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4話  捕食者の瞳



「は…?」



問われた質問の意図がわからず、楓は口を開けたまま、間抜けずらを晒してしまう。


しかし、そんな彼女の様子を気にする事もせず、声の持ち主は尚も質問を続ける。



「ああ…これでは分かりにくいかい?そうだね…君は迷い込んだ『アリス』なのか、この世界に生きる無数の『住民』なのか、それとも…『王を守る騎士』なのか…。」


「い、一体何を言って‥。」


「ボクはただ、君の本質について知りたいだけさ。好奇心からくる探究心、と言った所かな?」


「本質って言われても…あなたが言っているアリスだとか騎士だとか…一体何の事を表しているのかさっぱりわからないわ。」


「そうだね…。」



と、声の持ち主がさらに言葉を続けようとした時…。


急に辺り一帯に光が降り注ぎ始めた。


淡く白い光は、主に楓を中心にして照らしていた。


声の持ち主はその様を少しの間眺め、そして口を開いた。



「うん…どうやら時間の様だ。…次会うまでに、君の本質を見つけられると…ボクとしても嬉しいかな。」


「ちょっ‥!まだ話は終わってないわ!」


「では…Hwyl Fawr(ホイル ヴァウル)!」



声の持ち主のその一言を聞いてすぐ、楓の意識は夜闇の中に溶け込む様にして、消えていった。



ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー



「待って!!」



声の持ち主を引き留めようと声を出した。


しかし…楓の視界に広がった光景は、先ほどまで見ていた暗闇とは似ても似つかない…明るい日の光が入ってくる部屋であった。


背中に柔らかな感触を感じながら、今度こそ、本当に自分が起きているのだという事を確かめたくて、寝っ転がった大勢のまま、自分の頬をつねってみる。



「いたた…。」



ちょっと手加減をしながらも、確かに頬に痛みが走る。


(あの声の人の言っていたうつしよ?に戻ってきたのかしら?)



ベッドから体を起こし、部屋を眺めてみた。


部屋の中には、本当に生活する上での最低必需品しか揃っていなくて…明らかに、今まで使われていなかった部屋なのだと一眼で分かってしまった。


(…あれは、夢じゃなかったのね‥。)



恐怖に駆られ、逃げ回ったあの時の事…全て、本当に起きた事だったのだろうか?


疑いたくても、ここが自分の部屋ではない…全く見知らぬ場所だという事が何よりの証拠な気がして、楓はあの恐ろしい出来事を否定できなかった。


とはいえ…これからどうすればいいのだろうか?


図書館で見た…あれ?



(そういえば…あの時図書館で見てた本…なんて題名だったっけ?)



そこまで長い時間が経ったわけでもあるまいし…楓が特別、物忘れがひどい体質なわけでもない。


むしろ、楓は記憶力がよかったはずだ。それなのに…こんな短期間で、それもありえない事を起こした張本人…いや、張本物?の事を忘れてしまえるだろうか?


必死にあの本の題名を思い出そうと、楓が頭を捻っていると…



「あれ?もう起きてたんだね。」



赤いフード付きのポンチョを着ていて、ポンチョについているフードを軽く被った、茶髪でセミロングの髪型をした少女が、楓が眠っていた部屋に入ってきた。


突然現れたその人に、楓は驚き、布団の中に入って縮こまった。


(昨日見た人だ…どうしよう…私、殺されちゃうの?)



ガタガタと震える体を押さえつけようと、布団の中でさらに身を縮こまらせようとするも…これ以上体を丸める事はできなかった。



「あー…怖がってるし、あんまり無理強いはしたくないんだけど…シレーヌさんが呼んでるから、ちょっとついてきてくれないかな?」


「…シレーヌ?」



せめて苦しませずに殺して…なんて、楓が考えていると、赤いフードの少女の口から、聞き覚えのある言葉が出てきた。


思わずその言葉に反応してしまい、その直後、反応してしまった事を後悔していたが‥。



「本当に何もしないから!ただ…一応、こっちで保護しているわけだし、それに…何よりシレーヌさんが開いたがってるからさ。」


「…何も、しない?」


「うん。だからさ、お願い!連れてこないとあたしが怒られちゃうよ〜。」



布団からちょっとだけ顔を出し、少女の顔色を伺いながら言葉をかける楓。


赤いフードの少女は両手を合わせ、拝む様なポーズをとりながらかえでに頼み込んできていた。


…信じてみるのもありか、と思い、楓は赤いフードの女の子に従って、その部屋を出た。



ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー



あの部屋を出てから12分ほど歩き、シレーヌさんが待ち構えているという建物に来ていた。


大体3階建くらいだろうか?そのくらいの大きさの建物の看板には、『リューグナー』と書かれている。


(ここの名前…かしら?)



変わった名前だな…なんて思いながらも、赤いフードの少女に導かれて先へ進んでいく。


建物の中に入り、階段を一階分上がった先で、『社長室』と書かれたドアプレートを見ながら、楓はその先にいるであろう人物のことを考えていた。


(命の恩人なのに…お礼も言えなかったもの。ちゃんと言わないと。)



赤いフードの少女が扉を叩く。


コンコン…と、軽快な音を響かせた後、少女は入室の声がけをする。



「ああ…来てくれたのね。」


「ちゃんと連れてきましたよ〜。」



赤いフードの少女とシレーヌさんは、軽く言葉を交わす。


フードの少女との談笑が済むと…シレーヌさんの瞳はかえでを捕らえた。


ドキリ…と、心臓がより一層大きく跳ねた気がした。


だって…シレーヌの瞳が…



『まるで、獲物を捕らえた捕食者の様にぎらついていたから』




今回出てきたHwyl Fawr はウェールズ語です。

元々ブリテン島で使われていた言語がケルト語というもので、そこから変わってウェールズ語になったっぽいです。

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