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史郎の会社

 史郎の会社は、色々とよくできていた。

 冒険者としてやっていく上で、大きな助けになるシステムを作っていた。


 冒険者をやっていく上で、最初の関門は「モンスターと戦えるかどうか」なのだが、これをクリアした人でも、すぐに躓く石ころがある。

 それは収入だ。

 新米冒険者は、食っていくのが難しいのである。


 新米冒険者でも倒せるモンスターは、ドロップアイテムを換金したところで「無いよりはマシ」といった物が多く、なかなか食っていけない。

 光織やタイタンたちは疲労を気にせずガンガンモンスターを狩っているので勘違いしそうになるが、普通の冒険者は1日に100体や200体もモンスターと戦えないし、それを毎日などあり得ない。

 だというのに、冒険中にミスって怪我でもしようものなら、大赤字に転落する。

 命がけで戦うのに、月収はコンビニのバイトにさえ負けてしまうのである。普通に派遣登録をして、安月給でこき使われた方が儲かったりする。


 この事実に心が折れて引退する新人は後を絶たない。

 特に高ランク冒険者の収入を見て冒険者になるような者はそもそもアウトだが、真面目に冒険者になろうと決意した人だって収入がなければ食っていけない。

 親の支援でもあれば話は別だが、普通の親は我が子に冒険者など続けて欲しくないので、むしろ止めさせるように動くのが一般的である。

 冒険者がここ10年ぐらい「我が子になって欲しくない職業ランキング」で不動の一位なのは伊達ではない。


 ……俺たちが上手くやったというのもあるけど、ウチの両親は一般的ではないと言うことになるが、そのとおりなので否定できないのが辛い。



 史郎はそこに目を付け、冒険者として食っていけるように手厚くサポートしている。


 初期投資、つまり武具の支給を格安で行う。同時に不要になった装備の下取りも行い、次の冒険者に回す。それらは信用貸しというか、採算度外視のような金額で回していた。

 新人が注意するべき点や、やっておくべき事を教える。戦う事だけでなく、税金関係の処理も手伝う。ギルドでも先輩冒険者のレクチャーは有料でやっているけど、質はこっちが上らしい。

 ドロップアイテムの買い取りを行う。冒険者ギルドに持ち込まずに売り捌く伝手があるようで、買い取り金額は冒険者ギルドと大差ないようだ。


 こういった、基本的な部分はしっかり押さえているのは当然である。

 似たような事は冒険者ギルドでもやってるしな。できなければ、普通の冒険者はギルドの方に向かう。

 会社としての差別化は必要だが、押さえるべきポイントってのは外せないし、似た部分は出てくる。





 冒険者ギルドにはない支援業務の中で一番目を引くのはやはり、ロボットの貸し出しを行い、戦力を補強していた事だろう。

 ここでタチの悪い話が混じり、借り受けた冒険者にはロボットの買い取りもできるという罠があった。


 戦力補強にロボットのレンタルをする。

 周辺警戒などに慣れていない初心者であれば、こういった配慮は嬉しいだろう。

 最初のレベルアップまでの間は、特に危険と言われているのだから。

 だから2ヶ月間のレンタル契約を結ぶ。


 そうやって2ヶ月間、ロボットありきの冒険者生活をすると、その後が大変なのだ。

 どうしてもロボットが欲しくなり、ローンを組んで購入という流れになる。

 レンタルしていたロボットをそのまま購入すれば、冒険者として一緒に育ってきたロボットが付いてくるわけで、新人たちにも都合が良い。

 レベルアップもそうだが、一緒に組んできた経験が蓄積されているので、連携に支障が無いからだ。



 ここでタチが悪いと感じるのは、そういったお金を出しているのはだいたい親たちという点にある。

 普通の親は我が子に冒険者になどなって欲しいと思わないし、できれば辞めて欲しいと思っている。


 だが、それらは子供を心配するからであり、死んで欲しくない、怪我をして欲しくないからだ。

 ロボット1体をレンタルする程度の支援でそのリスクを回避できるとなれば、ついついお金を出してしまうのも仕方がない事だろう。

 その後の購入費用に関しても、パーティで1体のロボットを買うぐらいなら中古車を買い与えるぐらいの気持ちで財布が緩みかねない。レベルアップした直後というタイミングも重なり、祝い金として出す名目まであればなおさらだ。


 つまり新人冒険者を支援しつつ、その家からお金を引き出せるように話を持って行くのだ。


 うん。思った以上にタチが悪い。

 冒険者側からの評判はすこぶる良いが、その家族にしてみれば苦い顔をしたくなる会社運営であった。





 こういった事は誰でも思いつく簡単な事だけど、実行できる奴は少ない。

 その少ない実行者になった事で、史郎は躍進を遂げている。


 それに、思いつく事が簡単でも、実行する段階で多くの問題が発生するし、そこでうまくできなければ破滅するだけである。

 外から見れば簡単でも、実行する者が少ない理由はそこだ。

 つまり、史郎は賭に勝ったのだ。

 そこは素直に賞賛するべきだろう。



 なお、できたばかりの会社なのでまだ問題が表面化していないが、パーティの固有資産としてロボットを購入した場合、パーティが解散したらどうなるのかという話がいずれ出てくるだろう。

 そこを上手く乗り切れれば、史郎の会社は当分安泰だろうな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 普通に地雷ばっかな会社やな^^;
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