7話 あるはずのないもの
「ま、魔力がない…?それって本当なの?」
赤いフードをかぶった女の子が、戸惑いがちにも楓に質問を投げかけてくる。
しかし、楓にはその質問に答える事ができなかった。
(魔力?生きていけない?一体なんの事を言っているの…?)
わからない…わからない事だらけだ。
しかし…
(こんな所に立ち止まっていても…何もわからない…!)
楓は幸いにも、行動力だけは一丁前にあるタイプの人だったため、目の前の扉を思い切って開け放った。
バン!っと、大きな音を立てて、目の前の扉は開かれる。
扉の奥にいるシレーヌと、ブロンドの髪の毛を持った女性は、目を丸くし、驚いているようだった。
しかし、扉を開けた張本人である楓自身も、鳩が豆鉄砲を喰らったかのような、素っ頓狂な顔を晒してしまっていた。
楓の後ろにいた、赤いフードの少女も、楓の突然の行動に驚いていた。
そんな中、一番早く放心状態から立ち直ったシレーヌが、楓に話しかける。
「もう意識が戻っていたのね。」
フッ…と、口角を少し上げ、優しげな雰囲気を醸し出す笑顔を見せてくるシレーヌに、楓はちょっと申し訳ない気持ちになりながら、シレーヌと言葉を交わす。
「は、はい。…その、さっきはごめんなさい。当然倒れて…びっくりしたでしょう?」
「いえいえ…元気になったなら、よかったわ
。」
「…シレーヌ、さっさとこの子を追い出したらどうなの?」
楓の言葉に、シレーヌはまるで自分のことのように喜び、フワリと優しげな笑みを浮かべる。
…しかし、そんな穏やかな時間は続かなかった。
2人の会話に割って入ってきたブロンド髪の女性が、楓の事を指差しながら、「追い出せ」などと言う。
それも、今この場にいる本人の目の前で…。
まさか、ここまではっきりと嫌悪を示されるとは思ってもみず、楓は少しイラついてしまった。
「…何も…何も追い出すまでしなくたっていいじゃないじゃないですか!別に、あなたたちに危害を加えようと思ってるわけじゃないんだし…」
「フン…どの口が言うのかしら?体内魔力保有量が『ゼロ』だなんて!そんな子供でも嘘だと分かるような細工を仕込んでおきながら。」
楓が声を荒げながら、ブロンド髪の女性に抗議をすると、ブロンド髪の女性はまた訳の分からない事を言い出す始末。
(本当に…一体私の何がそんなに気に食わない訳?)
ありもしない事の話をされた所で、楓にはどうしようもない。
「訳の分からない事を言わないでよ!」
「何よ…それなら、貴女がスパイじゃないって証明はあるの?」
「それは…」
と、自分が怪しい人物でない事を証明しようとしたものの…そんな証拠は、どこにもないことに気づいた。
しかし、だからと言ってここで諦めるほど、楓の心は脆くなかった。
「そ、そもそも!魔力だとかなんだとか、そんな訳のわからない事を根拠にされても?信じる人なんで誰もいないじゃないですか!」
「…は?追い詰められすぎて、頭の中がお花畑になってしまったのかしら?」
「頭がお花畑になってるのはそっちでしょう?!」
ついに、ブロンド髪の女性と楓の口喧嘩はヒートアップし、お互いが大声で怒鳴り合う始末に…。
「ほんっとに頭沸いてるんじゃないの?!」
ブロンド髪の女性は、ついに担任袋の尾を切らしたかのように、楓に向かって怒鳴りつけながら、楓が想像もしていなかった言葉を発した。
「そもそも魔力がなかったら、私たちが生きていく事すらままならないでしょ?!!」
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