一年後②
パワードスーツの開発に行き詰まっているから、それを何とかするために、四宮教授とリモートで会議をしている。
「レベルアップの性能変動をどうにかするより、内部のリトルレディを完全な操り人形にしたくなってきた」
「それをやれば、確かに動くようにはなるけれどね。そうなれば、パワードスーツを作るためのフィードバックデータは得られないのだよ? それでは本末転倒ではないかな」
「分かっていますよ。けど、そうやって愚痴を言いたくもなりますよ、これは」
パワードスーツを作ろうと決めて、おおよそ2年が経っている。
現在は、人間ではなくロボットが使うためのパワードスーツの開発中だ。
いきなり人間が使うものを作るほど怖いもの知らずではないから、まずはロボットが実験台となり、実用可能なパワードスーツの製作を進めている。
ただ、これについては進展らしい進展が全く無い。
作ってみたはいいが、まともに動かせないのだ。
「レベルアップ処理は、モンスターを倒した瞬間に行われるからな。しかも、ギアチェンジ並みの出力変動が入る。
いや、これ、本当に困るんだけど」
「これまでレベルアップに助けられては来たけれど、ここまで足を引っ張られるとは思いもよらなかったね」
問題となっているのは、パワードスーツのレベルアップだ。
これが原因で、ソフトによる制御の難易度が跳ね上がっている。
ロボットの動きは、モータードライバユニットという制御機器で行っている。
これはモーターを動かすために必要なトルク、モーター回転数、消費エネルギーなどを計算して出力をする。
また、モータードライバユニットは、モーターを監視して各種データを計測してくれているので、問題が起きそうなときはエラー信号を出してこちらに状況を説明してくれる。
つまり物が壊れないようにする保護回路の役目もあるのだ。
通常、モーターやモータードライバユニットの経年劣化でパラメータが変動することはあるが、その変化は緩やかで、普通ならば問題になる前に発見・対応が可能である。
しかし、レベルアップによるパラメータ変動は段差が大きいので、急にエラーが発生する。戦闘中でもお構いなしだ。
厄介な事に、レベルアップにはランダム要素が含まれるため、「一回目のレベルアップだから数値はこう変わる」と断言できる訳でもない。
言葉は悪いが、事実として制御不能と、これはそういう話だ。
「光織たちは、意外と使いこなしているんだけどな」
「不思議だよ。しかし、なぜ大丈夫なのか、理由が調べられないのは辛いね! それを活かせないのは私の力不足かな。面目ないね」
どうでもいいが、そんなパワードスーツでも光織たちは使いこなしている。
それ専用に開発したはずのリトルレディよりも上手くて、どっちがパワードスーツ開発用ロボットなのか分からなくなっていた。
もっとも、こちらも問題を抱えている。
追従しきれないのだ。光織たち本来の性能を活かしきれていない。光織が本気の動作をした場合、パワードスーツの方が壊れる事になる。
そうならないよう、光織たちはパワードスーツを制限して使っている。
よって光織たちがパワードスーツを装備した場合は、ただの追加装甲以上の意味が見いだせなかったりする。
「こちらは、僅かでも性能を上げられるようにレベルアップとマイナーチェンジを繰り返すしかないのだよ」
ロボットの性能が急に上がる事は本来ならありえないが、ダンジョンにはレベルアップがある。
こちらは積極的にレベルアップを狙うのが正解で、地道にモンスターを狩り続けるしかなかった。




