家庭
植物関連は本職ではないものの、そこで名声を得た及川准教授。
それに対し、家庭で成功を収めたのが四宮教授だ。
「娘が、ようやく普通に相手をしてくれるようになったよ。
まさか、これほど時間がかかるとは思わなかったね!」
四宮教授は、娘さんが大学受験に失敗したことで、プチ家庭崩壊状態だった。
元々、娘さんとは折り合いが悪かったようだけど、本命の大学に合格できず八つ当たり対象とされたことで、関係がさらに悪化。
そんな関係のまま同居をして、さらに関係が悪くならないようにとこっちに引っ越してきたのだった。
その娘さんも、1年以上の大学生活でようやく気持ちに折り合いが付いたのか、四宮教授と落ち着いて話し合いが出来るようになっていた。
そうなれば四宮教授にダンジョン前で生活を続ける理由が無くなり、自分の家へと帰っていったのである。
四宮教授の娘さんとの関係が改善を喜ぶ姿は、見ていて微笑ましかったよ。
さすがに、これに嫉妬とか妬みを感じる要素は無かったかな。
ただ、俺ももう26歳で、そろそろ結婚を真面目に考えないとマズい年齢になりつつある。
現状、女性との縁はほとんど無い。
地域のイベントに参加しても年配の方ばかりで同年代はおらず、鴻上さんの工場で出会いを求めるのは間違っているだろう。オーナーである俺が下手な事をすれば、パワハラやセクハラである。職場に恋愛を持ち込むのはリスクが高いのである。
婚活系のイベントに行けば、資産だけで女性が群がってくるけど、俺はそれを喜ぶ性格をしていない。
資産狙いの女性が悪いわけじゃ無いけど、結婚には愛が必要とか言うほど脳みそお花畑じゃ無いけど、資産狙いの女性には愛人根性が見え隠れする人が多いので、どうにも近寄りにくさを感じてしまう。
可能なら、共に歩んでくれる人、こちらに寄りかかるのではなくサポートしてくれる人が良い。こちらに資産を求めていいけど、だったら妻として寄り添って欲しいのだ。
贅沢がしたいだけの女はお断りなのである。
「誰かいい人はいないのか?」
「いたら紹介してるよ」
この件に関しては、両親ともに気にしている。
俺に結婚の意思があることにホっとしているけど、同時に動きが鈍いことへ不満を感じている。
一度実家に帰った2年前からたまに連絡を取り合っているけど、3回に1回は恋人はできたかだとか、お見合いをする気はないかだとか、そういった話を振ってくる。
世の中の独身者が通る、一種の通過儀礼だ。
こんな事もあるとは知ってはいたけど、我が身に降りかかるとなかなかウザい。
親としては口を出さずにはいられないんだろうけど、簡単になんとかなるなら世間の既婚率はもっと上がっているだろう。
言い訳にはなるけど、結婚は簡単なことじゃないんだぞと、声を大にして言いたい。
こういう事を言うのは親だから、だいたいが結婚で上手くいった成功者だ。
結婚に対するハードルを低く見積もっているとか、そういう面はあるかもしれないけど。世の中、上手くいく人ばかりじゃないと理解して欲しかったりする。
「春菜ちゃんとか、どうだ?」
「論外だろ。何年も会ってないんだから、相手も嫌がると思うよ。せめて大学卒業までは待ってあげて」
なお、親の一押しはやっぱり春菜ちゃん。
借金の件を抜きにしても、くっついて欲しいと願っているのを隠していない。
フィクションでよくある、「仲の良い親同士が、子供を結婚させようと約束する」パターンみたいなものである。
やられる側としては、たまったものではない。
当の春菜ちゃんは、いまでは大学1年生である。
高校を卒業していないけど、リハビリと並行して大検を受けて受験資格を得ると、地元の大学に進学している。
数年遅れの大学生活のため、進学後、半年しても友達はまだできていないようだけど。まぁ、そのうち大学に馴染めばなんとかなるだろ。
バイトとかすれば一気に世界が広がるはずだし。きっと、その先で素敵な出会いでも見つけると思うよ?
「だがなぁ。素敵な出会いもあるだろうが、変な男に引っかかる可能性もあるだろう?
なら、春菜ちゃんを信用できるお前に任せてしまいたいんだ」
「そこは、春菜ちゃんを信用しようよ。それに、一回か二回、変な男に引っかかるのも経験と割り切っていいんじゃないか? 大事な子供でも、無菌室で育てるのはペット扱いにも見えるんだけど」
「わがままを言っている自覚はあるぞ。
だがお前だって、春菜ちゃんのような子なら、結婚相手として悪くないはずだろう。あの子がお金目当てで結婚するような子じゃないのは知っているだろうに」
なんにせよ、これ以上、史郎との悪縁が続くのは嫌だ。
今の史郎は俺が落ち目な事もあり、穏やかな環境で生活しているので、精神的に立ち直りつつあるらしいけど。それでも、あいつとは縁を切っておきたかった。
その妹である春菜ちゃんには悪いけど、史郎の妹というだけで論外なのである。
結婚はしたいが、誰でもいいわけじゃない。
結婚できない奴が言う一番最悪のパターンらしいが、自分の中の最低ラインだけは妥協したくないんだよ。
年齢とか、容姿とか、婚歴とか、そこら辺は妥協するからさ。
もうちょっとだけ、自分で選ぶ、俺の判断に任せて欲しいよ。




