俺はこうして、不要な在庫を積み上げる
熱した金属を叩き伸ばして、折り返して。
それを数回繰り返すと、プレス機で成型。
水に浸けて、割れが無いかを確認する。折れる事もあれば小さなヒビだけで済む事もあり、ちゃんと見ないといけない。
叩いて確認する事も考えたけど、焼きなましの前の剣は固いが柔軟性が無く脆いため、ちゃんとできていても割れる可能性がある。だから目視検査だけで終了だ。
「よし……割れてない!」
割れていなければ、焼き直し工程に移る。
800度ではなく、500度強に加熱して、今度はゆっくりと冷めるようにする。焼き直しという工程だ。
温度が下がるスピードを抑えるための保温をして、半日かけて冷却をした。
そうして焼き入れと焼き直しを終えた金属塊は、最後に研ぎを経て剣へと生まれ変わる。
プレスしただけだと剣とは言えないのだ。研ぎで刃を作って、ようやく剣と言えるようになる。それまでは、ただの金属塊に過ぎないのである。
細かい事を言えば、刃だけでなく柄とかも作らないと剣として完成とは言えないんだけどな。
成功したのは、剣を打ち始めてから4日目の事である。
失敗回数は2桁に至り、3桁にこそならなかったものの、わりとヤバい量の失敗をした。
焼き入れ前の加熱時間が長すぎても短すぎても駄目だとか、叩いて伸ばすときに厚みが均一にならず叩き過ぎで破ってしまったとか、折り返すときに変な重ね方をしてしまったりだとか。
まぁ、考え付く限りの失敗を何度もしたと思うよ。
失敗を繰り返した分、「ああ、これ以上は駄目だな」「あ、これたぶん駄目だ」「これは、ここまで」と、感覚で何となく鍛冶というものが分かるようになってきたから、無駄じゃなかったけどな。
ただ、自分の成長が実感できても、失敗を続けるとやっぱりストレスが溜まるわけで。
失敗したときに「うーーにゃーー!!」とか、「フズバッド!!」とか、「モンガーー!!」とか叫んでしまった。マスクが無ければ、即死だった。
そうして失敗を繰り返し溜まったストレスはゴブリンで発散した。
ゴブリンは……俺の怒りを鎮めるための、犠牲になってくれたんだ…………。
ありがとう、ゴブリン。お前の残してくれたドロップアイテムは、俺が有効活用するよ……っ!
冗談は横に置き、ゴブリンのドロップアイテムはかなり貯まったので、インゴットにした金属の量はかなり増えたぞ。
ついでに、ゴブリンの魔石は消耗品だから良いとして、『ゴブリン・ポーション』こと、低品質ポーションがかなり貯まってしまった。
俺と同じような事をしている連中は、実はそこそこいる。
その中には、面白い事に挑戦している連中もいる。
「ゴブリンの魔石だけど、融かす金属に混ぜてみました」
「焼き入れに『ゴブリン・ポーション』使ってみました」
こんな感じの実験をした動画もあるのだ。
もっとも、それで結果を出した人間はおらず、結論は「何も起きませんでした」で終了する。
それで簡単に結果が出るなら、すでに大々的にその技術が広まっているだろうし、不人気ダンジョンは楽に素材が手に入る草刈り場として有効活用されているだろう。
そういった動きが無いので、ゴブリンのドロップアイテムは未だに利用価値無しで評価が動いていない。
もしかしたら何らかの効果があるのかもしれないけど、それを検証しようとした人間はいても、実証した人間はいない。
そのうち俺も挑戦してみても良いんだけど、結果が出ないと分かっているとテンションが下がる。
「一応、効果はあるわけだが……」
残念ながら、一番流通しているのは、もう一つ二つランクが上の回復ポーションだ。
ゲーム的なたとえをすると、ゴブリン・ポーションが初心者用に配布される回復ポーションでも最低品質なのに対し、一般流通品は汎用ポーションの中品質程度、と言った所だろうか。
これは入手頻度の問題で、ゴブリンよりも「稼げる」モンスターを相手にしているのが冒険者の一番数が多い層なので、供給数が全く違うという訳だ。
入手頻度がレアであっても、コモンに劣る効果しかなければゴミ扱いというわけだ。
回復量もそうだが、回復速度が全く違うため、実戦で使いにくいのは間違いない。
ダメージを素早く回復させなければ、痛みで戦闘時のパフォーマンスが落ちる。
骨折とかをしなくても傷により体の動きが悪くなることもあるし、戦闘では「傷を負わない戦い方」と「傷を素早く癒す方法」の二つが重要になる。
ゴブリン・ポーションは戦闘後であれば使えるんだけど……戦闘中に使う馬鹿は、まずいない。
「農業に使うには少なすぎるし、使いにくいんだよなぁ」
ゴブリン・ポーションに限らず、回復ポーションの類はガラス瓶に入った50mlの液体だ。
これを農業に使うというのも、あまり聞かない。
どっかの農大で挑戦したらしいが、普通の井戸水で育てた物と比較して、何の効果も得られなかったと聞いている。
成長が早くなるわけでも、大きくなるわけでも、栄養価が高くなるわけでもない。
ゴブリン・ポーションやゴブリンの魔石をそういう事に使っても、何の意味も無いのだ。
「まぁ、放置一択だな」
俺はゴブリン・ポーションをケースに入れて、溶鉱炉とかがあるのとは違う部屋の棚に片付けておく。
もしかしたら、そのうち何か利用方法が見つかるかもしれない。
そんな事を期待しつつ、確保しておくのだ。
「どうせ売れんとは言え、捨てるのももったいない」
部屋が片付かなくなるまでは、残しておこうと思う。
新しい物と古い物の区別さえつくなら、それでいい。
ケースにはいつ収納したかを紙に書いて貼っておけばいいだろう。
俺はこうして、不要な在庫を積み上げるのであった。