他の成果
光織たちとリトルレディ、どちらにもオプションコートを用意するという事で、オプションコートの増産も決まった。
またお金が飛んでいくが、それはまだ許容範囲だ。
お金はまだ良いんだけどね。
「あー。お年末進行が……」
「休み、ほとんど取れませんねぇ。ははっ」
もうすぐ年末という、鴻上さんの工場の負荷が高くなる時期だったため、新しいオプションコートを作るには時期が悪い。
一部の製造業はゴールデンウィーク、お盆、年末年始といった大型休暇の前後に仕事が増えるため、色々と忙しいのだ。飲食業以外は休みの間に職場の作業が止まる間に設備の見直し、点検をするのがその理由である。
そういった流れと関係ない職場もあるらしいが、鴻上さんの所は5月、8月、12月と1月はあまり飛び込みのお願いができなかった。
オプションコートの作成は、2ヶ月後の2月ごろに持ち越しとなった。
増員しても、仕事が取れない時期もあるため、簡単に増やすとは言えない。
ダンジョン出張という新しい仕事があると言っても冒険者免許が必要で、誰でもいいという訳ではないから残る人間はいつも通り暇をする。
人を増やした場合、暇なときに余る人も増える。忙しい時に仕事がちゃんと回るだけの人員を確保しないといけないけど、暇な時の事も考えて動かないと、経営が成り立たない。
「なんですかね。この無理ゲー。仕事の波は平滑化できない……ですよね?」
「仕事を平滑化しようとしても、読み違えれば不良在庫を多数抱える事になりますし、作った物を置いておく倉庫の設置も必要になるんですよ。そうなると今度は人件費じゃなくて土地代が増えるんですよ」
対策をしようにも、先行製作、ストックを作れば保管する倉庫が必要で……と、人を余らせるか土地を余らせるかの二択となる。
土地だけでなく倉庫まで用意していけば、それはやっぱりコストが嵩むわけだ。
人を遊ばせないようにする為に、人を遊ばせることで発生する損失より大きな出費をするような事はやりたくない。
仕事が忙しい時期に、従業員に頭を下げて協力をお願いするのが、日本の製造業なわけだが。
「これをロボット化できればいいんですがね」
「それができないから、手作業なんですよ。光織さんたちなら、ここでの仕事もできるかもしれませんけどね」
こうなると、それこそロボットの出番だと言いたいわけだが、ロボットは人のような柔軟性が無いため、現状ではまだ工場にロボットの投入ができない。光織たちのような、人格持ちのロボットなら人並みに仕事もできるかもしれないけど、光織たちのようなロボットは他に無いのだ。
今できる事と言えば、来年度に新入社員がちゃんと来てくれることを祈るだけだ。
……採用通知を出しても、新卒社員が来てくれないというのは、これまであんまり考えた事のない現実である。
就職活動が厳しいと聞くけど、会社の採用活動だって十分厳しいのが現実とはね。考えた事も無かったよ。新卒の手取りが月18万円って、安いのか? 元冒険者では、一般的な職場で貰える給料の相場がよく分からないよ。
そんなふうに『オプションコート』関連の手配をしていると、気になるニュースが流れていた。
「ロボットの自我の芽生えを確認」
「一文字氏の付喪神説の線が濃厚か!? 長年愛されてきたロボットたちが意思を持つように」
「ロボットを育てるロボット、大成功。次々と『進化』を遂げるロボットたち」
以前見た、他企業が作ったロボットをレベルアップさせるためのロボットが、一定の成果を出している。
古い、役目を終えたロボットたちのうち、解体を免れていたものをレベルアップさせていたのだ。
そうしてそのうちの幾つかが自我を持ち、人間のように会話できることが確認されている。
光織たちに続く、自我持ちロボットの後輩たちが生まれていた。
「光織、六花、晴海。他の、自我持ちロボットに会ってみたいか?」
俺はちょっとした好奇心から、新しい自我持ちロボットのニュースを眺めながら、三人に問いかけてみた。
同族に会ってみたいかどうかだ。
相手は新しい自我持ちロボット。
かなり厳重に警護されているだろうし、誰でも気軽に会える存在ではないと考えられる。
俺はただの個人なので会いに行くためのアポを取る力など持ち合わせていないが、光織たちは同じ自我持ちロボットなので、会わせてあげたいと頼めば何とかなる可能性は高い。
お願いしてダメなら、プロデューサーさんにテレビの企画か何かを立ち上げてもらい、番組内で会うという手も使えるだろう。
光織たちが同族の後輩たちに「会いたい」と考えているなら、会わせてあげたいと考えていた。
しかし。
光織たちは俺が何を言っているのか今一つ理解していない様子で、首をかしげるだけだ。
「あの子たちに会ってみたいとは思わないのか?」
俺はテレビを指し、もう一度聞いてみる。
すると三人は首を横に振り、「興味なし」と無言で主張した。
同族、という意識が無いのだろうか?
そこを聞いてみると、今度は首を縦に振る。
人間視点だと自我持ちロボットという括りで見れば同じだが、彼女らには全くの別物に見えたようで、同族意識を持つ相手ではないと考えているようだった。
なら、構わないか。
無理に会わせる必要も無いのだし、誰かにお願いされたら会わせるのもいいけど、自分から動かなくても良さそうだ。
俺はこの件を、「面白いニュースだった」と切り捨てて、すぐに忘れるのだった。




