07
タクシーは走り続けている。
だが、窓から見える景色は、先ほどから全く同じものだった。
彼女が車に乗り込んでから十数分。もうそろそろ高速に乗ってもおかしくないころなのに。
「……あなたが本当に行きたいのは、警察なんじゃありませんか?」
ひゅっ、と音を立てて彼女は息を呑む。
大きな瞳がみるみるうちに凍りつくのを、孝男はバックミラー越しに冷静に見つめていた。
彼女は我に返ったように窓に張りつき、外の景色に目をこらした。
そしてようやく、車が辺りをぐるぐる回っているだけだとに気づいたようだった。
白い卵型の整った顔に、怯えの色が浮かぶ。
「違う」
気の毒なほど震える声で彼女は喘いだ。
「違います」
孝男は無言でハンドルを切り、もと来た道を引き返す。
そのとき隣の車線から、対向車のライトの光が車内に差し込んだ。
彼女は鋭い悲鳴を上げ、自分の膝に頭をぴったりとつけて、うずくまった。
身を縮めて頭を抱え、がたがたと震えている。
孝男は道路脇に車を停めて、彼女を振り返った。
車が停まったことに気づいた彼女は、身を揺するようにして、悲痛な声で叫んだ。
「いいから早く行って下さい!行って!!」
孝男は黙って、壊れんばかりにわなないている彼女の小さな背中を見つめていた。
長い髪が肩をすべり落ち、細い首筋と白いうなじがあらわになっている。