第4セット、独特過ぎる応援がある学校
春の大会個人戦に入り、武蔵村山6中は河西陸、山崎那月の3年生はシングルスの出場となった
なお、団体戦は1年生が入部したばかりでユニフォームも揃っておらず出場はしていない
第4セット、独特すぎる応援がある学校
バドミントンの試合形式は
21点先取3セットマッチ、ラリーポイント制が基本である。
たが中学生の大会、特にブロック大会では15点で行う場合が多い。参加人数次第では1回戦は11点という場合もある。決勝トーナメントや都大会では21点となる
………
審判「イン、ポイント、スリーラブ」
河西「よし!」
1年生「ナイショーでーす!」
河西3-0高田
河西はドロップとクリアーを組み合わせ、高田は前後左右に振られてミスショットが繰り返される
1年生「いっぽーん!」
河西「はぁい!」
高田は既に声を出さなくなった。たった3ポイント取られただけだが、レベルの差は歴然である
ネット際に落とされた時、高田は踏ん張り切れずにもう一歩出てしまう。余程高いロブを打たない限りコートのセンターに戻る事も、後ろに下がる事もキツくなる。時間にしたらその一歩はコンマ数秒なのだが、そのコンマ数秒が致命的なのだ
河西「…よっ!」
パンッ!
高田のフォア側にスマッシュ、そして高田は何とか当てるが、シャトルは無惨にもコートの外に向かってしまう
河西「ぃよしっ!」
審判「ポイント、フォーラブ」
1年生「ナイショー(ナイスショットの略)でーす!」
一輝(ま、何かアドバイスとか俺から言う必要はないな。そんなに付き合い長い訳でもないし)
放送「5中、山崎くん、1中、田中くん、第1コートです」
一輝「んげ、試合かぶっちゃったよ。千明、ラケットとシャトルくれ。俺が試合前練習の相手するから」
千明「あ、はい」
前の試合が終わり、審判が揃うまで軽く練習する事は暗黙の了解となっている。だがその練習相手が顧問やコーチという事は滅多に見かけない
一輝は一応試合用の黒のポロシャツ短パンではあるが、完全に場違いな感じのおっさんである
一輝「んー、じゃあ…ドライブからやるか」
山崎「はい!」
ターンターンターンターンターン…
山崎は少し腰を落としフォアハンドで打つ、一方一輝は若干フォア側でも全部バックハンドで捌いていた
一輝(んー、やっぱ厳しいな…)
同じように隣でドライブを打っている対戦相手をチラ見するが、2人どちらが相手でも山崎は勝てそうには無い
一輝「じゃあヘアピン」
山崎「あ、はい」
一輝はワザと甘い球を出す。それを丁寧にヘアピンで返す山崎
一輝(河西くんは大丈夫だろうし、とりあえずはこの子を応援していよう)
一輝「よし、審判来そうだしスマッシュ打って」
山崎「はい」
パンッ!
一輝「よっ!」
山崎が打ったスマッシュをそのままレシーブでロングを返す
…パンッ!…パンッ!…パンッ!
