強化プラン そのいち
結婚は考えなきゃいけないけど、考えるのを止めた。
なるようになる。
できなかったら、その時はその時だ。あとの事は、未来の自分に任せるよ。
それよりも、だ。
進んでいないのはパワードスーツ関係で、それ以外はそれなりに変化している。
「気分転換に作ってみたとはいえ、意外と有効だな」
「機動力は戦力に直結しますからね。基本と言えば基本ですよ」
まず、光織たちはダンジョン内でバイクに乗るようになった。
戦闘が戦闘と言えないほど実力が隔絶しているので、移動の補助になればいいかなと考え、買ってみたのだ。
ゴブリンダンジョンはコンクリで足場を固めているので、バイク移動も可能なのだ。
さすがに全力でアクセルを吹かすのは無理だけど、それでも移動時間が少し減った。
「バイクでランスチャージ。いや、普通の槍なんだけど」
実力差が大きいので、ちょっとぐらい変わった事をしても戦闘は成立する。いや、一方的な蹂躙なのは変わらないか。
戦闘の立ち回りが大きく変化したけど、ゴブリンを相手にするのなら大丈夫だ。
なお、バイク戦闘における最大の攻撃手段は「ひき逃げジェットストリームアタック」である。酷い。
しばらくすれば、バイクもレベルアップして、なかなか愉快な事になっているのだが。
「タイヤだけは、どうにかならないものなのかね」
「どうにもなりませんね。自動再生するようなレベルアップでもしてくれない限りは」
バイクにおける消耗品の代表格、タイヤは頻繁に交換するので、ここだけはレベルアップの恩恵を完全には受けられないかもしれない。
レベルアップをするにはするんだけど、敵の攻撃で駄目になるわけではないけど、レベルアップまでに消耗した分はどうにもならないわけで。
使えなくなるわけではないけど、ちょっと微妙な気持ちにさせられる。
できれば、これ以上消耗してくれないよう、願うばかりである。
……レベルアップしたタイヤの廃棄って、ちゃんとできるのかな?
そもそも、タイヤの廃棄って、メーカーはどんなことをするんだ?
俺、今まで気にもしてないから、まったくその辺りの知識がないんだけど。
余談ではあるが。ロボットがバイクに乗るのを制限する法律は無い。
土台となるロボット人権の問題がグダグダのため、そっち方面の法整備ができないのだ。
そもそも公道を走らせていないので、道交法の範囲外なんだけどね。
ネット上には光織たちがバイクでランスチャージする動画を上げているので、そのうち法整備が行われるかもしれない。
タイタンには、バイクのようなパーソナルトランスポートが存在しない。
タイタンの身長は3mなので、人間の乗り物に対応していないのだ。
だったら自作すればいいと思われるが、こういった乗り物をノウハウ無しで1から作るのは難しい。
バイクメーカーに共同研究開発を持ちかけても、技術面で相手に頼り切りになるので断られた。
こちらがメインで資金を出すとしても、“次”に繋がるような商品にならないため、旨味が少なすぎるのが原因だ。
自社の技術を奪われるだけ、そう思われても仕方がないのである。
それに研究開発は、それぞれのメーカーに計画があり、余剰人員がいない。
そんな計画を変更してでも手を貸すメリットを提示できなければ役員を説得できないので、会社は動けないのだ。
タイタン・タイプのロボットに後追いの機種がいれば説得できたかもしれないが、それが無い以上はなんともならないのである。
「あ。第三案、試作機の図面、あがったっすよ。製作、頼んます」
そんなわけで、タイタンのバイクは研究段階。
三輪タイプのものをベースに、開発中である。
この仕事を受け持っているのは、及川研究室の研究生たちだ。
及川准教授は忙しいので、研究生の彼らが主体となって動いている。
「こーゆーのは元々好きっすからね! 任せてくださいよ!」
威勢はいいが、実力も経験も足りない彼らでは、色々と不具合も多い。
普通の物をサイズアップしただけの無難なものから始めればいいのに、いきなり思いつきのアイディアをぶち込んでくるので、粗が目立つのだ。
それでも他の人に任せるよりは、まだ安定する、と思う。
同じ素人でも、何も知らない奴よりは、アマチュアの方が知識がある分だけマシなのだ。
しばらく時間がかかるけど、そこは諦める。
こちらはパワードスーツよりはまだ開発が進む見込みがあるので、安心して見ていられるのであった。




