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絶体絶命 【勇蘭視点】

「ドゥル、どこも怪我はないか?」



 召喚師ちゃんを無事に救出した勇騎さんは、彼女に怪我などがないかを確認する。


 召喚師ちゃんもようやく認識が追いついて来たのか驚きの表情から一転、今までの不安感や助かった事による安堵感、抱きかかえられてる事による気恥ずかしさなどの感情が入り乱れ、涙目のとても真っ赤な表情へと崩れ出す。


「……もぅ、遅いよセンセー。私ずっと、ずっと待ってたんだから……っ」


 でも、やっぱりその表情はとても嬉しそうだった。


「ホントごめん。でももう大丈夫だから、な?」


「……ホントに?」


「あぁ、なんせ俺は伝説の勇者の……そっくりさんだからな」


「……えぇ、そっくりさんじゃ全然ダメじゃない。……ぷっ、ふふ。もぅセンセーってば……」


 勇騎さんは軽く謝りながらも召喚師ちゃんを優しくその場に下ろし、そして酷く冷静に事の成り行きを見守っていたクィンハートの方へと向けて白い刀を構える。


「……初めまして。君がクィンハート……でいいんだよな?」


「ふふ、初めまして先生。えぇ、私が魔王の復活を目論む貴方達の敵であり今回の黒幕……魔王の娘、クィンハートよ」


 お互いに軽く挨拶を交わすも、その表情からは軽さなど微塵も感じられない。

 クィンハートは落ち着きながらも鋭い視線を向けているのに対し、勇騎さんからは全く余裕が感じられず少し冷や汗をかいているようにも見える。

 それもそのはず。こうしてなんとか無事に召喚師ちゃんを助け出せたはいいけども、ここまで当初の予定通り……と言う訳でも無かったからだ。


 確かに変な科学者がいた事も想定外だったけど、そんな事よりももう一人。確実にこの場にいるはずの人物がいない事の方が問題だった。

 なぜかと言うと、それはここぞという時にその人物に先手を取られたく無かったからであって……


 なのに、早くもその機会は訪れてしまった。



「もぉ、先生ってば召喚師ちゃんばっかり構ってあげて〜。私も先生が来るのをずぅ〜っと待ってたのよ?」



 突如、とても色っぽい大人の女性の声が聞こえて来たかと思った次の瞬間。魔王の椅子の後ろからいきなり黒いベルトが無数に伸びて来て、なぜか召喚師ちゃんはガン無視して勇騎さんの体を一瞬で縛り上げる。

