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カースドナイト①

 ダンジョンというのは、非常にゲーム的な存在だ。

 モンスターを無限に生み出し、そのモンスターにドロップアイテムを持たせ、戦い続ければレベルアップも(魔力に順応)する。


 付け加えるなら、モンスター同士が争い合わず協力して侵入者たる人間を襲うのも、ゲーム的と言えるだろう。

 モンスターがどのような存在かはさておき、複数種類のモンスターが混在するダンジョンで、そのモンスターが種族単位で争わないというのは、人間の目から見ると奇妙に映る。


 髪の色、肌の色で殺し合えるのが人間だ。

 人を見れば襲わずにいられないモンスターたちが、種族が違うのに争わないというのは、それほど奇妙な事なのである。





「棲み分けとか、そういう事を言うには環境が似すぎているし。どうしてこう、いきなり出てくるモンスターの種類が変わるのかな?」


 霧の濃い森の中であるアンデッドダンジョンの環境。それらは歩を進めた所で変わることなく続いていた。


 フィールドタイプのダンジョンの環境が数㎞程度で変わる事はあまり無い。

 ダンジョンの環境が変わるには、それこそ10㎞どころか20㎞は移動しないと変化が無い。だいたい1日分の移動を強いられるというのが一般的で、大きな変化がある所は少ない。


 しかしその境目から、これまたゲーム的にモンスターの出現分布が大きく変わる。

 その境目を見に行ったタイタンは、新しいモンスターの情報を持ち帰っていた。



「全身金属鎧の騎士。腐った中身有り。ゾンビナイトか、カースドナイトって所ですね」

「ふむ。その違いは何なのかね?」

「モンスターとしての、本体ですよ。中身のゾンビが本体なのか、それとも鎧が本体で中身が添え物なのか。モンスターとしては後者の方が厄介ですね。

 あ、見てください。体がバラバラになっても動いているでしょう? これが厄介なんですよね。金属の鎧だけに、殺すまでが大変なんです」


 人間ではないタイタンが1日に移動できる距離は、人間の移動距離をはるかに超える。

 巨体なので通る道こそ制限されるが、木々の合間を縫っても方向感覚は狂わないし、道なき道を往く疲労も無い。

 なので、日帰りで偵察もできるのだ。


 向かった先は、入り口付近と同じ霧の森。

 これはハズレかと思ったんだけど、出てくるモンスターの方はしっかりと変わっていた。

 それが件の、カースドナイトである。


 カースドナイトは呪われた鎧に憑りつかれ殺された哀れな騎士。そんな感じのモンスターとして認識されており、呪われた鎧が本体だ。

 鎧の一部が黒くなっていて、その部位を破壊すれば倒せる仕様となっている。

 逆に言うと、そこを壊さない限り何度でも立ち上がる嫌なやつで、中身がゾンビという事もあり、冒険者からは蛇蝎の如く嫌われている。臭くて堅くて殺し難いとなれば、嫌われるに決まっているのだ。



「しかし、ドロップアイテムとして金属鎧を落とすというなら……いや、やはりお金にはならないのだね?」

「はい。幻想金属ではなく、ただの金属鎧しか落としませんから」


 なお、カースドナイトのドロップアイテムは魔石と全身鎧のパーツである。

 魔石はそこそこの値段で取引されるが、全身鎧のパーツは二束三文、ゴブリン装備よりはマシであるが、買い手のつかない屑鉄扱いである。売値は数千円が関の山。割に合うものではない。

 悪臭という戦う環境の酷さもあるが、攻略難易度とドロップアイテムを比較すると、他に行った方が効率がいいのである。

 トレジャーボックスで簡単に運べるとはいえ、わざわざ集めたい物でもない。



 それに、だ。


「アンデッドダンジョン特有の、疫病対策が必要になるケースもありますからね。ダンジョン外に持ち出されないとはいえ、一時的にでも病気になるのを嫌がられるケースでもあります」

「ダンジョンから出ればウィルスは消えるけれど、生成された毒が残るケースもあるのだったね」

「はい。1日ぐらいなら大丈夫ですけど、遠征には向きませんよ」


 アンデッドダンジョンに居るのはゾンビたち。スケルトンもいるが、やはり主力はゾンビである。

 こういったダンジョンは嫌われるものだが、アメリカでは逆にカルトな人気があり、ゾンビハントを楽しむ風潮さえあった。


 しかし、数日間泊まり込みでゾンビと戦っていた人が病気になった事で、その評価は一変する。

 ゾンビの出るダンジョンで長期間戦うと、ゾンビが持つウィルスにより病気になる事が判明したのだ。

 感染源は主にゾンビを攻撃したときに飛び散る体液で、知らないうちにこれを吸い込み続けると、最短2~3日で発症するのだ。

 1日程度で切り上げれば発症に至りはしないのだが、それでも病原菌を持つゾンビたちはほとんどの冒険者からそっぽを向かれる事となった。元から見向きもされていなかった気もするが。


 今では、アンデッドダンジョンに篭るのは本当にゾンビ退治が好きな人ぐらいというありさまである。

 わざわざ籠るのは、その方がよりリアルにゾンビサバイバルを体験できるからだとか。正直、理解できない世界である。



 遠征しないと出くわさない、カースドナイト。

 病気になってまで戦いたい相手ではないが。


「一応、ゾンビよりは稼げる。のかな? 戦うのはタイタンたちだし」


 病気にならない、遠征を苦にしないタイタンであれば、デメリットは小さい。

 それにタイタンは巨体でありパワーがあるので、鎧モンスターのカースドナイトとの相性はそこまで悪くないのだ。


 もしかしたら、多少効率が落ちるけど、稼げるのかもしれない。

 そんな期待を抱かせる、ダンジョン奥地の情報だった。

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― 新着の感想 ―
アンデッドダンジョンの中程には、日記が落ちてたりするのかな? コアなファンの中には、体調の悪化を感じながら記録を残したりする剛の者がいたりするかもw
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