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約束の花嫁 【勇騎視点】

 ……温かい。



 まるで、誰かに強く抱きしめられてるような、そんなとても心地よい温もりを感じながら……俺は目を覚ました。


「……ん、んん……あれ? ここは……?」


 次第に意識がはっきりと覚醒していき、徐々に自分が今どういう状況なのかが視覚的に理解出来るようになってくる。


「あっ、ゆ、勇騎さんっ、おはようございますっ」


 起きてすぐ、何故か赤く目を腫らし俺に抱きついている勇蘭が挨拶してきた。


「え? あ、あぁ、おはよう勇蘭。……あれ? 俺達って……一体何してたんだっけ?」


 俺がちゃんと起きた事を確認すると、勇蘭は少し恥ずかしそうに俺から離れて現状を教えてくれる。


「……はは、何言ってるんですか勇騎さん? 僕達はあの『千年に一度の美少女召喚師』ちゃんを助けに、わざわざ魔王城まで来たんじゃないですか……」


「え? あ、あぁ……そうだったな……って、あぁっ! そうだよ、ドゥルを助けに魔王城まで来て、それで……あれ、俺どうなったんだっけ? ゆ、勇蘭、ど、ドゥルは……っ?」


「もぅ、ちょっと落ち着いて下さいよ勇騎さん。召喚師ちゃんなら、ほら……?」


 そう言いながら勇蘭は自身の後ろの方へと視線を向ける。


「……あ」


 するとそこには……瞳に物凄く涙を溜め、真っ赤に染まった顔で少し不機嫌そうに頬を膨らませているドゥルの姿があった。

 俺はとりあえず彼女の無事が確認でき、ホッと胸を撫で下ろしながら声をかける。


「は、はは……はぁ、良かった。……大丈夫かドゥル? どこも怪我とかしてないか?」


 だが彼女は不機嫌そうなまま俺に近づいて来て……そして先程までの勇蘭のように強く、しっかりと俺を抱きしめてくる。


「……おっと、ど、ドゥルっ? どうしたんだ? まさかクィンハート達に何かされたとか?」


「……う、うぅ、もうっ、違うわよっ! センセーの方があの子にぶちのめされたのよっ!? 覚えてないのっ?」


「え? あれ、そうだったか?……ん〜、いやごめん、全然前世覚えてないな……」


 本当に全くといっていいほど記憶が無かった。

 だがしかし、何故か身体中がボロボロになっていて節々が物凄く痛い。

 ……これは確かにドゥルの言う通り、俺は彼女にやられてしまっていたんだろう。


「……もぅ、センセーのバカ……センセーの前世とか、どうでもいいのよっ。……ホントもぅ、私がどれだけ心配したと思ってるのよ……」


 本当に心配そうに、今にも泣きそうな表情で俺を抱きしめてくれるドゥル。そんな彼女を安心させるべく、俺は痛みを堪えながらも優しく彼女の頭を撫でてあげる。


「……ごめんドゥル、心配かけたな。でもほら、もう大丈夫だから、な?」


「……ん、ホントに……センセーってばしょうがないんだから。……でも、ちゃんと私との()()守ってくれたから……だから今回は特別に許してあげるわ」


「はは、それはどうも」


 そんなどうにも気恥ずかしい俺達の光景を、何故か俺と同じくボロボロ姿の勇蘭と無傷のミハルちゃんが温かな目で見守ってくれている。


 ……ん? でもそう言えば……


「なぁ、勇蘭? なんか普通にまったりしちゃってるけど、結局戦いはどうなったんだ? クィンハート達は……?」


 俺のその当然の疑問に勇蘭は、魔王の椅子が設置されてる方向へと向きながら答えてくれる。


「大丈夫ですよ勇騎さん。後はもう、僕が何とかしますから」


 言いながら勇蘭は一人歩き始める。

 何故か俺や勇蘭と同じくボロボロの姿で、椅子の前でへたり込んでいるクィンハートの元へ……。


 彼女の側では、相変わらず自分の腕で胸を隠しながら座りこんでるレヴィと……そんなレヴィに膝枕されて眠っている銀髪ロリ美少女のルシファーちゃんがいて、俺が見る限りではもう戦意などはなさそうだ。


 勇蘭はクィンハートの正面でしゃがみ込み、ゆっくりと彼女に語りかける。


「……ねぇクィンハート、もう少しだけ……僕とおしゃべりしようか?」


 だが彼女は顔を上げず、俯いたまま勇蘭に答える。


「……ふ、ふふ、勇蘭、貴方一体何言ってるの? 今さら貴方と喋る事なんて何もないでしょう? 私はご覧の通り、貴方の父親にボコボコにされてもう身体中痛すぎて全く動けないし、召喚師も奪い返されてしまって……もう完全にこちらの負けなのだから。だからもう煮るなり焼くなり、貴方達の好きにすればいいじゃない……」


