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野犬退治⑤

「それにしても、どうしてダンジョンが見付からないんだろうな」


 画面をじっと見て、ダンジョンを探すというのは苦行である。

 他事を考えていて、あまり集中していない事もあり、ひたすら代わり映えの無い景色を見ているだけの仕事が面白いはずもないのだ。

 俺はどちらかと言えば動き回る方が好きなタイプで、事務仕事ができないわけでもないが、画面に向かってじっとしているのは好きではない。

 こんな事なら、畑で草むしりでもしていた方が有意義だと思ってしまう。


「無駄な時間を嫌って効率や成果を求めるのは現代人の悪い癖だよな」


 画面を見続けるだけの簡単なお仕事です。

 でも、単調すぎてつまらないし、やりがいを感じられない。


 無駄ではないんだ。

 ただ、面白みだとか達成感を感じられないだけで。

 ペットボトル工場で、ベルトコンベアでペットボトルを運搬中に、倒れているものがないか確認する仕事というのを話で聞いた事があるが、それもきっとこんな気持ちになる仕事なんだろうな。


 見ているだけだし、本当に誰でもできる事だから、それこそ機械任せにしたくなる仕事内容だよ。

 昨日の今日だから、外注が使えないのが痛いな。アウトソーシングで他人に任せてしまいたいよ。



 そうやって現実逃避しても変わらない今を嘆きながら、3時間が経過した。

 バッテリーの交換などで何度か休憩を挟みながらも、画面にようやくお目当ての物が映った。


「ドローン8番、マニュアルモード!」


 慌ててその映像を撮ったドローンを手動操作に切り替える。

 俺は慎重にドローンを動かし、見つけた目標物を確認する。


「あった! 光織、六花、晴海! ダンジョンを見つけたぞ!!」


 山のふもと、少々入り組んだ地形に、ダンジョンの入り口となる白い靄が映っていた。



 なお、見つけたダンジョンの位置は、光織たちがモンスターを倒した位置からはずいぶんと離れていた。

 さすがに家を挟んで反対側、とまではいかないが、右方向に90度ほどズレていると言えばいいのか。光織たちがこれを見付けるのは、まず無理だったと思われる。





 俺は光織たち3人を呼び戻すと、すぐにテレビ局の方に連絡を入れる。

 警察は後だ。「証拠が無い」と、どうせ信じやしないので、俺たちが中に入ってから連絡すればいいと、心の中で舌を出す。


 翌日、未発見ダンジョンの調査という事で、光織たちとタイタン、テレビクルーを連れて現場にやって来た。


「それでも、ダンジョンを秘匿するのは違法じゃないですか?」

「警察には、ちゃんとダンジョンがあるっていう前提で話をしたのに、向こうが無いって言って話を聞かなかったんですからね。こっちはちゃんと連絡の義務は果たしましたよ。

 つまり、これは警察の言うダンジョンではないわけですね」


 俺はニコニコと笑顔を振りまきながら、カメラに向けて簡単な言い訳を展開する。

 実際、連絡はした。そしてテレビ局という公的情報機関を使い、内部情報をお茶の間に届けるのだ。なので、秘匿は(・・・)していない(・・・・・)と断言できる。


 そしてその上で、警察側がダンジョンなど無いというのなら、目の前にある物はダンジョンの入り口などではなく、ダンジョンの入り口に似た何かなのだろう。だからダンジョン関連法の誓約は一切受け付けない。

 でなければ、警察が嘘をついている事になる。警察がダンジョンがあるかもしれないと言っていれば、こんな事は言えなかったのだから。

 未発見ダンジョンなど無い。警察が証拠を見せろと言ったのだから、証拠を見つけ、提出するまではダンジョン扱いしなくてもいいというのが法律家の見解である。



「まずは俺たちだけで入ってみます。入り口付近が安全そうであれば、すぐにみなさんも案内しますね」


 ダンジョンの出入り口は電波を通すので、外部との通信は可能である。

 ドローンを使って映像を届けつつ、俺たちだけで足を踏み入れ、一般人が入れるかどうかを見極めるのが最初の一手だ。


 いや、本来は冒険者資格を持たないとダンジョンに入っちゃいけないんだけどね。

 けど、ここはダンジョンじゃないから。ダンジョンじゃないなら、一般人でも入っていいんだよね?

 プロデューザー(テレビ局側)さんにそう言われてしまえば、こちらも断り難かったので、これが双方の妥協点である。



「まばらに木の生える、平原タイプか。敵モンスターは、犬タイプ、と」


 ドローンを送り込み、入ってすぐに周辺の警戒を行う。

 敵モンスターの姿は遠目には見えるものの、近くには居ない。俺たちも安心してダンジョンに入り、すぐに防衛陣地の構築に入った。

 防衛陣地の構築に使うのは、アンデッドダンジョン用に開発した物である。まだ向こうに持っていっていなかったので、手元にあったのだ。


 柵を巡らせ、門を設置。

 タイタンたちは柵の周囲に空堀を作り、その土で光織たちが土嚢を作り、内部に積み上げ柵の補強を行う。

 手際よく作業を進めるが、すぐには終わらない。



 俺は簡易櫓を組み立て、高い所から遠くを見渡し、モンスターの姿を確認する。

 すると、犬のような生き物の姿が見えたので、ここの基本モンスターを動物タイプと判断し、様子を窺う。


「お、風上になったな」


 平原タイプのようなダンジョンは、屋外を模しているため、風も吹く。

 先ほどまで風下だったのだが、風向きが変わり、こちらが風上になった。俺たちの臭いが、モンスターに届く。

 陣地を作る音には気が付かなかったモンスターも、これで俺たちに気が付いた。



 人を見付ければ襲いに来るのがモンスターである。


「敵襲。迎撃用意」


 なんとなくだが、あのモンスターは弱そうに見えた。

 油断する訳ではないが、俺は落ち着いて武器を手に取るのだった。

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