05
女性は人形のように動かず、まばたきもせずに座っている。
「パーティーか何かですか?」
白いブラウスに淡いピンクのスカートという女性の服装をバックミラー越しに確認し、孝男は慎重に声をかけた。
タクシードライバーとの会話を嫌がる客は多い。
それも、孝男のしたような質問はかなり不躾な類いだった。
だが、彼女はそれにすら気づいていないようで、車窓を流れる銀の雨粒を眺めながら、おざなりな返事をした。
「あ……はい、ええ」
孝男はそっと眉を寄せる。
こんな遅い時間からパーティーが行われるとは思えない。
放っておけ、と心の中でもう1人の自分がささやきかけてくる。
彼女がどこへ行って何をしようと、単なるタクシードライバーである自分には関係ない。
わざわざ高い料金を支払って遠くまで行ってくれるのだから、こちらとしてもありがたい。
初対面の他人同士、ましてや客と運転手なのだ。プライバシーに踏み込まなのが礼儀というものだろう。
だが、孝男はどうしても彼女をこのまま放置しておくことができなかった。
年頃の女性を――それも、見るからに窮地に立たされている女性を捨て置くことに、罪悪感を覚えないではいられなかった。
『お父さんはお人好しすぎるのよ。だからうっかり騙されたり、裏切られたりするんじゃない。
損ばかりして、悔しくないの?』
しっかり者の娘に、そう言われたことが何度かある。
そのたびに孝男は、あいまいな笑顔で言葉を濁してきた。
悔しいことがないわけではない。怒りを感じたり、辛いこともある。
家族に迷惑をかけてしまって、情けないと思うこともたびたびだ。
けれど仕方ない。これが俺の性分なのだから。
孝男は決心して顔を上げた。