強化プラン そのさん
機動力と火力方面のパワーアップを計画すると、防御方面の強化も考えたくなるんだけど。
「やっぱり、わざわざダメージを受ける必要もありませんし。先の先で一撃必殺が正義ですよね。実戦を想定すると」
「後の先というのは、一部の達人に許された特権なのだよ! 我々にできる事は、先手必勝のみであるね!!」
基本的に、装甲の強化というのはあまり考えていない。
細かい事を考えなくても良いように、「敵がこちらに気が付くよりも先に敵を発見する」「敵が攻撃する前に倒す」が本命の戦術となるのだ。
よって、防御力の強化と言うと、索敵能力の強化へと考えが向かう。
戦争でイージス艦を使った対ミサイル防衛網を構築するのと似たような理屈である。
敵の発見が早ければ早いほど、戦闘でイニシアチブを取れるのだ。
「そういった理由で、通常の物よりも高性能なレーダーを積んだ専用装備です!」
「レドームですか。また懐かしい物を」
「あ、装備するのは背中ですよ。頭にこれを乗せるのは、さすがにバランスが悪いですからね。首に負荷がかかってしまうではありませんか」
「さいですか」
ロボットの探知能力、索敵能力強化と言うと、〇ラグナーというアニメに出てきたレドームと言われる装備が真っ先に思い浮かべられる。
頭部が平べったい餅のような、そんなレーダーシステムである。
中には対レーダー、ステルス機能タイプのレドームもあるのだが、それは横に置き。
及川教授が用意したのは、背負うタイプのレドームであった。
大きさは直径1m強。背負う姿はアッシ〇ー。変形しないけど。見た目だけなら亀のようでもあり、カラーリングが光織たちのベースカラーである白でなければ、緑とか茶色であれば、それは甲羅ですかとツッコみたくもなっただろうな。
性能としては、高性能な各種センサーに加え、それらが得た情報を演算して瞬時に数秒後の予測まで光織たちに教えるのだという。
「つまりはゼ〇システムですよ」
「ドラグ〇ーの次はWですか。いやもう、驚きはしませんが」
「それでも、呆れる事は出来ますよ」
「自覚はあったんですね……」
ちょこちょことネタを挟まれるが、及川教授の言っている事が正しければ、それはかなり強力な装備だ。
人間相手に直接データをフィードバックするような危険な機能は無いものの、光織たちロボットであれば、未来予測も十二分に活用できるだろう。
背中に重い荷物を背負うマイナスを補いきれるかどうかについては、単独行動ならともかく、仲間がいるので利益の方が大きいと判断される。
レドーム装備タイプのロボットは基本的に後方支援特化だからね。仲間のサポートをするだけで十分なのだ。
「ちなみに。これは誰が装備する?」
なお、このレドーム。1つ当たりのお値段は、2000万円とシャレにならなかったりする。もちろん製作費用であり、もしも市場に出すならこの倍は取らないと赤字となる。
レドームは単価でみるなら、ロボットよりも高いのだ。量産向きとはとても言えない。
よって予備も含めて2つしか作っておらず、2つ以上を同時に投入する予定もない。
使うのは、1つだけである。
ゴブリンダンジョンでは明らかにオーバースペックだが、それでも安全にレベルアップさせるため、運用データを取るため、まずは光織たちにお願いしておくことにした。
「おい、こら。喧嘩をするなよ」
光織たちは新しい装備に興味が有るのか、全員が使ってみたいと主張した。
その時の発言に関しては、記憶から消しておく。正直、「誰だこんなシーンを教えた馬鹿は」と言いたくなるような言動だったとは言っておこう。
とにかく、三人ともレドームを使う気でいる様子だった。
「最終的には、アンデッドダンジョンのタイタンに使わせるつもりなんだが……」
レドームは索敵が簡単なゴブリンダンジョンで使うにはもったいない。
そうなると、ゾンビの蠢くアンデッドダンジョンを受け持つタイタンたちに渡す方が効率的である。
あそこは霧が濃く、視界が利かないので、レドームがあると戦いやすくなるだろうし。むしろ、そういったダンジョンがあるから開発されたシロモノとも言える。
残念ながら、光織たちのメイン装備にする予定はなかった。
「レドームが、欲しいです。先生」
「……まぁ、お前らの稼ぎで買う分には、止めはしないよ」
光織たちはそれでも諦めきれず、俺に自分たち用のレドームを購入するようにとオネダリをしてきた。
そこまで欲しいものかと疑問に思うけど、ここで強く否定するのは良くないかと判断した。
幼い子供が我が儘を言っているのならともかく、光織たちは俺の指示に従い働いている訳で、だったら給料を払い、そこからお金を出して買わせる方が正しいのではないだろうか。
2000万円は大金だが、彼女らであれば稼げない額ではない。3人で頑張れば、一月か二月で稼ぎきるだろう。
これまでの給料についてはちょっと目を逸らしておくとして、ここからは給料を支払い、金を使わせ、経済感覚を養わせるのも良いだろう。
「うん。そう考えてみると、悪くない話だな」
これまで俺のために戦わせてきたが、そろそろ自分の為に戦わせるのも悪くない。
欲求は人が成長するうえで重要な要素だし、それはきっとロボットだって同じだろう。
俺はこうして光織たちに給料を払うようになった。




