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レドーム運用

 三人が欲しい物を買うために頑張る。

 自分の為に頑張る様子は微笑ましいはずだが、それがゾンビの相手となると話が変わる。


 同伴を求められる保護者としては、ゾンビのいるアンデッドダンジョンになど行きたくない。

 だから頑張る姿を見るよりも、巻き込まないでもらえるとありがたいのだが。それを言うなら「アンデッドダンジョンが一番稼げるから」と三人の行動方針を決めた俺が一番悪いという結論になり、行かないという選択肢は潰される。


 微笑ましくもなんともない状況を我慢できるのは、ひとえにレドームの性能試験というお仕事があるからだ。

 タイタンたちに任せても良かったんだけど、比べて小柄な光織たちの方がレドームのレベルアップまでの時間が短いし、考え方が柔軟なのでこちらの指示を確実にこなせる。


 光織たちは短期間で大きく稼げるし、俺はレドームの性能試験とレベルアップ時間の短縮ができて、どちらにも得がある。

 だから俺もゾンビの悪臭を我慢しようという気持ちになれたわけだ。





「レドームの性能試験と割り切るにしても、これは酷い」


 レドームの運用だけど、これは光織から順番に、ローテーションで行う。

 そうしてレドームありで戦わせてみたが、これがまた、なかなか酷い。



 まず、戦うための防衛陣地が構築されているので、ゾンビがこちらに攻撃する手段が無い。

 用意した陣地は周囲を高さ2.5mの壁で囲ったものなので、ゾンビたちが手を伸ばしても上にいる光織たちには届かないのだ。ジャンプできればまだ届くかもしれないけど、ここのゾンビはジャンプもできないのである。

 だからこちらは上から槍で一方的にゾンビを攻撃する事が可能になる。


 ただ、これだとレドームの性能試験としては微妙である。

 敵の位置が分かったところで問答無用で先制攻撃なのだ。レドームが戦況に与える影響は小さい。


 だから、わざと大きな音を立てて敵をおびき寄せる。

 レドームで索敵を行い、敵がいる方角に向けてスリングで音響弾を撃ち、ここに獲物がいるぞと教えるのだ。

 大きな音を立てればその近くにゾンビは引き寄せられるし、ある程度近付けば陣地の俺たちに気が付き、攻撃しにやってくる。

 レドームは先制攻撃ではなく、敵を集めるために使われていた。

 戦力差が無ければやろうと思わない方法である。



 余談にはなるが、ゴブリンダンジョンでは同じ事をしない。呼び寄せるよりもこちらから攻撃しに行った方が早いからである。

 キングオブ雑魚のゴブリンの扱いなど、その程度であった。





 近くのゾンビがいなくなり手が空くと、役目を終えた音響弾の回収をして回る。

 こういった道具はちょっとのメンテで再使用が可能なので、使い捨てにしたりはしない。使い捨てにするとその分コストが上がるので、金稼ぎが目的である以上、節約するに越したことはないのだ。


 俺はその様子をモニターで眺めつつ、収支計算とレドームのデータ解析を行う。



「ここのゾンビの湧きは、ゴブリンダンジョンよりも多いよな。魔石の質もいいし、あっちの十数倍は稼げるか」


 モンスターを倒しても、ドロップアイテムが無ければ金銭収入はゼロだ。倒したモンスターの数はどうでもいい。

 ただ、モンスターがドロップアイテムを落とす確率が同じだと仮定すると、やっぱり数の多いこのダンジョンの方が期待値が大きくなる。

 そこに魔石の質、単価の上昇が乗算されれば倍率ドンで収入が増える。


 陣地の設備投資費の回収、音響弾を含む装備のメンテナンス、遠征費用。

 そういったコストアップを引いたとしても、三人の稼ぎはずいぶん増える。投資に見合う大幅な黒字だ。


 ここを買うかどうかで俺は渋っていたけど、鴻上さんが無理をしてでも抑えるべきだと主張したのは正しかった。

 タイタンの製造費用も簡単に回収できたし、経営者的にはかなり美味しい。

 リスクに見合う価値はあった訳だ。

 そのリスクも上手く抑え込めているし、アンデッドダンジョンの運営は順調である。



 レドームのデータだけど、こちらは人間の俺が見ても分かりにくく、扱いに困っているのが現状だ。


「木々の反応がウザい。けど、射撃をするときはこの反応が無いと困る。うっわぁ。未来予測とか、これ、俺には扱えないな」


 レドームからの情報を3Dの画像として処理してみると、割と精巧な周辺マップが出来上がる。

 そこにゾンビの出現情報を重ね合わせ、上から見下ろすように見るのは良いんだけど、これに三人の位置から木々に邪魔されず音響弾が届く範囲を重ね合わせたりすると、どんどん情報過多で見にくくなる。

 ここに未来予測情報が加わるとなると、俺の頭では処理しきれなくなってしまう。


 レドームは性能が良いので、その時その時で必要な情報だけを抜き取る事ができないと、多すぎる情報で逆に混乱する。

 性能の良い装備も、使い手次第ではただの重石にしかならない。

 ただ、光織のように使いこなせれば、有効な物だとはっきりわかる。



「これ、あった方が良いか?」


 光織にレドームの使用感を聞いてみれば、親指を立て、満足そうなジェスチャーで返された。どうやら気に入ったらしい。

 六花と晴海はそれを羨ましそうに見ている。明日は六花の番なので、レドームはその時に堪能して欲しい。


 ただ、三人に共有財産としてレドームを1つ買わせるつもりであるが、この分だと一人1個欲しがるかもしれないのは、あまり良くない。

 三人ともレドームを背負っても、そこまで大きな意味はないのだ。一人が装備していれば、それで良い。


 俺はその点だけが、ちょっと気になるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そうなるとレドームで収集したデータから欲しいデータだけをリストバンド型子機に送るとかする案がでますね レドーム使用者を指揮官とみなして、毎日交代で入れ替わるとか
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