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史郎①

 光織たちの件でテレビに出たし、他にもまぁ、やらかした自覚はある。

 一攫千金であぶく銭を稼いだので、隠遁するために山奥に家を買ったというのに、大して自重していないのが俺である。

 今では少し頑張れば俺の住所などは調べられるようになっているので、個人情報の流出対策はやっていないと言っていいほど管理が杜撰だ。周囲に流出していないのは電話番号ぐらいである。そこだけは死守した。


 つまり、だ。

 史郎でも頑張れば俺の所にたどり着けるようになっていたのである。実際にうちの両親だって調べてやって来たわけだ。

 困った事に、それはもう、どうしようもないのである。





「すまない。史郎がそちらに向かったと思う」

「何をやっているんですか……。勘弁してくださいよ」


 霊薬の製作を手配した俺は、横やり対策のために動いていた。

 ただ、その最中に遠野家から凶報が届いてしまった。

 俺の助力を知った史郎が家を飛び出したというのだ。



「余計な手間を増やさないでくださいよ」

「本当にすまない。あの子にも、どうしても這い上がる機会をあげたかったんだ……」


 文句を言う俺に対し、史郎の親父さんは電話の向こうでひたすら頭を下げている。

 文句を言われても仕方のないミスをした自覚はあるのだろう。こっちは手助けをしているというのに、さらに負担を押し付けられた格好だからだ。


 親父さんにしてみれば、俺に対する筋違いな恨みに凝り固まった史郎は、誤った道を進んでいるように見えた。

 そこで俺が春菜ちゃんを助けている事を教えて感謝させ、俺への認識を改めて、正しい道を歩めるようにしたかった。そうしなければ史郎はいずれ破滅するだろうと思っていたのである。



 言いたい事は分かるし、やり方をそこまで間違ったとも思わないが、盛大に失敗され、迷惑を被る身としては色々と言いたくもなる。


 言葉は悪いが、手を貸すというのは、こちらにとってマイナスである。 

 不要な支出を強いられた状態で、メリットはあまり無い。

 金を出す事への利息なんて不要であるし、伝手を当たって横やりを防ぐ手間だってロハでしかない。

 これは身内への甘々対応なのだ。


 そこに史郎の相手という、さらなる負担を背負わされるのは本当に迷惑で、「だから言ったじゃないですか」状態である。

 俺の事は隠しておくべきだったと思っていたし、こうなってしまえば俺の考えが正しかったと証明されたわけだ。


 全部終わって、史郎の心に余裕ができてからネタバラシするぐらいがちょうど良かったんじゃないか?



「俺の家について、教えてはいないんですよね?」

「住所などは、私は聞いていないよ。調べてもいない。マナー違反だからね」


 親父さんは俺の家の場所について、何も知らないらしい。

 これで俺の家の住所を史郎に教えていたらガチで訴えてやろうと思ったが、そこまでしなくても大丈夫でホッとした。

 うん。ウチの両親も含め、そこまで考え無しではなかったようだ。



「じゃあ、たぶん勝手に敷地内に入ると思うから、入って来たところを不法侵入で警察に通報します」

「……そこは、会って、追い返してもらえないかな?」

「駄目です。拗れると分っていて、敢えて会う理由がありません。むしろ、顔を合わせた後の方がもっと酷い事になると思いますよ」

「それは……」


 よく、ラノベなどで「だったら決闘だ!」と戦ってから和解する流れが存在するけど、それは違法である。

 現代では決闘など許されておらず、精々、スポーツの試合でぶつかり合うぐらいが関の山だ。

 喧嘩両成敗というけれど、現代日本では決闘をすると、見届け人を含む参加者全員が犯罪者である。ただのアホでしかない。


 冷静な状態の史郎ならともかく、追い詰められ、トチ狂った状態の史郎ではガチな勝負を吹っ掛けてくる可能性があって、非常に面倒くさそうなのだ。

 なので、もしウチに来たとしても敷地内に入る許可を出さず、勝手に入れば通報して逮捕してもらう流れが一番穏当だ。

 最悪な結果が、あまり良くない結果に緩和されるのだから、それぐらいは受け入れてもらわないと困る。そもそも、今の状況は親父さんのミスなのだから。それが嫌なら史郎の首に縄でも付けて連れ帰って欲しい。

 子供ではないのだから、「これが嫌、あれも嫌」などとは通じないのである。自分の行動に責任を取ってほしい。





「こちらでも史郎を探すよ。どうにか、そっちに行く前に捕まえる」

「ええ、お願いしますね」


 俺に丸投げしそうな雰囲気だった遠野父。

 懇切丁寧に、正しい選択をするように誘導すると、ようやく責任ある大人の発言が出てきた。

 俺の所に行ったのだから、俺に任せてしまえなどという思考放棄をせず、頑張ろうと覚悟を決めたようだ。

 親父さんは仕事を休んでしばらく史郎の行方を追い、お袋さんは俺の家の近所で待機して、史郎が俺の家の周りに来たら俺が連絡し、そこで史郎を捕まえるという。


 できれば、俺に言われずとも動いて欲しかったと思う。

 俺と史郎の確執は俺たち二人の間の問題だが、だからといって勝手に引っ掻き回すだけ引っ掻き回してあとは知らない、などというのは許されない。

 だったら放っておけばよかったのだ。そうすれば、こちらも責任を問わずに済むのだから。



 俺は静かに暮らしていたいだけだが、どうにも周りがうるさい。

 本当に、迷惑な話だ。

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