるかもしれないと考えるのは、そう飛躍した発想でもない。
これまで全身鎧一式を揃えたコレクターはいても、その上でレベルアップまで頑張った人がいないと来れば、不思議と期待できる気がした。
「駄目で元々だと思いますが、試す価値はあると思いませんか? パワードスーツを作る合間の、気晴らしになると思いまして」
及川教授の考えが実を結べば、これはこれで面白い事になるかもしれない。
俺と四宮教授は面白そうだと、思わず首を縦に振るのだった。




