俺はこうして失敗作を量産する
融かした金属は冷却による固形化の手段で固まり方が変わるだとか、そんな話があった。
あと、特に何もせずに固めた場合は内部に空気が入り込んでしまうとか、そういう危険もあるらしい。
それをどうにかするのが鍛造である。
最初、調べる前の俺は、「鍛造は熱した金属をハンマーでカンカン叩く」ものだと思っていた。
しかし現代は「プレス鍛造」と言って、熱した金属をプレスして成型する手法が主流らしい。叩かなくても良いらしい。
最初から高純度の金属を使えばカンカン叩く必要が無い。そういう事だと思う。
実際の製鉄業だと、機械で色々とやって鉄の純度を高める、らしい。
溶解がどうとか電解がどうとか、最新の手段で純度を高めるのは、個人ではまず実行できない。
俺にできる事といえば、流れる融けた金属を見て、その状態を把握するぐらいだろう。
見極めができるようになるまで時間がかかるだろう。
そしてその見極めができる頃には、俺の目が悪くなってしまう可能性が高い。
融けた金属を裸眼で見るのは非常に危険で、目に負担がかかるのである。実際、伝統的な技法で刀鍛冶をする人は視力の低い人が多いらしい。
古式の鍛冶は、人に優しくなかった。
「まぁ、だから撮影して画像処理するんだけど」
なお、ビデオカメラを通して見る分には、特に問題無かったりする。
カメラを通しディスプレイに映すまでにいくつもの情報が抜け落ちてしまうが、それは見る人間がカメラ越しの確認方法に慣れればいいだけである。
更には、何度も撮影をしサンプルを増やせば、画像解析で最適な状態の金属というのを確認してもらうのも可能だ。
俺の目では判別できない何かを探るためにデジタル情報を活用するのは、悪い事ではない。
俺はカメラと連動した最新式のゴーグル型ディスプレイを使って作品を見ている。
この方法で、自身のスキルアップを目指す所存だ。
別に、古式にこだわる必要はない。
使える道具があるなら、使ったっていいじゃない。現代だもの。
趣味の範囲に収めるなら、それでも良いと思う。
師匠がいて、その人に教わるわけじゃないんだしさ。
鍛造は、金属を加熱した状態にしないといけないので、再加熱が必要になる。
その加熱に必要な設備は、『溶鉱炉』ではなく、『加熱炉』という、別の機械になる。
こちらは炉の内部がほぼ密閉された溶鉱炉と違い、加熱された炉の中に素材を挿し込めるようになっている。そうやって素材を加熱して、鍛造可能な状態に持っていくのだ。
「鍛造で品質がどこまで上がるかな?」
低品質な金属塊ではあるが、これをどうにかする手段は、俺には無い。
よって、このままいく。
俺は剣の刃を800度まで再加熱し、プレス機で鍛造を行う。
思っていたのとは違うが、これも鍛造。鋳型で整えられてはいたが、どこか歪だった剣の形を、ここでもっと綺麗な物へと整え直す。
ゆっくりと、ゆっくりと赤熱した剣が形を変えていく様子をカメラが捉え、ゴーグル越しの目に映した。
思っていたのとは違うが、これも鍛造。
鍛造で形を整えたら、焼き入れだ。
俺は真っ赤な刃を水につけ、一気に冷ます。
急冷却された剣は赤から黒へと色を変えながら、周囲に大量の水蒸気をばら撒く。
炉の加熱で、ただでさえ暑かった周囲に蒸し暑さが加わり、地獄のような環境になった。
焼き入れした刃を水から取り出して確認する。
刃に数ヶ所、ヒビが入った。焼き入れに耐えられなかったようだ。
低品質な金属では、よくある事らしい。
「焼き戻しまで行かなかったかぁ」
残念ながら、この剣はここで終了だ。
焼き戻しや、その後の試し切りをするまで行けなかった。
悲しいが、初回だし、そんなものだろ。
ゲームのような初回ボーナス、ギャンブルで聞くビギナーズラックは鍛冶に適用されない。
ここまで出来ただけでも、まだ頑張った方だろう。
「さて、反省点を考えるより、もう少し色々と試してみるか」
加熱炉はまだ熱いままである。
そして、型に入りきらなかった、型からこぼれた金属はまだ残っている。
「ゴブリンの錆びた武器を鋳つぶして、ゴブリンの武器未満のものが出来上がる。
うん、許せる話じゃないよなぁ」
今回は省略したが、刀鍛冶であれば、焼き入れの前に折り返し工程などが存在する。
熱した金属を薄く延ばし、折り曲げ、また伸ばし、折り返す事でなんかいい感じにするアレである。
ぶっちゃけ、俺は詳しく知らない。
ただ、そういう手段もあるとは知っている。
「趣味なんだし? やれる事はやって、試してみても良いよな」
一回目から難しそうな事に手を出すより、細かく小さく色々と段階を踏んで学んでいこうとは思ったんだけど。
中途半端な知識や手法を試すぐらい、趣味なんだしやっても良いじゃないか。
それもまた、経験である。
俺はこうして、大量の失敗作を生み出す事になるのであった。




