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躍進する人

 変化がないことで置いてきぼり感があるロボット周りの話だが、何もかもが停滞しているわけではない。


「ダンジョン、野犬、減った」

「武器、強い、なった」

「仕事、終わる。タイタン、休む」


 これまでレベルアップしても自我を持たなかったタイタンたちに、とうとう自我が芽生えた。

 こいつらは初期ロットのタイタンたちだが、設計製作段階でいずれは喋ると期待していたので、デフォルトである程度の会話機能を搭載していた。

 そんな機能があったからか、今では片言で喋るようになっている。


 この事実は一回や二回のレベルアップで自我を得られずとも、レベルアップを重ねれば、全てのロボットはいずれ自我を得るという可能性を示唆している。

 今はまだたった一件の実例であるが、これに続くロボットが現れれば、可能性は不確かなものから確実な未来へと変わる。



 現在、冒険者として戦っているロボットは3万体はいると言われているが、これが3万人に切り替わってしまうのである。

 言ってしまえば、人の営みにかかわらず国民を増やす手段が見つかったようなものだ。

 社会に与える影響は計り知れず、なかなか愉快な話だと思う。


 ……いや、本当にこの先が予測できなくなるから、良いことだとは言い切れないんだけどなぁ。

 できれば、タイタンたちの覚醒は何らかの奇跡であると願いたいものである。





 それと、俺とは直接関係ない話。


「ゴブリンポーションの鑑定方法が完成しました!」


 及川准教授は、趣味でやると言っていた「植物を利用したゴブリンポーションの鑑定」について、ちゃんとした成果を上げていた。

 その結果としてゴブリンポーションという、ランダムに死亡事故すら引き起こしかねない劇物を、汎用性の高い医薬品へと昇華させたのである。



 ゴブリンポーションは、言葉の通り、ゴブリンからドロップするアイテムである。

 傷口に振りかけることで怪我の回復を助ける効果があるのだが、他のポーションのようにすぐ回復させるといったものではない。怪我の治りを10倍ぐらい引き上げる、そういったものだ。


 それでも普通に考えれば絶大な効果で、発見当初は多くの人が注目していたのだが、強い副作用があるものが混じっている。

 過剰投薬(オーバードーズ)。ポーションの飲み過ぎで発生する、回復効果の反転である。治療のつもりでゴブリンポーションを使った結果、怪我を悪化させてしまう事がある。

 そういった不良品を弾く事ができれば良いのだが、これまではその方法が無かったのである。

 そのため、今までは一般への販売・使用が禁止されていた。

 


 それが、及川准教授の研究によってゴブリンポーションの鑑定が出来るようになり、状況が変わった。

 医療現場に、ゴブリンポーションを使う選択肢が生まれた。これまで助からないはずだった人が、助かるかもしれない発見だった。

 控えめに言って、世界が震撼するほどの大金星である。


「及川准教授、次のノーベル賞は確実ってみんな言ってますよ。おめでとうございます」

「これは准教授から教授に代わるだけでは済まないほどの大発見なのだよ! 私も負けていられないね!!」


 この研究に、俺や四宮教授はほとんど関わっていない。俺が及川准教授にポーションを提供したぐらいだ。これで共同研究者を名乗るのは無理がある。

 つまり及川准教授一人の成果なのだ。

 俺たちはただ、仲間の功績に祝辞を述べるだけである。


 この功績を以て、及川准教授は教授に昇格することが決まっていて、大学ではただの教授、例えば四宮教授などよりも上の扱いになる。

 研究室への予算増額や雑務を請け負う人員の配属、その他諸々。大学も及川准教授の名声を利用するために必死であった。


 もっとも、本人はそういった扱いに苦笑するだけで、あまり喜んでいないのだが。


「大学での私は、機械工学が専門で、薬学や植物学はまた別の話ですからね。そういった面で評価を得たとしても、大学での役職とは全く関係が無いんですよ。

 なのにこういった扱いをされても喜べませんし、原神の開発時に冷遇されていたことを考えると、今更厚遇されても素直に受け取れません」

「そういえば、2、3年前に原神の開発チームから追い出されていましたよね」

「そういう事です。ビジネス上のお付き合いは続けますが、親しくする気にはなれませんね」


 今はまだ、大学にも利用価値がある。

 教え子たちは大学の経営陣と関係無いので、及川准教授は彼らを放り捨てて大学を辞めるほど薄情になれない。

 そういった理由で大学に在籍している身としては、厚遇などどうでもいいことなのだろう。語る表情は、いっそ冷徹ですらある。

 もちろん、俺はその考えに口を挟まなかった。



 俺だって、大学の経営陣と同じ状況ならば、同じような事をしたかもしれない。当時の及川准教授から、この状況を予想するのは不可能だ。

 だから大学の経営陣を無能だとか言うほど愚かでは無い。当時の彼らにしてみれば、経営者として及川准教授を切り捨てる判断をする方が正しかったのだから。時に、人を切り捨てる判断を求められることがあるのは、経営に携わった人間なら誰でも知っていることである。


 あとになってグチグチ言ったところで、それはただの結果論なんだからね。結果を見てから人を馬鹿にするのは品が良くないんだよ。

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