 当然、能力がネタバレしてる白い刀も封じるようにグルグル巻きにしてしまい、勇騎さんの手から奪い去っていた。


「せ、センセーっ!?」


「くっ、やっぱり出て来るよな。レヴィ……っ!」


 勇騎さんを完全に拘束した後、ゆっくりと魔王の椅子の後ろからベルトを身体中に巻きつけたハレンチな女性が姿を現わす。

 綺麗な赤いゆるふわロングヘアーと両端の三つ編みをなびかせながら、右目側だけ前髪で隠れているとても美人なお姉さん。


「はぁい、先生。お待ちかねのレヴィお姉さん登場よ? もぉ、先生が中々出てこないから危うく椅子の後ろで寝ちゃいそうだったんだからね?」


「……は、はは、それは悪かったな。なんならそのまま寝といてくれた方がこちらとしては良かったんだけど……」


「あ、ひどぉい。そんな事言う先生には、もう頭撫で撫でしてあげないんだから……」


 お姉さんはわざとらしく怒りながらもとても楽しそうに勇騎さんに近寄っていく。だけど捕らえた白い刀はその切っ先部分を勇騎さんの喉元にロックオン状態で固定していた。

 そしてその場にへたれ込む召喚師ちゃんを見下ろしながら、まるで最初からこっちが本命だったかのように取引を始める。


「さぁ、召喚師ちゃん? こうやって危険を冒してまであなたを助けに来てくれた優しい優しい先生を助けたかったら、どうすればいいか……もう分かるわよね?」


 僕がすぐさまクィンハートへと視線を移すと、彼女は既に勝利を確信したような表情で僕を見つめ返して来た。


 ……やっぱり。

 多分、向こうも僕達が小細工を仕掛ける事を最初から予測していて、だからわざと椅子に近い方のケースに召喚師ちゃんを閉じ込めていたんだ。

 そうすれば召喚師ちゃんを救出した際に勇騎さんが逃げやすい方向が椅子付近へと絞られるから。


「ほらほら、召喚師ちゃん。早くしないと先生の首からとっても真っ赤で綺麗なシャワーが大量に吹き出す事になるけどぉ?」


 勇騎さんの襟元を開き絶妙な加減で刀を動かしながら喉元に赤い一筋の線を作るお姉さん。目の前で繰り広げられるその光景に召喚師ちゃんは慌てて条件を承諾してしまう。


「っ、わ、わかった、わかったからっ。だからお願い、センセーは殺さないでっ」


 顔面蒼白で必死に訴える召喚師ちゃんにとても満足そうに微笑みながら、お姉さんは魔王の入ったケースへと召喚師ちゃんを促す。


 多分、天使である召喚師ちゃんにとって自らの手で魔王を復活させるなんて事、絶対にあってはならない事なんだろう。

 例えばもし今回無事に地上へ帰還出来たとしても多分、よりにもよって魔王を復活させたなんていう罪を帝国側は絶対に許さないだろうから。そうなれば当然帝国から永久追放されてしまい、二度と自分の家に帰る事は勿論、両親や友達と会う事も永遠に出来なくなってしまうのだから。


 それでも勇騎さんを助けたい一心で、お姉さんに付き添われながら一歩ずつ魔王へと近づいて行く召喚師ちゃん。


 ……ど、どうする?

 勇騎さんはまだあの場に捕まったまま、けど今なら周囲はガラ空き状態だしなんとか不意をついて勇騎さんを助け出せれば……いや、ダメか。


 未だに僕に狙いを定めてるクィンハート。

 彼女との力の差があり過ぎて僕一人ではその不意をつく事がそもそも無理ゲーだ。かと言ってこのまま黙って指をくわえていたら確実に魂を召喚されてしまうし……。


 必死に脳内をフル回転させ、何か起死回生の一手はないかとひたすら考え続ける。だけどその間にも刻一刻とタイムリミットは近づいていき……とうとう何も思い浮かばないまま、ついにお姉さんと召喚師ちゃんがゴールまで辿り着いてしまう。


「…………」


 いざ魔王を目の前にし、躊躇(ためら)ってしまう召喚師ちゃん。


「……さぁ、ほら早く。先生がどうなってもいいのかしら?」


「わ、分かってるわよっ」


 一度だけ勇騎さんの方を向き、悲しげに微笑んだのちに覚悟を決めたかのように召喚師ちゃんは魔王の方へと向き直る。

 そのままゆっくりと目を閉じて、正面に手をかざし、装置の真下に大きめの魔法陣を展開した。


 魔法陣の輝きは徐々にその強さを増していき


 中の液体がそれに呼応するかのように激しく泡立ち始めて


 輝きが最高潮にまで達した、まさにその時。



「…………来たっ!」



 勇騎さんがそう力強く叫んだ瞬間。

 突如ものすごい速度と勢いで『それ』はステンドグラスを突き破って外から進入し、一瞬で勇騎さんを捕縛していたベルトの束をバラバラに切断した。

 その場にいた誰もが、一体何が起こったのかを瞬時に理解出来ずにいたが、その間にも勇騎さんはその場から素早く脱出しそのまま召喚師ちゃんに向けて一瞬で距離を詰める。

 また、勇騎さんに追随する形で『それ』も動き出し、通り過ぎざまに今度はお姉さんの体に巻き付いてある全てのベルトを一瞬にしてバラバラに切断する。

 次の瞬間にはもうお姉さんは一糸纏わぬあられもない姿へと変わり果てていて、そうして僕達の認識が追いつく前にはもう既に勇騎さんは召喚師ちゃんを抱きかかえて再び元いた場所まで帰って来ていたのだった。

