表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

8話  無理やり?



「は…?」



ブロンド髪の女性の口から飛び出た言葉に、楓は一瞬、彼女が何を言っているのかすら、認識する事が出来なかった。


無意識的に、彼女の本能は彼女の常識を壊すまいと、防御壁を張り巡らせていたのかもしれない。


彼女の顔から、血が引いて行く‥。


しかし…その努力も虚しく、現実は無情にも、ここが『楓の住んでいた世界とは違う世界』だという事をあらわにする。



「私たちの体内にある魔力器官が正常に動いていなければ、今頃あなた…ミイラにでもなっているでしょう?!」


「へ…?み…ミイラって…。」


「…はあ?…流石に『ミイラ』の意味くらいはわかるでしょうねぇ?」



ブロンドの髪の女性が、楓の事を睨みつけるように見つめる。


威圧を含んだ視線を感じながらも、楓はブロンドの髪の女性の言葉に、律儀にも答える。



「えっと…確か包帯でグルグル巻きになったやつ…。」


「そうね。干からびた死体の全身を包帯で巻いたもの…もし、本当にあなたの体内に魔力がないんだとしたら…『そうなっていなければおかしい』のよ。」


「そ、そんな事言われても…!魔力なんてもの、私は持ってないし…そんなのあるはずない!だって、科学の発展したこのご時世よ?!今更そんな夢物語を信じろって言われたって…。」



ブロンドの髪を持った女性の言葉に、楓は堰を切ったような勢いで、自分の『常識』を語り出す。


…その声は終始、悲痛を感じさせるような…焦燥感に駆られたような声色だった。



「…そうね、そうなのかもしれない。」


「シレーヌ?!あなた、何を言って…」


「わからない?…もしかしたら、この子は『この世界の住人』ではないのかもしれないって、私は言っているのよ。」


「は?そんな事あるわけ…」


「あるわけが無いと…あなたはそう、断言できるの?」



シレーヌさんの冷たい瞳が、ブロンド髪の女性を見つめる。


シレーヌさんの目からは、何の感情も読み取れない。まさに…『無』だ。


美人の無表情とは本当に恐ろしいものだ…と、アイリーンはこの状況にも関わらず、そんな呑気な事を考えていた。


一方、ブロンド髪の女性はシレーヌに見つめられたまま、今現在まで一言も喋らない…いや、喋れなかった。


何処となく、ブロンド髪の女性には、シレーヌが起こっているように思えたのだ。


「これ以上、この少女について言及しないで。」



と、シレーヌの瞳が物語っていた。


一体何に、そこまで感情を揺れ動かされているのか、ブロンド髪の女性にはわからなかった。


ただ一つわかる事…それは。


シレーヌにとって、楓という少女が退場してしまうのは、『都合が悪い』という事だけ。


だからだろうか?


シレーヌは先ほどから、長年行動を共にしてきた自分よりも、昨夜偶然にも助けた少女の肩ばかり持とうとする。


不公平だ!どうして…そんな何処ぞの馬の骨ともわからない奴に、心を割いているの?


なんて、ブロンド髪の女性に勇気があれば、そう、声高高にいいはなっていたことだろうが…。



「っ…確証があるわけ…では…。」


「そう…なら、必要以上にこの子を…楓さんを追い詰めるのはよして頂戴。」



必要以上だって?まさか!そこまで過剰に彼女を疑ってかかったわけではない。


…でも、シレーヌがそう言うのなら…きっと、正しい。…正しいはずだ…。


ブロンド髪の女性は、それ以上楓の事について言及しなくなった。



「さて…では、改めて自己紹介をしましょうか。」



シレーヌさんは、さっきまでの論争を、まるで何事も無かったかのように水に流して、淡々と話し始める。



「私はシレーヌ・ウィステリア。私の正面にいるブロンドの髪の女性はラプンツェルよ。ほら、ラプンツェル?」


「…ラプンツェル・オクタヴィア。」


「私はアイリーン・ギースベルト!」



楓以外の3人が次々に自己紹介をしていく。


3人全員の自己紹介が終わった後、少したじろぎながらも、楓も自己紹介をし始めた。



「えっと…私は大東楓。」


「今日からよろしくね!楓ちゃん。」


「え?よろしくって…」


「あれ?シレーヌさんから聞いてない?」


「何も聞いてないよ?」


「アイリーン、楓さんは昨日の事もあって混乱していたから、まだ話していないのよ。」


「…。」



アイリーンとシレーヌが会話をする間、楓とラプンツェルは黙り切っていた。


そもそもなんの話をしているかもわからない楓ならば、会話に入らないのも無理はない。


…しかし、2人が何の話をしているのか『分かっているはず』のラプンツェルは、何故黙りこくっているのだろうか?



「楓さんには、我が社に入ってもらおうと思っているの。」


「…はぁ?!」



シレーヌの口から飛び出た言葉に、数秒遅れてラプンツェルが反応する。


「意味わかんない!」と、もはや悲痛とも取れるような声色で、ラプンツェルは叫んだ。



「その子の名前が本当かも…!何もわからないのに入れるわけ?!」


「えぇ。そうよ。」


「っ!なら、勝手にしたらいいわ!」



そう言って、ラプンツェルはドスドスと盛大な足音を立てて、社長室から出て行ってしまった。


…なんだかんだでシレーヌさんの会社で働くことに決まったみたいだけど…大丈夫かなぁ…。


今後、ラプンツェルとどう関わっていけばいいのか、楓は心配になった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