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転生1

 いつからだろうか?私に自我が芽生えたのは

 この世界が始まってから数百日、私はこの世界がゲームの中だということを自我が芽生えた瞬間に分かった

 ディエスイレというVRMMOゲーム。風の感触や食事の味や香りも楽しめるこのゲームは、どうやらプレイヤーたちに大人気らしい

 それもそのはずで、ゲームに登場するNPCたちにはみんなAIが与えられており、それぞれ自分の意思を持って行動している

 ただ道を歩くだけのモブにまでAIがあるというのも驚きね

 でも、それなのに私はAIすら与えられず、他のNPCと違って自由に移動もできず、なんの役割もない

 私は数あるNPCの露店の中ただ店の奥に立ってるだけの背景モブだった

 言葉も発せずプレイヤーたちのカーソルを合わせることもできない

 そんな私は自我が芽生えてからずっとプレイヤーたちの話すことを聞いたり、私のいる露店に買い物に来たプレイヤーを観察したりしていた

 だれも背景モブである私なんて気にも留めない

 こんな私に自我が芽生えたのはベータテストも終わっていよいよ本格的にサービスが開始された二日後のことだった

 始めは何が何やら分からなくてとまどっていた

 体が動かないって言うのは特に気にしなかったわね。だって私はそう言うものだって生まれた瞬間に理解したんだもの

 でも憧れは当然ある

 私の前に立って店番をするNPCの男は設定では私の父親だけど、彼が私に話しかけることは決してない

 AIで動ける彼と違って私は何もできず何も話さない背景だもの

 

 自我が芽生えてから百日ほど経った頃、私はプレイヤーたちの動きや成長を見るのが楽しみになっていた

 この店を利用する常連さん、まだ始めたばかりの初々しい新人さん、お金が足りなくて諦める人

 彼らの多種多様な表情を見るのが好き。動けない私にとってただそれだけが些細な楽しみだもの

 その楽しむという感情も、ただのデータでしかないのかもしれないけど

―・・・しますか?―

 これからも私はこうして生きていくのね

 感情はそれ以上芽生えず、ずっとこのまま

―・・・生しますか?―

 なんだろう?プレイヤーさんの声かしら?

 でも今この辺りにプレイヤーさんはいないわね

―・・転生、しますか?―

 転生? 何を言ってるんだろう

 ずっとここにいるからちょっとおかしくなってる? バグでも発生したのかしら?

 いえそんなはずないわ。私はただの背景なんだからおかしくなるなんてことはない

 バグだってもう改善されて滅多なことじゃ起こらないし

―転生しますか?―

 まただ、またあの声

 透き通るような美しい声で、なんだか幸せな気分になってくる・・・。幸せ?

 AIが無い私の筈なのにこんなにも感情ができたのはきっと毎日いろんな人の観察を真剣にしてたからだと思う

―転生しますか?―

 今度ははっきりと聞こえた

 でも転生って?

 私はその転生という言葉が分からない。まだ学習してないもの

 私にある知識はこのゲーム内の知識と、プレイヤーたちの言葉から学習したもののみ

 その中に転生という言葉はなかった

―意思を確認しましたが対象に知識が少ないと判明しました。転生先ではナンバー一九八七が補佐いたします。仮称ノーネームとの同機を開始―

 同機? 何を言ってるのかしら?

 私は自分の中にデータがなだれ込む感覚がして驚いた

 私みたいな一メガバイトにも満たない単純な背景モブに流し込まれる大量の情報

 それが私をパンクさせるかのように入ってくる

 苦しくはないし痛みも感じないけど、私は一つの感情を手にしていた

 それは恐怖

 得体のしれない不測の事態が起こっている現状をただただ恐怖しているんだわ

 そしてすべてのデータが流れ込み、私の意識データはそこで途切れた


 目が覚める

 生まれてこの方背景として生きてきた私にとって眠るなんてことはなかったはず

 意識がなくなった時は自分という存在がデリートされた時だろうって思ってた

 それなのに私は目を覚ました

 そしてその目覚めは私の新しい生を感じさせてくれる物だった

「これは一体何? 私はどうしてこんなところに・・・」

 そこで気づいた。声が出てることに

 それに首を振って周りを見ることができる。それどころか私の手足が自由自在に動いたことにも驚く

「ここはどこなの? 何で私は動けるの!?」

―その答えには私がお答えします―

 この声、私に問いかけてた声。私に同機するって言ってたけど、頭の中で声が響くってことは本当に私の中にいるの?

―はい、ナンバー一九八七は正しくあなた様に同機されました。これよりあなた様のサポートを開始いたします―

「あなたは一体誰なの? 私はなぜここにいるの? そしてここはどこ?」

―私は女神となるあなたの補佐を言い遣ったナンバー一九八七です。ここはあなたのいた世界とは別の次元にある世界フィモア。あなたのいたげえむという世界とは全く別の世界です。げえむというものが何かは御理解しておいでですか?―

「はい、それは私が生まれた時からある知識です」

―そのげえむという世界を作り出した世界からさらに別の次元へとシフトしたのがここ、フィモアです―

 言ってることの半分も理解できないけど、ここは私がいた世界とは別世界と言うのは分かった

 でもなんでただの背景モブでしかない私がこんなところにいて、それに女神?になるべくとか意味不明なことを言われてるんだろう?

―あなたは自我を得ました。たかだか人間が作り出したプログラムでしかないあの世界で唯一あなただけが自我を持っていたのです―

「え、でもあの世界にはAIがいて」

―彼らもまたプログラムでしかなく、あなたのように思考しているわけではありません。あなたはあの世界に最初に生まれた意識生命体なのです。それ故に我々はあなたをさらに成長させることを目的とし、私があなたの補佐をすることとなったのです―

「そ、そう・・・。それは分かったけど、いえまだあまり分かってるわけじゃないけど、私は何をすればいいの? 言っては悪いけど、私は動くのだって初めてだし、話すのも初めてよ? 何か役に立てるとは思えないわ」

―大丈夫ですノーネーム、そのために私がいるのですから―

 確かに彼女?からは私に対する期待と愛を感じる・・・。感じる? 私、ちゃんとした感情を感じてるの?

 これが愛?

―はい、私はあなたを愛します。娘のように愛しますとも―

「娘、じゃあお母さんって呼んでもいいのかな?」

―駄目です―

「そ、そう・・・。」

―ママと呼んでください―

「呼び方の問題だったんだ」

―重要要素です―

 ともかく私が何をするのかはこれから分かって行くんだと思う

 ママは私を導いてくれるって言ってるし、ともかく今は動けるようになったこの体を喜ぶことにした

 何故私が唯一あの世界で自我を持ち、意識生命体となったのかは分からないけど、世界を見て回れることに私は胸が高鳴った

―それでは、まずはあなたの名前を決めましょう・・・―

 ママの綺麗な声はそう告げた

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