山崎が打つスマッシュはコースも高さもバラバラだが、全て同じ所に一輝はロングのレシーブをする
一輝(そういやこれが出来る様になったのいつからだろう…?俺が中学の時はスマッシュアンドショートだったよな…)
スマッシュアンドショート…スマッシュ→レシーブ→ロブ→スマッシュ…と、交互にスマッシュを打つパターン練習の事
一輝は最後に甘いロブを上げ、山崎に気持ち良くスマッシュを打たせた
一輝(嗚呼…俺もおっさんになったのか…ヤダヤダ)
審判「集まってください」
……………
第1セット
田中15-6山崎
河西「お疲れ様です終わりました」
一輝「おーう早かったな」
河西「どうっすか?」
一輝「んー、んー…まあ厳しいかな」
河西「しょうがないっすよ。アイツ進学校に行くために塾通いですから」
河西「アイツ、偏差値68なんすよ」
一輝「ほへー」
河西「ホントは3年生になった時に部活辞める予定だったんですけど、『1回も勝ててないから』って、続けてるんですよ」
審判「セカンドゲームラブオールプレイ」
1年生「どんまいでーす!」
田中6-1山崎
相手校応援A「ラッキーラッキーチョーラッキー!」
相手校応援B「ハイハイハイ!」
金子「うぜ!」
向こうに聞こえる様に声を出す金子
一輝「おい、相手にすんな」
金子「…はい」
明らかに不貞腐れる金子。一輝は大人の圧力で説き伏せた
田中9-2山崎
対戦校応援A「ヘーイヘイヘイチョーナイショー!」
一輝は表情こそ出さなかったが、本心では顧問を呼びつけその場でぶん殴りたい一心だった
一輝「山ちゃん!1本、1本取ろう!落ち着いていこう!」
1年生「ファイトォ!」
山崎「…はい。よしイッポーン!」
山崎は今までで1番大きな声を出した
…………
スポーツセンター駐車場
一輝「あ、もしもし河合です。はい、はい、ええ、山崎くんは1回戦で、河西くんは3回戦で…はい、はい、かしこまりました。それでは失礼します」
一輝「はい、整列」
一輝「えーと、今回は決勝トーナメントに進めなかったけど、次は夏の大会かな?最後に悔いのないように頑張りましょう」
一輝「あと、色んな学校があって、色んな応援がある。正直ムカつく応援をするところもある。たけど、そんな学校は都大会に行けるレベルじゃないし、行ったところで1回戦負けだ」
一輝「ムカついたなら勝て。ぶっ倒せ。圧倒的に、だ。1点もやらなきゃムカつく事も無い。な?金子くん」
金子「…は〜い」
一輝「1年生は基礎打ちもママならないレベルだ。試合で負けたら審判をやらなきゃいけない。そのルールも覚えてない。それがこんなつまらん煽りに乗って喧嘩を買うんじゃない。わかった?1年生」
1年生「はい!」
一輝「千明、お前はみんなと一緒に帰ってろ。試合見てても構わねーし。俺はちょっと用事があるから」
千明「うん、わかった。もうちょっと見てる!」
千明「みんなどうする?」
佐々木「俺は宿題やってねーから帰るわ。親がうっせーし」
金子「俺も〜」
田中「千明ちゃんが残るなら一緒に見るよ」
伊藤「…オレも残る」
体育館2階通路
応援席はおろか、通路にまで荷物が置いてある
中学生の大会なんてそんなものだ
田中「あ、あそこが空いてる!」
3人はやや端の所で試合を眺める事にした
千明「…ねえ伊藤くんはなんでバドミントン部にしたの?」
伊藤「………」
千明「あ、嫌なら答えなくてもいいよ!」
伊藤「…本当は柔道部に行く予定だったんだけど、オレ痛いの嫌いだから…」
千明、田中「…ふふっ、アッハッハッハッハ!」
伊藤「…骨折は痛いぞ…」
千明「ええっ?骨折した事あるの!?」
伊藤「…ああ」
伊藤和馬、彼は小学生の頃、柔道では将来を有望される程の選手だった。しかし6年生の全国大会で相手の投げを左手で庇おうとした時に手首を骨折。以降大会に出場していない。
伊藤「…ほら」
左手首を見せる伊藤
千明「うーわっ!」
生々しい手術の傷痕が残っている手首だった
握力が戻らない。特に親指の力が
両親は一晩中泣いた。将来、オリンピックで活躍するかもしれない逸材だったのだ
伊藤「…でも、利き手はあるから…何か…やってみようと思って」
千明「………凄いじゃん!僕だったら嫌になって学校も行かなくなっちゃうよ!」
伊藤「ん?…んん…」
気恥ずかしく試合を眺める伊藤和馬であった…
登場人物
河合千明(主人公)、1組
佐々木翔平(部員)サウスポー、1組
金子勇人(部員)体力バカ、エロ、2組
田中祐希(部員)チビ、3組
伊藤和馬(部員)パワー系、無言、3組
牧原飛鳥(1年女子)1組
宮田ひなこ(1年女子)2組
岡本萌(1年女子)3組
小野胡桃(2年女子エース)
河西陸(3年生男子)
山崎那月(3年生男子)
中澤麻耶(3年生女子キャプテン)
高梨修一(部活顧問)58歳
河合一輝(主人公の父親)
次回!新たなる目標に向けて本格的な練習が始まるゴールデンウィークに突入する
第5セット、汗で透けちゃうブラホック!
お楽しみに!