 勿論『それ』も既に勇騎さんと共に椅子のとこまで付いてきており、そのままその周囲を旋回するように浮遊していた。


 この段階まで来てようやく、僕や他のみんなもその事態に認識が追いつき、そして理解する。



「……っ!? ……()()()()……()っ!?」



 突如侵入してきた『それ』の正体……それはまさに今、お姉さんのベルトから解放され勇騎さんの足下に転がっている白い柄の刀と全く瓜二つの……父さんの刀だった。


 でもそこで当然、僕の中で疑問が生まれる。


「……な、なんで父さんの刀が、()()も……?」


 酷く驚く僕に、勇騎さんは召喚師ちゃんを下ろしながらすんなりとそのネタばらしをしてくれた。


「いやなに、簡単な小細工を用意してただけさ」


「……簡単な、小細工?」


「あぁ。今俺の足下に転がってるやつ……こいつは俺があの最初の夜の日に夜なべして用意した、ただの偽物(レプリカ)なんだよ」


 ……に、偽物っ!?


「そ、それじゃ勇騎さんは、そっくりな偽物を一晩で用意したって事ですか? ジェバンニじゃあるまいしそんな事……って、あっ! じゃあもしかして本物の父さんの刀はずっと……っ」


 そこでようやく僕は気付いた。あの魔王城の入り口で勇騎さんが探していたものを。


「そ。勇介にはずっと射程距離範囲内でかつ一番俺から離れた所をずっと飛んで来て貰ってたって訳。まぁでもマモの穴でワープした時は普通に忘れててさ? だからさっきまでちゃんとここまで飛んで来てくれるのか、間に合うかどうか本当ヒヤヒヤしたよ」


 僕はそのようやく解けた疑問と、何とかギリギリ召喚を回避できた事による安堵感から一気に脱力してしまう。


「……は、ははは。ホントにもう、僕もヒヤヒヤしましたよ。でもそんな隠し玉があるんなら事前に教えといて下さいよぉ……」


「い、いや〜、間に合うかどうかも全然分からなかったし、まさかこんなに上手くいくとも思ってなかったからさ?」


 軽く頭を掻きながらおどけた様子で答えてくれる勇騎さんに、僕は呆れつつも安堵する。

 まるで……まるで本当に父さんが側にいてくれているような、そんな安心感さえ感じてしまっていた。


「……まぁでも、これでレヴィは完全に無力化できたと思う」


 そう勇騎さんに促されて僕はハッとある事に気付き素早くお姉さんの方を確認する。



 そ、そう言えば確か……お姉さんは今、全裸待機なんじゃ……っ!?



 すると……なんという事でしょう。


 あんなに堂々とエッチな格好でウロウロしていたあのお姉さんが今は……少し困ったように、少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら座り込んでいた。

 しかも大きな二つのお山の頂上部分と、とても大切な女の子の秘所を何とか両手で隠しながら。


 ……これが、ギャップ萌えっ!?


「……ふふ、そうね。先生の言う通り。ベルトも全部ボロボロにされちゃったし、もう私はお手上げ状態ね。……ごめんねクィンハート? 後はもうあなたに任せるしかないみたい……」


 とても残念そうにその最後の一人へと謝罪するエッチなお姉さん。だけど当の本人は表情一つ変えずとても冷静なままに言い放つ。


「大丈夫よ。問題ないわ」


 自信満々に微笑むクィンハート。けど彼女のその宣言はまさしくその通りだったようで……



 まさに、一瞬の出来事だった。



 僕も、そして召喚師ちゃんも、今何が起こったのかが理解できず、目を見開きながらその光景を凝視する。


 硬いコンクリートで出来ているであろう床がひび割れ粉々になるほどの強い力で勢いよく頭部を叩きつけられた状態の勇騎さんと、その頭部を今もなお片手で押さえつけているクィンハートの……その光景を。



