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増収プラン

 チマチマと強化されていく光織たち。

 彼女らに払う給料はどの程度が適正か、冒険者視点で考えてみると、わりと残念な数字しか出てこない。


 多少は利益が出るようになったとはいえ、ゴブリンダンジョンのドロップアイテムの売却額は渋い。

 1日頑張ったところで、3人で5万円いくかいかないかと言った所だ。


 毎日の日課なので、月に150万円稼げるんだけど、これは経費を考えなかった場合の話。

 日々のメンテに魔石の補充。そういった支出を考えると、実利益は50万円ぐらいまで落ち込む事になる。3人で、月収50万円なのである。

 一般人としてなら多いんだろうけど、雑魚でもモンスターを相手にしてこれは、割に合わない金額だろう。





 ダンジョンだけで2000万円稼ぐには、3年以上かかる。

 もっと早くに欲しいだろうし、それを実現しようとすれば、ダンジョンでもっと頑張るよりも、ダンジョン以外の収入源が必要となる。


 ただ、有り難い事に、3人はテレビタレントの仕事があったので、そっちの出演料が結構貯まっていた。

 すでに3人は、小金持ちだったんだ。


「帳簿を付けておいて良かったな」


 俺は簿記とかそういった関係の資格を持っていないけど、冒険者時代に必要なスキルとして、納税申告などを覚えていた。

 その時の習慣で、領収書やら何やら、金銭の移動に関する記録は残しておく癖がついていた。

 その中にはもちろん、光織たちが出演したテレビ番組のギャラの記録も残されている。



「さすがに2000万円は貯まってないな。けどまぁ、少しそっちの仕事を増やせば、何とか稼げるか」


 テレビ番組への出演となると、唸るほどお金がもらえるイメージがあったけど、実際の出演料など、たかが知れている。

 多額の出演料を得るには相応の格が必要であり、ウハウハなのは××界のドンとか大御所とかお昼の顔とか、そういった呼ばれ方をされるような人達だけなのだ。

 一般的なタレントの出演料など、時給換算すると普通に働いた方がマシだったりもする。


 一時的に有名になりはしたが、ぽっと出の新人でしかない光織たちの出演料はお察しであった。



 それでもそうやって別口の仕事を追加すれば、収入アップは間違いない。

 が、これも人気に左右される水商売。需要が読めない不安定な仕事だ。それよりも、もっと安定して稼げる仕事を斡旋してあげたい。



「そうなると、他のダンジョンへの遠征なんだよな」


 三人のメインとなる狩場はゴブリンダンジョンだが、他のダンジョンで戦えないわけではない。

 ゾンビの蔓延るアンデッドダンジョン、新しく見付かった野犬ダンジョン。

 俺たちの確保しているダンジョンは他にも2つあって、そのどちらもがゴブリンダンジョンよりも稼ぎやすいダンジョンだった。


 野犬ダンジョンならゴブリンダンジョンの攻略を終えた後に向かう事も可能で、あちらはモンスターの数の底が知れないから、残業をするにはちょうどいいだろう。

 バイクで機動力が上がっている事も加味して、色々と都合が良いのは確かである。


 逆にアンデッドダンジョンに向かわせた場合は、遠方まで時間をかけて移動するうえにゴブリンダンジョンの収入を切り捨てて向かう事になるものの、ドロップアイテム、魔石の単価が一番高い。

 ついでにモンスターの数も多いので、ダンジョンで稼ぐと言えば、3つあるダンジョンの中でもここが一番だろう。

 ……付き合わされる俺の、精神的負担も一番だけどな。

 ゾンビの見た目が苦手という訳ではないが、臭い中にいるのは辛いのである。



 馬鹿みたいなプランを付け加えるなら、どこか適当なお店にバイトとして潜り込むという手段もある。

 最近は一般の店舗でもロボットを借りて使うという事が珍しくなくなりつつあるので、光織たちをレンタルという名目で送り込むのは努力すれば可能だ。


 ただし、この手段では稼ぎが期待できないため、考える余地もなく無しである。

 稼ぐまでの準備が大変過ぎるし、その手間をコストとして計上すると、しばらく赤字なのだ。

 会社経営的に長期的な事業展開として見るならアリかもしれないけど、短期的に大きく稼ごうという計画なので、一考の余地もなかった。





 そうやっていくつものプランを考えた俺は、最後の選択を光織たちに任せることにした。

 自分の事だし、自分で決めたいだろうからね。


 光織たちが俺に決めて欲しいと言い出せば、その時は俺が決めるけど、何も聞かずに勝手に決めてしまえば光織たちもいい気はしないはずだ。

 こういった気遣いは余計だと言われない限り、ちゃんと本人らと話し合おうと思う。



「御意!」

「お任せフルコース」

「これに決めない!」

「いや、良いんだけどさ。まったく考えようともしてなかった気がするのは俺の気のせいか?」


 なお、話し合いの結果は、「俺に任せる」一択である。

 世間知らずな光織たちが自分で考えてもいい結果に繋がらないから、俺に任せるのが一番だと、そういう事らしかった。



 これを信用されていると見るべきか、それとも考えるのが嫌なだけか。

 その答えは分からない。


決断を任された俺は、光織たちにレドームを持たせて、アンデッドダンジョンに送り出すことにした。

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