6話 扉越しの怒声
「め…メシア?厄災?何を言って‥。」
またしても、楓には想像のつかない質問を投げかけてくるソフォスに、楓は戸惑いを隠せなかった。
だからこそ、一体何を聞きたいのか、その質問の意図は何なのか、ソフォスに問いかけようとした時‥。
楓を中心とした周りに、白く淡い光が降り注いでくる。
(あの時と同じだわ!)
以前現実世界に楓の意識が戻った時と同じシチュエーションに、もうこの場所にとどまる事はできないのだと悟る。
でも…最後に、どうしても聞いておきたい事がった。
「あなたは一体、私に何を伝えようとしているの?!」
ソフォスが楓に語りかける時、決まってソフォスは、楓の反応を伺うかの様に黙る時があるのだ。
それは多分…楓に何かを伝えようとしている…いや、気づいてほしいと願っているからなのではないか?
楓はそう思ったのだ。
ソフォスは何が言いたいのか?楓に気づいて欲しい事とは何なのか?
「そうだね…次また、君が訪れてくる様な事があれば、その時に答えてあげよう。」
「待って!」
「また次の機会…その時は『アリス』を連れてくると良いさ。」
光に吸い込まれていく様な感覚がした後…楓は夜の闇に包まれた。
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バラバラになっていた意識のピースが一つづつ埋まっていく様な感覚と共に、楓の意識は浮上した。
ベッドの様に柔らかくない、少し硬めの感触を背中に感じながら、楓は上半身だけを起こす。
(ここは…?シレーヌさんのいた、あの場所じゃないみたいだけれど‥。)
どうやら自分はソファに寝かされていたみたいだ。
楓は自分の寝転がっていたソファを見ながら、現状を確認しようとあたりを見回す。
(休憩室…って所かしら?…迷惑、かけちゃったかな‥。)
命を救ってもらって、その上突然気絶してしまった自分を放置する事なく、しっかりと面倒を見てくれたなんて…。
これはもう、シレーヌさんの方に足を向けて寝られないな…なんて、ちょっとふざけた事を心の中で呟く。
(でも…どうしましょう?)
ソファから立ち上がり、少し広めの休憩室を見回すが…人っ子ひとりとしていない。
休憩室から社長室までの道のりなんてわからないし…シレーヌさんと、あの赤いフードの女の子にお礼を言おうにも、当人達がいないのだからどうしようもない。
一人この部屋に残されている楓は、ただジッと、誰かがこの部屋を訪れてくるまで待つしかないらしい。
(それにしても…暇だわ。)
なんせ暇をつぶせるものが何もないのだ。そりゃあ、退屈にもなるだろうさ。
しかし…だからと言ってどうしようもない。
この世界…というか、そもそも本当にここは何処なのだろうか?
(突然本から淡い光が漏れ出して……もしかして、これっていわゆる転生?転移?)
最近のラノベでもお約束展開の、転生トリップ系作品だろうか?…とすると、楓自身がその物語の主人公、ということになるが‥。
(流石にそんな事…あるわけないわね。)
自分に都合の良い夢を見ているわけでもないのだ、想像の産物である転生なんて、起こりっこない!…多分。
そんなこんなで、有り余る時間を自分の想像力だけで潰そうとしていると…。
「あ、起きた?」
ガチャリ、とドアの軋む音が部屋の中に響き、その音と同時に、赤いフードが特徴的なあの女の子が現れた。
「えぇ…急に倒れてしまって、ごめんなさい。」
突然、さっきまでピンピンしていた人物が、急に目の前で倒れるだなんて…下手すればトラウマものだろう。
ちょっと申し訳ない気持ちが込み上げて来て、楓は咄嗟に謝罪の言葉を口にする。
しかし、赤いフードの少女はそんな事、これっぽっちも気にしていない様で、まさに活発な女の子!と言った感じで楓に話しかけて来た。
「いえいえ!お礼を言われるほどのことでもないですよ〜。それより、もう一回ついて来てもらえないですか?」
「わかったわ。」
多分、先ほどできなかった話の続きでもするのだろう。
先を行く、赤いフードの少女の後を、楓は少し緊張感を抱きながらついて行った。
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社長室の扉の前に、楓と赤いフードの少女がついた時、扉の奥から微かに、言い争いの声が聞こえて来た。
こんな状態の中で、本当に入っても大丈夫なのだろうか?
怪訝な顔を赤いフードの少女に向けると…赤いフードの少女も、戸惑っている様だった。
多分、赤いフードの少女も、扉の奥にいる人物達が言い争っている事を知らなかったのだろう。
(これは…言い争いが収まるまで待ったほうがいいよね…?)
扉の奥から聞こえてくる声に耳をすませて、部屋に入るタイミングを伺っていると‥。
「だから!正気なのかって聞いてるのよ!」
聞き覚えのない声が、扉越しでもはっきりと伝わって来た。
ビリビリと体が痺れるほど、その人の声は大きくそして、怒りを含んでいた。
しかし、次に聞こえて来た声はとても静かに、あくまでも冷静沈着な声で言葉を紡いでいた。
「…正気に決まっているでしょう?私の決定に、一体何が不満なのかしら?」
「不満?!あなた本当にどうかしているわ!」
冷めた声色を放つその人の声は聞き覚えがあった。
(シレーヌさんの声だ‥。)
威圧を含んだその声は、感情的になっている人に負けず劣らず大きな声で響いていた。
しかし、いくら大声を出せども、その声色空見えてくる本質は『冷静』だ。
不気味なほどに…いっそ傾倒したくなるほど、どこか惹かれるシレーヌさんの声に、感情的になっている人は、さらに言葉を紡ぎ出す。
「魔力を持ってない生き物なんて、『この世にいるわけない』じゃない!!」
ここまで読んでくれてありがとうございます。
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これからも、読者の方々が『面白い』『気になる』と思っていただける様な作品を作っていきたいとおもてtます。
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