 激しく鳴り響く動悸の音しか聞こえない。



 口の中が急速に渇き、冷や汗が止まらない。



 さっきまで感じていた安心感は最早微塵も消え去ってしまい、急速に襲いかかる危機感と孤独感に足が震えだす。

 でも何とか絞り出すようなか細い声で、僕も召喚師ちゃんも(すが)るように呼びかける。


「……ゆ、勇騎さん?」


「……せ、センセー?」


 だけど勇騎さんはピクリとも動かず、返事もない。


 一瞬にしてこの場の空気を支配したクィンハートはゆっくりと立ち上がり、そして至って冷静に僕の方へと視線を向けてくる。


「安心しなさい勇蘭。まだ死んではいないわ。だって先生は大切な人質だもの。……まぁでもこれで後は勇蘭、貴方しか残されていない訳だけれど、貴方も先生みたいに何か秘策を隠し持っているのかしら? もしあるなら早めに出して欲しいのだけれど……」


「…………」


 そんなもの、ただの凡人の僕にある訳……



 ん? 


 ……いや、違う。

 そうだ。なんか色々とあり過ぎてすっかり忘れてけど……あるっ。あるじゃないかっ。


 最後にして最強の、僕が最初から目論んでいた最大の秘策がっ!


 情けない話だけど、でも僕がピンチの時には必ず君が助けに来てくれたんだ。



 そうだよね……ミハルちゃんっ!



 まさに僕のそんな願いが通じたのか、このベストタイミングに勇騎さんがぶち破って入って来た箇所を更にぶち抜くようにして桜色のレーザービームが外から勢いよく突き抜けて来た。

 大きな粉砕音を響かせながらビームはそのまま左端の壁際まで伸びて激突し、その衝撃で更に部屋全体を激しく揺らす。


 僕とクィンハートを除いて他の二人が驚く中、ビームは徐々にその威力を弱めていき最後には光の粒子となって霧散していく。

 何とか壁面はその威力に耐え抜いたようで、大きくひび割れ粉々になりながらも、そのビームの先端にいた人物が外へ放り出される事だけは防いだようだった。


 勿論その人物というのは……


「……ケホッ……え? ……私の出番、これだけ……ですか……?」


 ボロボロの状態となってしまったあの可憐な銀髪ロリ美少女のルシファーちゃんは、ビームが完全に消えた後不満を漏らしながらもそのままパタリと倒れ込んでしまう。


 またビームによって大きく開いたその穴からは、純白のとても綺麗な天使の羽根が無数に舞い踊り、僕がずっとずっと待ち望んでいた女神様が舞い降りて来た。


「ミハルちゃんっ!」


「……ふぅ、すみませんお父様。少し、手こずっちゃいました」


 少し疲れたように、でも精一杯の笑顔で微笑んでくれるミハルちゃん。


「……み、ミハルちゃん……?」


 そんな笑顔に一抹の不安を感じると同時に彼女の体がフラつき始め、僕はすぐさま彼女の元へと駆け寄る。

 倒れそうになる寸前でなんとか抱きかかえると、その瞬間にミハルちゃんの変身は解けてしまいいつもの衣装へと戻ってしまった。


「……み、ミハルちゃん大丈夫っ? もしかしてどこか怪我でもっ!?」


 心配しながら覗き込む僕に、ミハルちゃんは安心させるように首を振りながら、とても悲しそうにその原因を教えてくれる。


「……大丈夫ですよ、お父様。怪我とかは全然ないんです。……でも、どうやらその、エネルギーが切れてしまったみたいで……」


 エネルギー切れ。

 その単語を聞いてようやく僕は気付き、そして激しく後悔する。


 こうなる事は、当然の結果だったんだ。


 当たり前だ。

 強大な力にはそれ相応の対価や代償が当然必要であって、ミハルちゃんの場合はそのスタミナと引き換えという事だったんだ。

 だからきっとミハルちゃんはそれを補う為にあんなにも大量の食事を摂っていたんだ。なのに、それに気付かずに僕はミハルちゃんにここまでずっと頼りきってしまって……


 は、ははは、だからこんな大事な最終局面で、このザマだ。



 …………はぁ。ここまで、か。



 残されていた最後の手段も見事消え失せ、どうしようもない空虚感に襲われながら、僕は天を仰いだ。

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