 もはや投げやりに、クィンハートは負けを認める。

 そう、ドゥルは既にこうして俺達の元に返って来ているし、後はもう彼女達がああして動けない内に全員捕らえてしまえばこちらの勝利が確定する。


 だけど……それでも尚、勇蘭は彼女を諦めない。


「……君の方こそ何言ってるんだよ? 僕達にはまだ、決めなきゃいけない事が残ってるじゃないか?」


「……決めなきゃ、いけない事……? 貴方本当に何言ってるの? そんなもの何も……」


「いやもうだからさ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……その方法をちゃんと考えなくちゃいけないじゃないか」


「…………え?」


 ようやく彼女は顔を上げ、驚きと困惑の混ざった表情で勇蘭に視線を合わせる。


「いやほら、君が言ったんじゃないか? 君の結婚式にちゃんと、僕も招待してくれるって……。自国民達だけじゃなくて、他の国の色んな人達からも祝福されるような、世界中が愛に包まれるような……そんなとっても素敵で、とっても幸せな……君の結婚式にさ?」


「……あ……」


 クィンハートは何かを思い出したかのように目を見開く。そんな彼女に勇蘭は優しく微笑みながら、おしゃべりを続ける。


「せっかくそんなとっても素敵な結婚式に招待されるっていうんだから、だったら僕だって何かお手伝いしないと申し訳ないじゃないか。だからさ? 君の当初のやり方とは別の……誰も傷付けない方法でさ? そんな素敵な結婚式を挙げる方法を探そうよクィンハート。勿論参加させて貰う以上ちゃんと僕も手伝うしさ? 僕、結婚式とか初めてだから実は今からすっごく楽しみで……」


「……何言ってるのよ、勇蘭……」


「ん?」


「……そんな方法、ある訳ないじゃない。天使達がいる限り、そんな私の理想の……本物のお姫様になった私の、私だけの夢の結婚式は絶対に叶わない。だから私は、こんなやり方しか残っていなかったから……だから私は……っ」


 再び俯き、涙ぐむクィンハート。


「…………」


 俺やドゥル、ミハルちゃん、それにレヴィも……静かにこの状況を見守る。いや、見守る事しか出来なかった。彼女に掛けてやる言葉なんて……俺達じゃ全然見つからないのだから。

 ……でも、勇蘭だけは違った。


「……ねぇ、クィンハート? これ、僕がずっと持ってたんだけどさ……」


 勇蘭はそう言いながらお腹の上着を(めく)り、ズボンに挟んでいた一冊の雑誌を取り出して彼女の前に広げて見せる。


「さっきもパラっと見してもらったけどさ? こうやってじっくり見ると、本当に色んな種類の式場とかドレスとかがたくさん載ってるんだね。でもさ、こんなにたくさん載ってたらどれがいいかとかって凄く悩みそうじゃない? あ、因みにクィンハートはどの式場がいいとかってあるの?」


「えっ? え、えっと……そ、そうね……私は……」


 勇蘭から急に予想外の質問を投げかけられた彼女は、戸惑いながらもページを捲っていく。

 クィンハートは慣れた手つきでページを進め、ふとその手が止まった。


「あ……そう、私はこれ。何度読み返しても、でもやっぱりこの式場が一番好きかしら。……本当に真っ白でとっても綺麗な教会で……ほら、ここ見て勇蘭? ちゃんと純白のハトも一千羽用意してくれるって書いてあるでしょ? それにドレスもとっても素敵で……ね? 凄くいいと思わない?」


「あ、本当だ凄くいいね。……あ、でもさ? 僕さっき凄く気になったやつがあったんだよ。確か……こっちの方だったと思うんだけど……あ、これこれっ。どうクィンハート? これだって凄く良さそうじゃない? 建物は真っ白じゃないけどさ? でも凄く立派なお城っぽくて、こっちの方がよりお姫様感出るんじゃないかな? それにほら、こっちだと赤い薔薇が咲き誇る庭園で記念撮影できるって。今、君が着てる赤いドレスも凄く君に似合ってるしさ? これとかどうかな?」


「え? あ、ありがとう…………そ、そうね……そう言われて見れば確かに、こっちも少し、いいかも知れないわね……」


「あ、それにさ? 確かこっちのページの方のやつも……」


 少し頬を赤らめるクィンハートと共に、勇蘭は色んなページを捲っていく。とても楽しそうに、無邪気な子供のようにキラキラとした表情で。


「……う〜ん、確かに勇蘭の言う通り、こうして改めて見てみると違った発見が色々あるわね。……ふふ、人の意見を聞くのってやっぱり大切な事ね。今までは…………今まではずっと、一人で見ていたから……」


「……クィンハート……」


 ふと、彼女は何かを思い出したかのように寂しげに微笑む。

 勇蘭もどうやらその理由を知っているようで……彼女と同じように微笑みながら、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。



