対抗意識(双方)
史郎の会社の事は、気にしても仕方がない。
好調だろうとこちらに損は無いし、不調であればリスクがある。
ならば好調である事を祈ろう。
どこか不安のある業務をしているが、今のところは大丈夫だろうからな。手を貸す必要も無いよ。
「新しい事に手を出すには、やはり人手が足りないのだよ」
「新人は増やしていますよ。ですが、これ以上仕事を増やす余裕はありません。
せっかく育てた人材を、新規事業に投入するのには反対です。育てた人材を引き抜かれた育成係の負担が減らないのは、会社への不満を増加させます。
焦って業務拡大をするのは失敗するだけですよ」
史郎の会社は関係ない。
それとは別の話として、四宮教授と鴻上さんに事業拡大の話を振ってみた。
具体的には、アンデッドダンジョンの攻略をもっと進めるという計画である。
魔石稼ぎだけなら今の体制でも問題ないが、そこから更に先へと進むことで、さらに利益を上げようというものである。
主力は量産する新型タイタンになるけど、専任で管理、運用する人員は必要で。簡単には出来ない。
鴻上さんはその点を特に気にしていた。
ただ、それなら長期的な視野で計画を組むだけの話である。
別に一年二年で計画を完遂するという目標を掲げていない。時間が必要なら相応に準備をしてコツコツと進めていけばいい。
俺は計画を持ちかけているけど、今すぐやれなんて言ってない。
「そもそも、簡単に人が来るなら苦労はしないのだよ。
多少は給料に色がつくと言っても、アンデッドダンジョンは不人気なのだからね。初期投資を肩代わりされようと、よそのダンジョンに行くのが普通の冒険者なのだよ」
リモートで会議に参加する四宮教授は辛辣だ。
ただし、「人を増やす」という部分に問題があると言っているだけで、俺の計画を完全否定するためではなく、より建設的な形にするための否定であった。
「それならば、自我持ちに至ったタイタンを中核に据えて、人手を最小限にする方向で調整をつけるのがいいのではないかな。人手不足を補うのがロボットの存在意義なのだからね。
この計画はまだ机上なのだから、まだいくらでも変更がきく。これから仔細を煮詰め、実現可能なレベルに引き上げようではないか!
……無論、そこで不適格な計画しかできないようであれば、止めさせてもらうのだよ」
四宮教授の立ち位置は、こちらの味方だ。
俺と敵対、反対するわけではなく、いい計画であれば協力する。駄目な計画であれば駄目なところを指摘するし改善点まで考えてくれる。
そして俺が何も考えないようなら、俺を見放すだろう。
味方と言っても俺を甘やかしてくれる駄目な味方ではなく、俺を育てようと、頼り切りにならないよう厳しくも見守ってくれるのが四宮教授だ。
及川教授もそうだが、この二人にはとても助けられているし、早い段階で協力を得られたのはありがたい。
俺には経営者として甘いところがあるので、補佐をしてくれる二人には頭が上がらない。
俺たちは史郎の会社と比べて、意思決定や動き出しには時間がかかってしまう。史郎のように素早い事業展開ができない。
計画から実行までに経営陣の中で情報共有、意思疎通に目的の明確化といったコンセンサスが必要だからだ。
こういった事業形態では安全で確実な計画で物事を進められる一方、同業他社に先を行かれる可能性がある。ライバルに差を付けられやすいのだが。
「そもそも、ライバルに差を付けられるという分野じゃないんだよな」
アンデッドダンジョンは会社が所有しているから独占状態なので、焦らなくてもいい。
焦って失敗するぐらいなら、やらない方がマシ。そんな気持ちで挑める。
不人気ダンジョンの攻略は、競合他社が存在しないのだ。
「そういう意味では史郎は大変だよな。ワンマン企業のオーナー、社長でライバル企業と戦わないといけないんだから。
全責任を一人で背負うとか、俺だったら嫌だな。ストレスマッハでハゲかねん」
俺の親父や母方も含む祖父母の一族にハゲはいないけど、油断はできない。
先に胃がやられるかもしれないが、毛髪が死ぬのが先かもしれない。
余計なストレスは抱えたくない。
「そう考えると、史郎はアホなのか? ストレスで大ゴケしたくせに、またストレスフルな立場になるんだから。
……あれ? もしかして、状況はあんまり良くなかったりするのか?」
なんで史郎がそこまで生き急ぐのか知らないが、そういう性分だとしても、もう少し学習してくれと言いたくなった。
不安要素がドンドン増えていくんだけど!
仕方がないので、両親を通して史郎のフォローをお願いした。
言わなくても周りの大人が助けるだろうけど、何もしないと怖いからな。ちゃんと史郎を助けてやって欲しい。
この時の俺は、それが余計な世話だと気が付かず、電話をするのだった。