「……ねぇ、クィンハート?」


「ん? どうしたの勇蘭?」



「……あのさ? やっぱり…………やっぱりもう一度、僕と一緒に探してみようよ?」



「……あ……」


 クィンハートは思い出す。元々は勇蘭とその話で反発しあっていた事を。……でも今の彼女の表情にはもう勇蘭への反抗心などは微塵も感じなかった。


「……他の誰も傷付かないやり方でさ? ……たくさんの人達がみんな笑顔で、そんなみんなが目いっぱい祝福してくれるような、世界中が愛に包まれるような……とっても素敵で、とっても幸せが詰まった……そんな君だけの結婚式を挙げる為に……」


「……勇蘭……」


「きっとあるよ、そんなやり方が。それに確かに僕はあんまり頼りにならないかも知れないけどさ? ……でも勇騎さんやミハルちゃんは本当に凄いんだよ? 本当にあの二人がいなかったら、絶対にここまで来れてなかったってくらいなんだからさ? それに僕の母さんやおじいちゃんだって凄く頼りになるし、僕だってもうホント死ぬ気で頑張るからさ? だからさクィンハート……もう一回、もう一回だけ僕達と一緒に探してみようよ? だってこんなにも素敵な君の夢を、こんなにも君が願ってきた幸せな夢を……こんな所で諦めるなんて勿体無いじゃないか。そんなのって悔しいじゃないか。……だってさ? だって君はまだ……」




「この世界に、生きているんだから」




 優しく微笑みながら、勇蘭は彼女の瞳を見つめる。


 彼女もまた勇蘭を見つめながら……今にも泣き出しそうな表情で弱々しく口を開く。



「……ほ、ホントに……ホントに出来るかしら? 私の……私の思い描いた、夢の結婚式が……。私の想いが、願いが……たくさん、たくさん詰まった……私だけの素敵な結婚式が……。こんな、魔王の娘に生まれてしまった私が……たくさんの人達から幸せを奪った魔王の娘で……たくさんの人達から嫌われて、(けな)されて……こんな、ホントなら幸せになんてなっちゃいけないような……こんな私でも……ホントに、ホントにここに載ってるような素敵な花嫁さん達みたい……幸せそうに笑えるかしら? ……こんな私でも、幸せに……なれるかしら?」



 彼女の瞳から、自然と溢れ出す綺麗な雫。



「……クィンハート……」



 勇蘭はそっと……その雫を拭ってあげるように、彼女を優しく抱きしめてあげる。


 俺があの満開の夜桜で……蘭子にそうしてあげたように。



「……大丈夫だよクィンハート。大丈夫。君が幸せになっちゃいけないなんて、そんな事絶対あるもんか。大丈夫、君は……君は幸せになってもいいんだよ。だってさ? だって僕達はきっと……お父さんやお母さんから望まれて、祝福されて、きっとたくさん愛されながら……この世界に生まれて来たんだから。きっと幸せになって欲しいって、そう願われながら……生まれて来たんだから。だから絶対に、絶対に君だって幸せになってもいいんだよ……」



「……勇蘭……」



「……それにもしも、世界中の人達が君に幸せになっちゃいけないなんて言って来ても……僕だけは絶対にずっと、幸せになってもいいって言い続けてやるんだからさ? もう分かってると思うけど僕はホントに諦めが悪いんだ。だから僕は絶対に最後まで、君の夢を諦めたりなんてしない。絶対に僕が、君の夢を叶えて見せるから。絶対に君を……世界で一番、幸せな花嫁にして見せるから……」



「……っ」



 大粒の涙を流しながら、戸惑いながらも……それでもゆっくりと……勇蘭の背中に手を回すクィンハート。



「……ほ、ホントに……ひっく……ホントに私……ひっく……そんな……幸せな花嫁さんに……うっ……ひっく……なれるの……? ホントに私……ひっく……幸せになれるの……?」



「……うん、()()する。僕が絶対に……絶対に君を幸せにして見せるから。だから、僕と一緒に頑張ろう? 僕はずっと、ずっと君の側にいるから……」



「……う、うぅ……ひっく……ぐす……う、嘘ついたら……ひっく……針千本……飲むんだからね……?」



「……はは、そうならないように頑張るよ……」



「……ひっく……ぐす……う……うぅ……ほ、ホントのホントに……約束……ひっく……なんだからね勇蘭? ……ぐす……ぜ、絶対に……ぐす……絶対にわ、私を……私を世界で一番……ひっく……幸せな花嫁さんにしてね……?」



「……うん、何度だって約束するよ。僕は絶対に……君を世界で一番幸せな花嫁にして見せるから……」



「……うっ、うぅ……ひっく……勇蘭……ひっく……ゆぅらぁん……」



 勇蘭とクィンハートは互いに強く抱きしめ合いながら、約束を交わし合う。


 その光景がとても微笑ましくて、とても素敵で……だから彼女が泣き止むその時まで……俺達は笑顔で二人を見守り続けた。

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